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血や砂で汚れていた着流しとサラシは、水や石鹸で洗えばわりと綺麗になった。
朝目覚めてから、それをゆっくり身につける。
なんだか久々によく眠れた気がする。
腰に巻いた細帯に愛刀を差し込み、ジュダルが料金を払っておいてくれたホテルを出た。


「おはようございます、なまえさまですね」

『あ、はい』

「ジュダル様の命で、第12迷宮へとご案内させていただきます」


ホテルを出てすぐ、黒い布に顔の半分以上を隠した男の人が話しかけてきた。
ジュダルが言っていた案内人だろう。
すたすたと歩き始めたその人の後ろを、黙って付いて行くことにする。

迷宮、そこは何人もの人間が攻略に挑戦し、帰ってくることはなかったという、謎の建築物。
それを攻略だなんて。
魔法なんて全く使えない、ただ刀を振り回すだけしか能のないわたしが、そんな大それたことできるはずがない。
なのにわたしは何故、ジュダルの誘いに乗りノコノコと迷宮へ向かっているのか。


『………馬鹿だな…』


わたしって。
そんなこと、わたしが一番知っているくせに。



「お!なまえー!お前遅ぇじゃねーかよ」

『女の子は準備に時間がかかるもんなんだよ、ジュダル』

「何処に時間がかかんだよお前の…」


第12迷宮の前まで着くと、既にそこに居たジュダルが駆け寄ってきた。
迷宮って、なんか、普通の建物なんだなあ、なんて思う。
案内人の男は静かに姿を消して、少し恐ろしくなった。
わたしはこれから死ぬかもしれない。


「なに、ビビってんのお前」


ジュダルが、じっと見つめてくる。
その意味を知りながら、微笑んで見せた。


「!」

『一度死んだようなもんなのに、今更何にビビるの。わたしは虫にしかビビらないよ』

「虫にはビビんのかよ」


面白そうに笑うジュダルと一緒に、第12迷宮の入り口に立つ。
なんか粘膜のようなものが張っているその向こうは、何も見えない。


『なにこれ、粘膜?なんかキモい…』

「ブッ、…キモいとか言ったのお前が初めてだぜ」

『こん中に入るんだよね』


ジュダルが頷いたのを見てから、右手をそっと持ち上げる。
死へと続く扉、この粘膜は巷ではそう呼ばれている。

指先をそっと、黄金色に発光している粘膜へと触れさせる。
右手の指先から、ズブブ、と飲み込まれていく感覚に、目を閉じた。

強くなりたい。
そして、わたしはーーーー。


あいされたいだけなのに、どうしてわたしはーーー


わたしの声が聞こえた。
泣いている。
過去のわたしは、ずっと泣いていた。

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