「え…?」 高尾が伊月を源氏名で呼んだことに驚いて見つめ返す。 高尾の瞳には全く感情の色がなく、なんだか怖くなって、伊月は縋るように言った。 「た、高尾…っ!あの、」 「『旦那様』だ。月乃。」 感情の一切見えない冷徹な声で告げられ伊月は酷く戸惑った。 縋るような視線すらめんどくさいというように伊月から視線をそらすと 高尾がため息混じりに口を開いた。 「ここでは、男娼は客をそう呼ぶことになってんの。 俺は客じゃねぇけど、私情が混じっていいことなんてひとつもないからな。 躾けの間は俺の名は呼ばないでそう呼ぶこと。わかった?」 淀みない口調でさらりと告げられ息を飲む。 止まったはずの涙が溢れそうになり、堪えるように唇を噛みしめ下を向くと、高尾が幾分かキツイ口調で言う。 「返事は?聞こえてるなら返事しろっての月乃。」 「あ、…はい…」 感傷に浸る暇もない程に冷え切った声音が耳に入る。 「返事したならさっさと動いて。なにか命じられたらすぐに行動に移すようにしろよ」 「はい…すみません…」 崩れそうになる心を支え、なんとか高尾の元へと近づくと布団へと身を横たえた。 シンと冷たい布団の感触に鳥肌が立ってしまう。 「膝を立てて、脚開いて」 「ん……、」 命じられるままに膝を立てた途端、高尾が襦袢の裾を腿の付け根付近まで捲り上げてくる。 襦袢の下に下着は穿いておらず、剥き出しの白い内腿と露わになりかかった局部に視線を落とされ、それだけで頬が染まってしまう。 下肢が外気に晒される感触に伊月の身体がふるりと震えた。 「あっ…高尾、」 思わず名前を呼ぶと、高尾は苛立ちを露わにした目で伊月を睨む。 その瞬間、自分が失態を犯してしまったことに気付いた。 「いつまで過去に縛られてるわけ?あんたはもう男娼なんだよ。商品なの。もっと自分の立場を理解しろ」 「商品…」 鈍器で頭を殴られたような衝撃が伊月を襲う。 過去に縛られてる。 確かに、どこかでまだ優しかった、慕ってくれてた高尾の面影を探しているのかもしれない。 だが、もうあの頃の高尾はいないのだ。 (変わってしまったんだな…) 胸を裂くような痛みに視界が歪む。 目の前の高尾が、あの頃の、高校生の頃の高尾と重なって見えて縋りつきたくなる。 高尾、と呼びそうになる口をきつく閉じ、伊月は前を見据えた。 「はい、旦那、様…」 高尾は表情のないまま、伊月の襦袢の腰紐を解く。 薄い胸や萎縮した性器が高尾の目に晒され、羞恥にきつく目を閉じると、すっと高尾の手が動いて伊月の心臓の上に置かれた。 素肌に、そんな手の感触を覚えただけでも鼓動が速まった。 「あ…、」 その手を退かそうと身じろぐと、高尾の指がわずかに動いた。 「…っ、」 乳首が硬い手のひらと擦れたことで広がった奇妙な感覚に、伊月の身体がびくりと震える。 その敏感すぎる反応には、高尾のほうが驚いたようだった。 「感度はかなり抜群ってか。」 「や、なに…っ、」 刺激を受けて小さな突起が固く尖り、じっとしていられないような痺れが腰のあたりまで広がっていくことに、伊月は狼狽した。 高尾の手が離れ、ほっとしたのもつかの間、いきなり乳首を指先で摘みあげられた。 「っぅ、あ…!」 びっくりして声が出る。 仰け反った伊月の乳首をさらに高尾がくにくにと指先で引っ張ってきた。 「んぁ…や、ぁっ、」 その小さな部分を摘みあげられるたびに、ぞわぞわとした感覚が全身を駆け抜ける。 そのことに焦って、激しく鼓動が乱れた。 ←→ (20/35) ← |