春はすき。そこかしこで命が芽吹いていくのは、胸がきゅんと切なくなる。辛いとか悲しいとかとは別物の、もっと綺麗な切なさだ。
シロガネ山の麓はすっかり鮮やかに染まったけれど、やっぱり山頂は未だ凍えた冬の寒さから目覚めてくれない。多分、それは12ヶ月間ずっと変わらずに。(だから、)
「……なにしにきたの」
「春を届けに!」
両手いっぱいの野花をみて、レッドさんはきょとんとしてる。春をこんな風にひとまとめにしちゃうには少し抵抗があったけど、これが私に実行可能な、精一杯のことだった。
「いかがですか?」
野花のブーケの中から、タンポポをとりだして差し出す。受け取ったレッドさんは、それを顔に近づけてふと目を細めた。そうして、
(え、)
突き返された。そう思って、一瞬頭が真っ白になる。こんなお節介、鬱陶しいだけだったのだろうか。
しかし、タンポポを掴んでこちらに伸ばされた右手は、まさかの私の耳元に添えられた。視界の端っこが黄色に揺れている。
「うん、かわいい」
春がきたのは、
私の胸の方。