「トウコ、雪だよ」
「あ、本当だ」

視界にちらほら落ちてくる白い粒をみて私はため息をこぼした。天気予報め。お前を信じて防寒を怠った結果がこれですよ。

げんなり自分の肩を抱く私とは対照的に、Nは嬉しそうな視線を空に向ける。そしておもむろに手袋を外した。寒いよ、と忠告する私に目もやらないで、てのひらを前に差し出す。そこへ一粒落ちてきた雪は、数秒もしないうちにみるみる体温にとかされた。

「何してるの、冷たいでしょ」
「ううん、あったかい」
「は、」
「あったかいんだ、僕が。今まで気づかなかったみたい」


Nのてのひらの上に水滴が増えていくのを、私は黙って見ていた。

あの日からずいぶんと時間は過ぎた。でも、奴から言われた例の四文字は、多分Nの喉元に小骨みたいに刺さったまんまみたい。きっと彼は今でもたまに、そんな異物感になすすべをなくす。

「……当たり前だよ。Nは生きてる人間なんだから」

うん、きっとそうだね。そういって顔を綻ばせる彼が切なかった。私たち二人はなんの合図もなしに手をつなぐと、帰り道を再び歩きだす。右手から広がる確かな熱に、私は密かに胸を焦がした。



Il naige.


君は、はじめて僕を生かしてくれたちいさな女の子。

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