色恋談義
「ねぇねぇ、平助は千鶴ちゃんのことどう思う?」
あまりに唐突な総司の問いに思わず飲んでいた茶を吹く。それは見事に新八っつぁんの膝に飛び、きったぇな、と軽く頭を叩かれた。
「な、な、なんだよ急にっ」
俺が口許を拭いながら返すと総司はにんまりと唇の端を持ち上げた。
夕飯の住んだ大広間、近藤さんと土方さんはさっさと自室に戻ってしまったので俺達だけで食後の茶を啜っていたのだ。そんなとき唐突に総司が変な質問をしてきたのだ。
「別にぃ。たんにどう思うのかな、てさ」
総司は腕を組んでちらりと俺を見た。
どう、て言われても……。
千鶴は可愛いし、いつも真っ直ぐだし、屯所内の雑用もいつも文句ひとつ溢さずやるくらい健気だし、笑った顔はこっちまで元気になるし、と千鶴について挙げたらきりがない。
「どうって、あの、そんな別に変なふうに思ってねぇし。あの、いや、可愛……じゃなくて、なんつぅうの? ほら、だから別に好きとか……」
「僕、別に好きかなんて聞いてないけど」
総司の言葉に軽い目眩を覚えた。こいつ、わざと、だ。わざと唐突に質問し、俺がこう答えるのをわかっていたのだ。
「千鶴ちゃんか。ま、可愛いよな。健気だし、素直だし。可愛い妹分だな」
俺は気を取り直して新八っつぁんの言葉に頷く。誰から見ても千鶴はそういう女子なのだ。
「千鶴ねぇ。ありゃ、後数年したら結構いい女になるんじゃねぇか。ほら、角屋のときだって芸妓の格好、なかなか似合ってたしな」
佐之さんの妙な発言に思わず立ち上がる。
「千鶴をいかがわしい目で見るなっ」
俺の怒鳴り声が広間に響いた後、総司達三人は大笑いを始めた。それがまた癪に障り、何だよ、とまた怒鳴る。
「いやぁ、平助って千鶴ちゃんのこと、ちゃんと女子として見てるんだな、てさ」
総司は笑いを噛み殺しながら馬鹿にしてるんだか感心してるんだかわからない口調で言ってきた。
しかも、そんな当たり前のこと。
……そう、女子として見てるから、この気持ちが芽生えたんだ。
「お似合いだろ、千鶴ちゃんと平助なら」
新八っつぁんが一人で納得したように頷いている。
「よーし、それなら俺が一肌脱いで……」
「そんなんじゃないしっ。やめろ……」
今にも千鶴の元に向かい兼ねない新八っつぁんを制止しようとしたそのとき、まさかの千鶴が広間に姿を現した。どうやら、茶のおかわりを持ってきたらしい。
「楽しそうですね」
揉み合うような姿になっている俺と新八っつぁんを見た千鶴がくすりと笑った。
「何のお話されてたんですか?」
「な、なんでもないしっ」
つい、強めの言葉が出てしまい俺は途端に後悔した。
「夕べの島原での話だから、千鶴には聞かれたくないんだと」
佐之さんの良いんだか悪いんだからわからない助け船に安堵する。
千鶴はそうですか、と信じた様子で新しい茶を淹れてくれた。
「ねぇ、千鶴ちゃん」
不意に総司が千鶴を呼び止める。千鶴はそれにはい、と顔の向きを変える。
「今夜は月が綺麗だね」
にっこりと笑いながら言う総司に千鶴は一瞬不思議そうな顔をしてから、そうですね、と頷いた。
そして、何故かその一言に俺の胸の奥は掻き乱された。
色恋談義。