(可憐さんと周辺の方々との絡みとか、なんでもない小さなお話シリーズ。会話だけ的な感じが多め。)

※ss.一年生ズ襲来。の続きです。








一年生ズ
襲来A。









「寝てしまいましたね。」
「まぁ、明日土曜日だし、夕方から三人揃って任務だから伊地知くんにここにピックアップに来てもらってもいいか。」
「外泊届けは?」
「さっき真希に電話してお願いしといた」




時計は日付を超えて、一時を指した頃。
普段は二人しかいないリビングの床には若者三人が寝転ぶ。すき焼きを食べて買ってきたお菓子をつまみにあれやこれや話していたら、疲れが出たのか三人揃って眠ってしまったのだ。三人にそれぞれ薄手の毛布をかけてやり、七海と可憐は顔を見合わせて困ったように笑う。









「ごめんね、疲れたんじゃない?」
「いえ。疲れていない訳ではありませんが、新鮮でしたよ。」
「そーいえば、敬語に戻ってるよ。生徒たちと話すのはお仕事モードなのね」
「そう言う訳じゃない。」
「じゃあ、なに?」
「子供の前ではちゃんと振る舞うべきだと思っただけだよ。」
「さっすが、大人の中の大人、七海さん。」
「やけに突っかかるな」
「ははっ、ちがうよ。からかってるだけ」


ダイニングテーブルに腰掛けて、頬杖をついて気持ちよさそうに寝転ぶ三人を眺める可憐の前に七海はビールを置いた。







「飲むの?」
「一緒に、どう?」
七海は小さく笑って、ビールと一緒に冷蔵庫から取り出したチーズもお皿にのせるとそれもダイニングテーブルに置く。それから向かい側に座った七海を可憐は少しだけ覗きこむように見つめた。





「どうした?」
「無理させた?」
「いや。問題ないよ」
「ほんと?」
「なんだ、私が怒ってると思ったのか」
「うん。違ったんならいいの。」
「怒らないよ、楽しかったんだろ?」
「建人は?」
「可憐が楽しそうで楽しかったよ」
「私は建人が楽しかったか聞いたのー」
「新鮮で楽しかった。」
「野薔薇に絡まれてたね」
「あの年頃はこの手の話題が楽しいって事くらいは理解してる」
「私たちもそうだったかな」
「おそらくな」
「ねぇ、」
「ん?」
「ねぇ、私、教員向いてる?」
「向いてるよ、なに自信なかったのか?」
「んーー。自信ってあとからついてくるタイプだと思うの、私は。

呪術師として祓って祓って祓いまくって一級になって、自信がやっとついた気がする。でも教員はさ、生徒たちの未来をずっと見てないと正しいことを教えられたかどうかもわからないなぁって。だから、自信はないの。」


「大丈夫。」
向かいに座る七海が優しく彼女の頭を撫でた。








「向いてるよ。生徒たちが信頼してついてきてくれる。それだけで充分結果が出ているだろう。」







「......泣きそう。」
「珍しいな。」
「すーごく、楽しかったの。」
「うん、」
「でもなんか、急にさよくわからなくなることってあるじゃない?」
「それでも、また呼んだらいい。」
「悟もくるよ、絶対」
「たまには先輩を立ててもいいよ。」
「やっさしー。」
「よく、頑張ってるよ。可憐。」






「えらい、えらい。」
まるで子供のように七海は可憐の頭を撫でて優しく微笑む。
なんでも器用にこなすように見えて、
なんでも上手くやれるように見えて、
どこかで少しだけ無理をしていることを七海はよく知っている。
不意に緊張の糸が緩んでしまうことだってある。そのタイミングがたまたま今だったんだろう、生徒たちと過ごした時間があまりに楽しくて、でもこれでいいのかとふと不安になったりして。
可憐が泣き言を言わない限り、彼から何かを言う訳ではないけれど、大きな手で頭を撫でられるだけで、わかってくれているという気持ちはきちんと彼女には伝わる。涙が出そうなのを隠すように可憐はテーブルに突っ伏した。











「明日の朝ごはん、何か作るか?」
「トーストと、ヨーグルトと、あと目玉焼きとフルーツ。」
「ん、材料は全部あるな。」
「それは良かった」
突っ伏したまま答える彼女に七海は笑う。しばらく頭を撫でたままでいると、急に可憐が起き上がった。








「よし!!元気出た!!!!」
「.....起きたらどうするんだ」
「....ごめーん...。」






晴れやかに笑った可憐は、七海に子供みたいに注意されて舌を出した。


一年生ズ
襲来A

また明日も頑張りましょう









fin



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