太陽は鬱陶しいくらいに私たちを照り付ける。そこかしこで光が反射してる。眩暈がおきるのはきっとそのせいだと、意味のない言い訳を何度も頭に浮かべた。


「ばいばいだね、トウコ。どうか、元気で」
「あなたこそ」


そうするとNは不意に、私の頬へまるで下手くそなキスをひとつだけくれた。こんなに不器用で、泣きたくなるくらい優しいキスを私は初めて知らされた。


「さよなら」


凛とした声、

出会えてから今日まで。
長い夏が頭の中で乱反射を繰り返した。眩暈は余計にひどくなる。視界は変に傾いて、それを悟られぬよう必死に笑ってみせる。


(私が欲しかったのは、そんな言葉じゃないのに。これからはずっと一緒にいられるような予感があったのに、)


ぼろぼろに崩された予感を忍んで、私は後から泣くんだろうな。
Nの精一杯の敬愛が頬に残って、じんわり熱を持つのを感じる。日差しはまだまだ容赦がなくて、それでも私の夏は、今日確かに終わるのだと確信した。




夏の訃報


貴方がくれた夏を、私は飼い馴らせなかった


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