W.Cの後での告白をなし崩し的に受け入れると、森山との関係は今までよりも少し濃密になっていった。
デートといえば、バスケの試合観戦や、自主トレーニングなど甘いものではなかったが、それでも森山は嬉しそうにしていた。

森山とそうして共に過ごす日々は伊月にとっても気分の良いものであった。
なにかと手を繋ぎたがったり、キスを求められることを除けば、彼といるのは心地が良かった。

森山の卒業直前に、森山はうちに来ないか、と誘った。
大学に進学が決まっていた森山だったが、伊月には大事な時期である。
そんな暇はないです、と伊月は断った。
いつもはそれで引いていた森山だったがその時だけは執拗だった。

「1泊だけでいいんだ。両親は旅行に行ってていないし、伊月くんも部活がない日でいいから」

土曜に神奈川へと行って、森山の家へと泊まり、日曜に向こうで遊んでから帰ろうというのが森山の計画だった。

「頼む。君にとっても大切な時期なのはわかってる。
だけど、君ともっと一緒に居たい…」

拝み倒された伊月は結局、森山の家へと行くことを同意した。


初めて訪れた森山の家は、閑静な住宅街にある一軒家だった。
広い部屋を見回してると、いきなり森山に抱き締められた。

「伊月くん…」

いつもと違う、少し掠れた森山の声に、伊月の身体がビクッと震えた。

「伊月くんに、触れたい」

「も、森山さん…」

腕から逃れるように暴れるとさらに強く抱き締められた。

「ここに来てくれたってことは、君も少しは俺を好きになってくれたんだろう?」

森山の言葉に心臓が早鐘を打つ。
たしかに、ここに来たということは、こういう行為に同意したのと同じである。
しかし、いざこうして抱き締められてしまうと、肉体的恐怖や、未知の感覚に怯える。
何も言えずに黙っていると、森山の顔が近付き、唇を重ねられた。
今までのように触れるだけのキスではなかった。
微かに開いた唇の隙間から、森山の舌が忍び込んできた。
それは、傍若無人に伊月の口腔をまさぐる。

「ん…っ、ふっ…んぅ…」

飲み込みきれない唾液が唇から滴り、顎を伝う感触にぞくりとした。

伊月が身体を捻じって逃れようとすると、強い力で留められた。

「怖がらないで。お願いだ。君を傷つけたりしないから…」

熱い吐息と声が耳元をくすぐる。
振り向いたその先には真摯な目をした森山がいた。

「伊月くん…君が欲しいんだ…」

抱き締める森山の腕が微かに震えてることに気が付いて、伊月の胸が締め付けられるように痛んだ。
やめてと言えば森山はやめてくれるかもしれない。
それでも、その目が、その腕が、離れていくことを拒絶しているようで制止の言葉を口に出せなかった。

言葉の代わりに森山の背中へと腕をまわす。
それを了承の合図となって、森山は伊月をベッドへと押し倒した。

服の裾から、するりと森山の手が入ってきた。
耳たぶにかかる彼の息が一瞬熱くなり、伊月はそのふたつの皮膚感覚にぞくりとする。
不快というわけではないが、その抗いようのない濃密な空気に戸惑い、見つめてくる森山の視線がますます伊月を狼狽させた。

本能的に身を捩って逃げようとするが、侵入した森山の手が脇腹をゆっくりと辿り、耳を甘噛みし始め、伊月は呆気なく力を失う。

「ふっ…んぅ…待っ…」

言葉を発していた声は、耳穴に舌を入れられ喘ぎ声となって漏れる。
伊月は自分の発した声に恥じらい、抗うことも忘れ必死に声を出さないように唇を噛んだ。

森山の手が脇腹からゆっくりとヘソに向かう。
そのまま緩く勃つ性器に触れると、小さく握る。

「んっ…、ぅ、」

軽い痛みとその痛み以上の甘い痺れが残る。
快感に眉を寄せる伊月を見下ろしながら、長い指先が宥めるように優しく撫でた。

「…っ、くっ、う…はっ、」

「声出して…。そんな顔しないで」

身体の熱を逃がすように忙しなく息継ぎを繰り返し、噛み締めすぎて赤くなった唇を見つめながら、痛みに耐えるような顔をした森山が、低く呟く。

閉じていた目を開け、視界に映るその表情に、森山さんこそなんて顔してるんですかと言いたくなった。
しかし、それを言葉にすることもままならず、気付いたときには下着ひとつの心許ない格好で息を喘がせていた。

そっと詰めていた息を吐き出す。
それは思いのほか大きく響き、甘いものを含んでいた。
羞恥に小さく震えると、伊月の背中を支える森山の腕が、その震えに呼応するように一度動きを止めたが、やがてまたゆっくりと背筋に沿って素肌を撫で始めた。

「ん…っ、ふぅ…、」

大きな手に身体を辿られる感覚に未だ慣れず、それだけで小刻みに肩が揺れた。
そんな伊月の怯えを溶かすように、手のひらが肩から腰までをゆるりと撫で下ろす。
それを何度か繰り返され、森山の暖かい手の感覚に、余計な力が抜けていった。

「も、りやま…さ…」

小さく絞り出した声は誤魔化しようもなく震えていて、まるで不安がる女の子のように聞こえた。
しかし、そんな声は白々しく響くだけで、服を脱ぎ捨ててしまえば自分は男以外の何者でもないのだと思い知らされる。

「綺麗だ…伊月くん…」

膨れもしてない胸や、そそり勃つ性器を見つめながら、森山は吐息混じりに言った。
下着に手をかけ、するりと下ろされる。

「…あっ、…」

ひんやりとした外気に晒された肌が粟立ち、思わず喉が震えて声が出た。




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