鞄から取り出したポケットティッシュを丸めて輪ゴムをつける。黒いペンで目と口を書いてあげれば完成。小さい頃の雨の日によくした行動に自然と笑みがこぼれた。上機嫌でカーテンレールに飾って窓を覗けば相変わらずの雨でそれは急降下。
「てるてるぼうす久しぶりに見たなぁ」
「夜久ちゃんも作る?」
「うーん、じゃあ」
体を反らして机の上にあったティッシュを手のひらで丸め始める夜久ちゃん。そこから視線を横にずらすと、交わらないそれ。たどっていくと私が作ったてるてるぼうすに。なんか変だったかと尋ねれば伏せた口がゆるゆると開いていった。
「てるてるぼうすって顔書くのは晴れてかららしい」
「なにそれ。それじゃあだるまじゃん」
ほんとだって。嘘だぁ。くだらないやり取りを飽きないで続けていれば目の前に差し出されたそれ。普通てるてる坊主にはないしろいもじゃもじゃ。それはまるで二人の後輩である山本くんにそっくりで思わず吹き出した。黒尾に至っては珍しく腹を抱えて笑っている。傑作中の傑作と自慢気な夜久ちゃんは第二弾を作り始めたのでもじゃるぼう(黒尾命名)をさっきつるしたわきに飾ってあげた。
「できた!」
「おっ、次は…って私?」
「そっくりじゃん」
確かにそれは私の特徴である癖毛がよく表現されていた。よくも悪くもそっくりであるそれを飾る気になれなくて指先で遊ぶ。突然いなくなったてるてるぼうすは代わりに黒尾の指元へと移動。持ち上げるようにして下から眺めているのを見ているとなぜか居たたまれない気持ちになって黒尾から奪い取った。それをじっと見下ろしてから視線の先に自分の髪に写すとやっぱり癖毛。母親譲りの一番のコンプレックスである。
「ストレートに生まれたかった…」
「は?」
独り言として呟いたそれは黒尾に掬われてそうではなくなってしまった。嫌なの、この髪。自重ぎみに笑うとなぜか毛先が持ち上がる感触。
「俺は可愛いから好きだけど」
「…黒尾に関係ないし」
「はいはい」
自分以外が髪をいじるのが妙にくすぐったくて机に顔を伏せた。恥ずかしいのに気持ちいいとか、変なの。猫みたいと笑う黒尾にばれないように自分と同じ形をしたそれを握りしめた。
てるてるぼうすの恋
(お、快晴快晴)