西軍 第1話 三成side








「すまない****」




私の前世の記憶だろうか。


逆光になって顔がわからない。
思い出せない…!
貴様は誰だ!
何故現世でも私を苦しめる!
答えろっ…!










「っ…!」


何時もと変わらぬ場面で目が覚める。
枯れはてた地にひれ伏せた私。
太陽に背を向けて私に許しを請う誰か。
それが誰だか思い出せぬ儘、月日が過ぎていく。




私はとあるバンドのボーカルをやっている。
約2年前にデビューし、今では全国ライブも行っている。
結構、有名なバンドだ。






「三成どのぉぉぉぉぉお!!!!」


「どうした真田。」


愛用の真っ赤なボディーが特徴のギターを抱えて、私の部屋に飛び込んで来た奴は真田幸村。



「元就殿が酷いのでござるよぉぉぉぉぉぉぉお!!」

「フン、貴様のものは我のもの。我のものは我のもの。別に饅頭の一つや二つくらい、いいであろう?」


「ダメでござるぅぁぁぁ!それはお館様が某に贈ってくれたものでござる!元就殿であっても断じて許しはせぬ!!」



「ギャンギャン私の部屋で騒ぐな!毛利!貴様も素直に謝ればすむことを…!とりあえず私の部屋から出ていけ!」



叱られた犬の様にシュンとなった真田と、拗ねた毛利が私の部屋から出ていくのを確認すると、私も顔を洗う為に部屋から出た。



「おはよう、石田の旦那。もう朝ご飯出来てるよ。」


「あぁ、猿飛か。すまない、顔を洗ってから行く。」


西軍のバンドメンバーは、この家で一緒に暮らしている。
リビング、ダイニングキッチン、スタジオ、編集室、風呂、トイレ、洗面所、そして各自の部屋。
メンバーには役割があって、猿飛と長曾我部は食事、真田は風呂とトイレ掃除、刑部は洗濯、毛利は部屋の掃除、私はゴミ捨てなどのその他雑用係だ。



顔を洗い、ダイニングへ行くと、テーブルの上に並べられた栄養バランスのよい食事。
椅子に座って、早く食べたそうな真田が見えたので、出来るだけ早く座る。


「では、いっただきまーす!!」


全員で揃って食べるのが、このバンドの約束。



「やれ、三成。そこのジャムを取ってはくれないか?」

「これでいいのか刑部?」

「すまぬな、三成。」

いつも通りの賑やかな食事。
小さい頃に親戚が集まって食べた食事を思い出す。


「そういえばよぉ、石田。2ヶ月後のライブでの新曲の作詞は出来たのか?」

「……まだだ。」

「久しぶりに東軍と対バンするんだからよぉ、早く作詞しないと負けちまうぜ?」

「分かっている。一応イメージは決まっているからな。」

「おぉ、そうか!頑張れよ石田!」


そして朝食後、私は部屋にある机に向かって、ペンを動かした。










◇◆◇










ペンが止まって、もう何時間が経ったのだろう。ペンは紙に向かったまま動こうとしない。いや、動かせない。

困った。

詞が浮かんでこない。
一応イメージは決まっているのだが、ここから先が書けない。今までスラスラと書けていたのが嘘のようだ。


珍しくハァとため息したを三成は、今回の作曲した歌がないリズムだけのものを聞こうと、パソコンを起動させた。ずっと休止状態だったパソコンはすぐに起動し、マウスを動かし、作曲したものクリックした。
ギターの音を始めに音楽が始まった。今回の曲はロック調でサビに連れてだんだんと激しくなっていく。Aメロやサビの位置は決まっているのだが、どうにも詞が思い浮かばない。あと、もう少しのだが…。



はぁ…



ため息。
すると、そのため息がきっかけのように

「石田、入るぞ。」

と、元就が入ってきた。
ノックか何かをしろ、と三成は毎回思うのだが、これはもう暗黙の了解となっている。

「どうした?私に用か?」

「用があるから来たに決まっているだろ。頭を使え。」

相変わらずの毒舌。
いつもなら流すが、今はイライラしていたこともあり、少し頭にきた三成は

「わざわざ、そんな事を言うために来たのか?ならば去れ。私は忙しい。」

と言い、パソコンと向き合った。

「だから、用があると言っているだろ。」

「じゃあ、早く言え。」

「お前に電話だ。」


元就から受話器を貰い電話にでると、何時もの声が聞こえた。


『もしもし、三成?ワシだワシ!』

「なんだ貴様。新手の詐欺師か?名前くらい毎回名乗れ。」

『でも三成はワシだって気付いてくれるだろ?それより三成、次のライブにする曲は出来たのか?』

「……まだだ。」


なんというデジャヴだろうか。家康は私がスランプに陥っている事を見透かして言っているのだろうか?
いや、家康に限ってそれは無いだろう…


『早くしないとワシらが勝ってしまうぞ?それも良いと思うがな、ワシはもう…』

「どうした?いきなり弱くなってるぞ。安心しろ、私達が貴様に負ける訳が無いだろう?」

『そうだな三成!お前はそういう奴だったなぁ…では楽しみにしている!』


切れた受話器を扉の向こうの元就に渡し、私は再度机に向かった。
私達は負けない。
もう二度と負けない。

此処で私は気付く。
〈もう二度と負けない〉って思ったのは何故だ?
私達は東軍とライブ対決するのは、初めてのはずだった。
痛い…
頭が痛い…
急に頭が割れそうな頭痛に襲われ、誰かを呼ぼうとした瞬間、私は意識を手放した。












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