ゆっくりと浮遊していく感覚がいつかの時と重なった。徐々に変貌していく景色もあの日と全く変わらぬまま、目の前を彩る。このちっぽけな空間が、なぜだか今の僕らにはこれ以上ないくらいお似合いな気がした。

「もうすぐ、一番上ね」
「うん」

そんな短いやりとりが終了すると再び沈黙が顔を出す。それはそれは心地好い静けさに僕は目を閉じた。
そんな中、トウコはぽつり唐突に呟く。


「……隣にいっていい?」
「もちろん」

ぺたりと僕の横に腰を下ろした彼女は、こちらに視線を向けるでも景色を眺めるでもなく、俯き加減のまま泣いていた。僕らを360度囲むガラス越しの世界よりも、何よりも綺麗な色をした雫だ。

「N、」
「どうしたのトウコ」
「N、N、」
「うん、」
「おかえりなさい」
「……うん」

無意識に抱きしめた両腕を伝って、懐かしいぬくもりが全身を駆けた。この特別な感情を伝えにきた意味は、なるほど既にないらしい。お互いに呆れるほどわかりきったことなのだ。

胸に顔をうずめたトウコの涙はとどまることを知らず僕を濡らしていく。君がまた前のように笑ってくれるまで、このまま何周でも廻ろうか。



まわる世界




(まるで宇宙の中心点、)


- ナノ -