セカンドからサードに走ればいいらしく塁の脇で軽くウォーミングアップ。その間に百江さんが説明するらしくベンチの周りでなにか会話中で。終わったかと思えば全員でこっちに全力疾走。花井の合図で一度に十人の男子に頭を下げられた。軽く流すように返事をすればぞろぞろと守備位置に戻っていく。そのなかでうるさいのが一人。


「淕って50メートル何秒?」

「6秒3だけど」

「うっわー!はえー!」


自分を差し置いて人を褒めるとは。笑いなんてしないけど素直にお礼を言うと喜悦の笑みを浮かべた田島。しかしどうしてか、なかなか私から離れようとしないので言おうとしたときにはもうすでに引きずられていた。もちろんそれは田島ストッパーの泉である。


「悪いな、智海」

「いや、泉が謝ることじゃないから」


うるさいままの田島を引きずっていくのを見て泉は大分私になれたなぁとどうでもいいことを思った。最初は田島が私のところへ来る度にとても申し訳なさそうにしていたが、いつのまにか普通に接してくれるようになりなによりだ。三橋くんはまだまだだけど。
そんなことを思念してるうちに百江さんがバッターボックスに入った。今回は打った瞬間走っていいらしくそれに耳だけで集中する。唯一見据えるのはサードベース。キィン、金属音を合図に足は稼働する。塁をとらえたのはそれから遅くなかった。足に振動する独特な感触に顔を上げると、まだ田島のグローブには収まってないボール。それをたどろうと体を反転させればなぜか口を開いてこちらを見つめる一同。いったいどうしたのか、田島に尋ねようと体をもとの位置に戻そうとすれば肩に少しの衝撃。


「すげぇ、淕!かっこいい!」

「え、そう」


すげぇすげぇと飛び跳ねて喜ぶ田島の声にみんなは気がついたかのように目を瞬かせた。かと思えば私の周りに集まってきて質問攻めの嵐。……とにかく落ち着いてほしい。





* * *





何時間たったのだろうか、辺りはすでに真っ暗で。練習が終わり、それぞれ散らばって行く中、ベンチの辺りでカバンをいじる智海さんに近づく。運よく先に気づいてくれた彼女はペットボトルのフタを緩めながら俺に向き合った。


「智海さん、今日はありがとうございました!」

「あー、うん」


曖昧な返事をした智海さんに敬語はいらないと言われ、軽く頷く。名前を呼ばれて困惑したのは顔に出さないようにして体勢をあげると不敵に笑った智海さんに思わず視線は奪われた。


「期待してるよ、花井」


不意をつかれた一瞬だけ置かれた手を追えば背中を向けて監督と篠岡のもとへ行ってしまった。


「なー、花井」

「うわっ!?田島か…、なんだよ」

「淕となに話してたんだよ」

「いや、ただお礼してただけだけど…」


ふーん、と漏らした田島はいつも通り智海さんに向かって走っていった。
…気のせいだろうか、田島が不機嫌だと思ったのは。


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