待ち合わせの場所へ向かうと、森山が先に待っていた。
森山は伊月の姿を見つけると柔らかな笑みを浮かべる。
伊月はその笑顔に胸が痛くなった。

「別れ…ましょう」

伊月がそう告げると森山は静かに笑った。

「伊月くんがそう言うだろなって思っていたよ」

伊月を見つめる森山の目はなにも映してはいなかった。

「今までありがとう、伊月くん」

森山はそう言うと振り返ることなく、呆気ない程簡単に伊月の前から去って行った。

遠くなる背中に、わけもわからず涙が溢れた。


伊月はそれからひたすらバスケに取り組んだ。
しかし、その1年後伊月はアキレス腱を切断し、バスケの選手生命を絶たれてしまった。
まるでそれは、森山は手酷く傷付けた自分への罰のように思えた。

その後1度だけ、伊月は森山の大学へとバスケの試合を観に行った。
しかし、コートの中には森山の姿はなかった。
そして伊月は知った。
森山がバスケを辞めてしまったことを。


そうしてバスケを失った伊月は何人かの女性と付き合った。
だが、誰ともうまくいかなかった。
女が駄目ならと、男で試したが愛撫に嫌悪を覚え、すぐに後悔した。
しかし、森山のことを思い出した途端、伊月の身体は激しく反応した。
たった1度の森山との行為を伊月は忘れることが出来なかった。

あの頃の伊月は無知だった。
初めてのことで、何もわからなかった。
誰かを好きになるということがわからなかったのだ。

伊月がどれだけ森山を好きだったか自覚したのは、皮肉にも森山と別れた後だった。
なぜもっと早く気づけなかったのだろう。
大切な存在を手放したのは伊月自身だ。
ただ、伊月の心が森山に追いつくまで、それだけの時間が必要だった。

「……っ、俺、ちゃんと、森山さんに…っ、恋してたじゃん…っ、」

離れていく背中を思い出し、伊月は涙を零した。

胸を焼く後悔と、行き場を失った恋心は夢になって現れた。
だが、今の森山は、もう自分を好きだと言ってくれた森山ではない。
分かっていても、伊月は彼に惹かれていくのを止められなかった。

もう1度、取り戻せるものなら…。
望みのない恋だと知りながら、伊月は後に引くことは出来なかった。







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