14.06.21 オルゴール(千鶴×斎藤)
────とても、綺麗だと思った。
初めて見るその箱は見たことのない色をしていて、全面に硝子で細工が施されていた。
青色の硝子は微かに透明で、でもそれでいて自分の色を確りと主張している。
「渡来のものらしい」
一さんがまじまじと箱を見詰める私にそう教えてくれた。
時は明治に変わり、町に出れば渡来のものが沢山打っている。人々は着物から洋装へと変え、髷や女子も髪を下ろしたりしている。
町並みも洋館が出来たり、食べ物も今まで食べたことのないもので溢れている。
その中の一つが、これということだ。
「これ、何かを入れられますね」
私は箱の蓋を開けた。すると、突然、中から音色が聞こえてきた。
「え、え、何ですか、これ」
私は驚き、思わず蓋を閉めた。
開けた瞬間、箱の中から音楽が聞こえてきたのだ。
それは今まで聞いたことのない音で、とても綺麗なものではあったが、驚きは隠せなかった。
「オルゴール、というらしい」
一さんは言いながら、私の手中からその箱を取り、静かに蓋を開けた。すると、また、音楽が聞こえてくる。
不思議な箱だ。
「どういった仕組みかはわからないが、蓋を開けると音楽が鳴るらしい」
一さんは言い、一度蓋を閉めてから、また開けた。
繊細な音が奏でられている。
「不思議ですね。開けたら音がするなんて」
私は一さんから箱を渡してもらい、まじまじと箱を見たが、どういった造りになっているのかは全くわからないかった。きっと、隠された部分に何か仕組みがあるのだろう。
「日本が変わらなかったら出会えなかったものですね」
幕府の敗北が、新選組の敗北が悔しくないわけはない。けれど
開国したからこそ、こうして出会えるものもあるのだ。
「変化が必ずしも悪いわけではない」
変わらないものもある。
その言葉も含まれているように思い、私は微笑んだ。
箱をもう一度開けてみると、また、綺麗な音が聞こえる。
「町でそれを見て、どうしてもあんたに見せたいと思ったんだ」
いつも私のことを考えてくれる一さんは、きっといつまでも変わらないのだろう。私はそのことに嬉しくなり、もう一度微笑んだ────。
「一さんが仕事で寂しいときは、これを聞きますね」
「そうしてくれたら嬉しい」
一さんの穏やかな微笑みも、時代が変わらなければ見れなかったものなのかもしれない。