私は梅雨が嫌いだ。私の首元で外はねする髪の最大の敵である。目の前に落ちてくる雨はいっこうに止もうとしない。それどころかむしろ勢いを増す一方だ。諦めて下駄箱を背にしてひとつ大きく息をはく。幸せが逃げるだろうがなんだろうが、私の幸せはもう逃げてしまっているので関係ない。大体、なんで今日に限って傘を忘れてきてしまったんだろう。いつもなら鞄に入れっぱなしのはずの折りたたみ傘もついこの間鞄から出して放置。後悔しても後の祭り、仕方ないダッシュで帰ってお風呂入ろう。運動部なめんな。


「岡崎?」

「あ、黒尾」


鞄を頭上に振りかぶり、スタートダッシュの準備をしていると見慣れた赤いジャージ。隣の席の黒尾くんではないか。その姿を見る限り私と同じく部活帰り。バレー部は帰りもつるんでるイメージがあるから一人なのは珍しい。まぁ、そんなことより今の私には豪雨ダッシュという任務があるのだ。急がなければ。
短く別れを告げて走りだそうとすれば根っこを捕まれてスタートラインに逆戻り。思わず出た声は女の子とはかけ離れていたことは気にしないでほしい。


「なにさ、私急いでるんだけど」

「お前傘は?」


首を横に振るとさっき私が出したのくらい盛大なため息をつかれた。ええええ、なんて理不尽な。


「ホラ」

「?なにコレ」

「なにって傘以外のなにに見えるんだよ」

「いやそうじゃなくて、」


なんで黒尾の傘が私の手にあるの。黒尾は折りたたみ傘も持っているらしく、貸してくれるのはとてもありがたいがどうして私がこっちなんだろう。折りたたみ傘でいいという申し出もスッパリと一刀両断された。仕方がないのでありがたく傘を開くとなぜか動こうとしない黒尾。


「黒尾、帰らないの?」

「あー…、俺まだ教務室に用あんだ」

「あ、そうなんだ」


眉を下げながら笑った黒尾にもう一度お礼を言ってから帰路につく。まだ、雨は止みそうにない。






こんな雨の日には






(黒尾、昨日はありがとう)

(どういた…ックション!)

(え、大丈夫?風邪?)

(あー、気にすんな…ハクション!)




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