宇宙のなかのちいさな地球という乗り物には約69億人の船員がいるとされている。そのうちの何人と出会うかなんて全くわからないけど、生きていればいろんな人がいる。例えば、そう。こんなふうに失礼な奴だっていないわけがない。
「なぁなぁ、いいだろ?」
「私バイトしてるから無理だし、いきなりなんなの『田島』」
「えー!?」
「え…、なんでこいつの名前、」
視線を少し右に逸らすと、確か…泉、が驚いた顔をして目を瞬かせていた。その後ろには茶色のネコ毛をした三橋くんがキョロキョロしている。鼻にソバカスが田島で、頬のソバカスが泉。で、そこでキョドってるのが三橋くんでしょとご丁寧に説明すると田島は私に詰め寄ってもう一度マネージャー!と言った。
断る私にえーっ!と盛大に項垂れる田島を見てため息を漏らすとその音が重なって、泉がしまったという顔をして口元をおさえるので思わず吹き出してしまった。田島のことを失礼って言っておきながら私も大概かわらないらしい。
「淕野球嫌いなの?」
「嫌いじゃない、むしろ好き。中学までシニアでやってたから」
だからマネージャーなんて、そんなこと言われたらぐらりと揺らいでしまう。やっぱり私としては見るのよりやるのが一番いい。
一歩踏み出して今度は田島じゃなく、その後ろにいた人物を視界にとらえ、まっすぐに見た。これがここのエース、になるとされている人か。面白いほどにキョドってる。本当、に、おもしろ…。
「ふっ」
「っ!?」
「ふは、ごめんツボった…。……はー、三橋くんってなんかいいね」
「え、えと、」
ありがと、う?ぎこちなく返してくれた三橋くんに再び笑いが込み上げてきた。落ち着いたのを確認して改めて三橋くんを見据える。今度は逸らさないで見返してくれてこっちが少しだけした動揺は胸の奥にしまいこんだ。
「三橋くん今度さ、君の球打たせてもらっていい?」
「…え、で、でも」
球、遅いから、がっかり、する。合わせたそれを自ら逸らして落ちるような声で呟く。声をかけようとして口を開くと。
「いーじゃん!俺も見てみたい!」
「田島くんっ、で、も!」
「そーだよ、三橋。こいつがしたいって言ってんだから」
「うん。私、三橋くんの球がいいの」
三橋くんはちょっとぽかんとした顔をしてから絞まりのない顔をして二度目のありがとうをする。それを見て田島と泉が嬉しそうに笑って三橋くんの肩を抱いた。
「今度、行くから」
「絶対だからなー!」
田島の声を背中で受け取り、いいチームだなぁって心のどこかで感じているのに、なのに。
なぜかぽっかりと空いた空虚感は離れなかった。