きっともう会えないかな、と思った。振り返って見つめている、どんどん離れていく背中には別れの言葉なんてかけられなかった。でも本当は言うべきで、言わなくちゃいけないはずで、それでも言えない。口にしたらきっと本当にもう会えない。「さよなら」は「さよなら」でしかなくて、それ以上でもそれ以下でもない。わたしは未だに彼との別れを肯定出来ずいる、然るに彼はきっとわたしが聞き分けのいい人間だと勘違いしているのかもしれない。今までわたしが彼に対して我が儘なんて言わなかったのは、言えなかったわけじゃなくて、言う必要がなかったからだ。彼はいつだってわたしを十二分に甘やかした。わたしはそれを当たり前だなんて思っていなかったし、だからこそ彼はわたしを甘やかしていたのだと思うけれど、それならわたしも彼に尽くそうと、可能な限り従ってきた。全く苦にはならなかった。彼はわたしに無理な要求はしなかったし、わたしも我が儘なんて言わない。彼がわたしを甘やかしすぎることはあっても、それでもわたしたちはバランスが取れていた。そう、思っていた。でもそれは、わたしだけかも。



離れ離れになることは、遅かれ早かれ、確実に予期できていた。彼が東京の学校に進学すると聞いたことも、特別驚かなかった。寂しいと言ったら嘘になるけれど、それ以上に彼を応援したいって気持ちを持ち合わせていたから、大丈夫。ただひとつ、わたしのこころにぽっかり穴を開けたのは、



「わかれよか」



変わっていく。季節も、街並みも、わたしたちも。だけど、変わらないものだってある、はず。ずっと信じていたのに。彼から望んだ言葉が聞けたなら、ずっとこれからも信じて生きていけたかもしれないのに。信じたかった、のに。



それ以上に、信じて欲しかったのに。



わたしは彼になにを求めていたんだろう。考えたけど、なにも浮かんで来なかった。わたしは求めて欲しかった。わたしがいないと駄目だって、言って欲しかった。



後ろ姿はいつの間にか見えなくなっていた。そしてようやく涙が溢れた。見えない、もう。膝を抱えてしゃがみこむ。わたしは耐えられないよ。彼のいない日々を過ごしてくなんて。忘れられたらいいけど、どうせ忘れられないし、忘れたくない。だから、ぜったいに忘れない。忘れてほしくない。行かないでほしい。おいていかないで。ひとりで大人にならないで。



止まらない涙はアスファルトに幾つも染みを作った。ぼんやりとした視界で、それを数える。一個、二個、三個。数えても数えても、増えるばかりでキリがない。でもきっと、もうすぐ、涙も止まる。そして、彼が居なくなって、わたしはそんな日々に馴れるときがくるかもしれない。それはそれでいい。馴れなくても、いい。だけど、どんなことがあっても、わたしは、ずっと、また会える日を待ってる。



春にはもうきみがいない。わたしはきみのいないこの街で大人になって、きみはわたしの知らない街で大人になる。きみはわたしの知らないきみになる。それでもわたしは遠く離れたこの場所で、いつだって願う



ちゃんとふたり笑って、同じ場所に立てるように





捨てられない愛





111123

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