嘘も方便っていう言葉は偉大だ。その言葉を糧に、私は彼とつながってこれた。(そして、これからも)
頂点という言葉に苛まれた彼に、私が新しいチャンピオンです、だなんて言えるはずがない。彼を悲しませたくないからなんて慈悲深い理由じゃなくて、突き放されるのが怖い、ただそれだけ。臆病者の戯言だ。

(いつまで、ばれずにいられるだろう)

そんな風に私はまた震えてる。メディアの片隅に私の名前を目にするかもしれない、グリーンさんが口を滑らせたりしないだろうか。何かをきっかけにして、崩れていってしまいそう。



「レッドさん?」
「なに」
「ずっと一緒にいてくださいね」

隣に座るレッドさんは、目をぱちくりさせたのち優しく微笑んだ。

こんなにちいさな私だけど、一生懸命彼を愛してる。彼が最愛の人なんだってはっきり断言できるの。
だからこそ私はうそぶける。


「これからも、ずっと、ですよ」
「もちろん」


今日も私は私に繰り返す。コトネはいたって普通の女の子だ。チャンピオンだとか頂点だとか、そんなワードとは程遠い場所にいる平々凡々な女の子。


嘘は心地好く耳朶にとろけてく。最初は耳たぶ、そしていずれは鼓膜へと同化される。

そうしたら、



愛すべき嘘



そうしたらきっと、ふたつめの真実になるかしら。



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