「山をおりましょう。もう一度、世界をみつめましょう。まっさらな頃のあなたに会いたいんです」


*


我ながら、なんて浅はかな考えだったのか。彼の心の一番近くにいる存在が、私なんだって信じて疑わなかったの。

差し出した手に走った衝撃は忘れない。怯えていた、全身で私を否定していた。


(嫌われちゃった)


寒い寒い寒い。

体が、白く染まってく。激しく降り積もるゆき。かじかんだ手は、それを振り払うことさえ許してくれない。風が冷たい。冷たさが痛い。痛みが体を侵食して、侵食が徐々に加速してく。


(、死んじゃえ)
(このまま、)


このまま、この景色に同化されてしまいたい。この白に、こっそり内緒で溶け込むの。そしたら、あの人とずっと一緒にいられるかしら。



自惚れた罪ですか



(いいえ、そんなの嘘。いつか必ず私を置き去りにしてね。あなたが立ち上がるその時を信じてる)

- ナノ -