where you were born

「ん?」

『……』

「んんんんん〜!?」

『……なんですか』

「あー!?それ!その指輪!マスルールも同じの着けてたぞ!!」


まあ、指輪なんて指に着けるわけだし、すぐにバレるだろうな、とは思っていた。
けれど翌朝にバレる、って少し早すぎやしないだろうか。
しかもうるさいし、シャルさんは少し余計なことに目聡すぎだ。

朝食を内勤のみんなで食べながら、普通にヤムライハさんたちと話をしていたのに、大声を出したシャルさんのせいでみんなの視線がわたしの左手に集まる。
ほんとやめて欲しいこういうの、シャルさんにはもう少し大人になってもらわないと困る。


「なァんだよお前ぇら、やっとくっ付いたのかよ!?」

『……べつにそういうわけじゃ…』

「コラコラぁ、なまえ!ペアリングまで着けて、もう言い逃れはできないぞっ!」

『…シャルさんもピスティも、ちょっとデリカシーってものを覚えたほうがいいんじゃないの』

「本当よねぇ!男女の恋路に首を突っ込むもんじゃないわ!!」

『……そう言うヤムさんも目がギラギラしてますけど』

「「「だって気になる!!」!!」じゃねぇか!!」


うるさいなこの三人組……。
スパルトスさんは笑うだけで根掘り葉掘り聞いてきたりしないのに、シャルさんとヤムライハさんは本当にわたしより年上なのだろうか。
ピスティも恋愛ごとに興味深々すぎてついて行けない。
これはマトモに相手にしたら負けだ、と、無視を決め込むことにした。


「なによなによ、水臭いじゃないのよ!付き合い出したならそう言いなさいよっ!なまえもマスルールくんもそーいうことちゃんと言わないんだから!!」

「アレッ!?ていうか、アンクレットもおそろいじゃん!なになになまえってばぁ、二つもペアアイテム着けてるのっ!?」

「かーっ!!お熱いなぁお前ら、熱すぎてヤケドしちまうぜぇ!!」

『……(うざ…)』


目ざといピスティにアンクレットのことまで気付かれてしまった。
もううざいを通り越してイライラする。
今日は外勤のマスルールがここにいないことが、わたしの唯一の救いである。
こんなおちょくりモード発動中の三人の前でマスルールといたら、イライラしすぎて抜刀してしまうかもしれない。
スープを飲みながらどうにか殺意をこらえる。
まあ、こんなことになるのは目に見えていたのにペアのアクセサリーなんか着けているわたしたちが悪いのだ。


「つーか、そのアンクレットってマスルールからのプレゼントか?」

『あれ、よくわかりましたね』

「…おまえ、男が女にアンクレット贈る意味知らねぇの?」

『?…なんか意味あるんですか?』


すこし落ち着いた様子のシャルさんが、いつものように肩を組んで話しかけてくる。
いちいち距離が近いんだよなこの人、パーソナルスペースってご存知だろうか。


「えー、知らないのなまえ?」

『知らないけど…』

「マスルールくんってば、よっぽどなまえのこと好きなのねぇ…」


ピスティに続いて、ヤムライハさんまでしみじみした顔をしてそんなことを言う。
なに、アンクレットにはどんな意味が隠されているの。
全く知らないので何故かビビる自分がいた。
シャルさんを見ると、ニヤッと笑いかけられる。


「アンクレットを左足に着けるのはな、”恋人がいます”って意味なんだぜ」

『……そうなんですか?』

「あぁ。まあ国とか地域によってまちまちだけどよ、結構いろんなとこで言われてんな」

「だから男の人が女の人にアンクレット贈ることにはねぇ…”こいつは俺のもの”って他の男にアピールする意味があるんだよ!」

『……』

「ペアの他にも男避けの意味も含まれてるってワケ!なまえ、アンタ愛されてるわねぇ…羨ましい……」

「つーか、おまえほんと世間知らずだよなァ…まぁ長いこと閉鎖的な国にいたっつーから仕方ねぇんだろうけど…アンクレットの話はペアリングの話より有名だぜ?」


驚愕で、一瞬思考が止まった。
マスルールがわたしにアンクレットを贈ってくれた意味を知って、動けなくなった。
そんな意味が込められてるなんて考えもしなかったし、ていうか、わたしとしてはペアリングの方が恋人って感じがするけど、世間的にはアンクレットの方が有名だいうのだ。
かあっと顔が熱くなる。


「うわっ、なまえが照れた!」

『……マスルールもその話知ってるんですか?』

「そりゃ知ってんだろ!前に話したこともあるし…つーか、それマスルールに教えたの多分王サマだから覚えてんだろ!」

『………』

「いやぁ〜ん、こいつらラブラブぅ〜」

「ピスティやめときなさい、あんまりからかうとなまえに斬られるわよ」


マスルールって、思っていたよりも、独占欲が強いのだろうか。
わたしも強い方だと自覚はあるけど、その束縛が、信じられないくらい嬉しい。
それが愛ゆえのものだとわかっているから。
赤くなった頬を両手で押さえたまま、マスルールの顔を思い出した。
朝会ったばかりなのに、もう会いたい。


『…左足のアンクレットって、男が着けてても同じ意味なんですか…?』

「そりゃそーよ、男も女も、左足に着けてりゃ恋人が居ますって意味ね大体は」

『……』

「しかもおそろいだともうそれ見ただけで恋人同士って丸わかりだよね!」

「国によっては夫婦とさえ思われるでしょうね」


え、なにそれ。
アンクレットって、そんなに強い意味を持つの。
と、あまりのことに疑問に思うと、ふとあることに気付く。

この世界には、奴隷という制度が色濃く存在していることに。
前にいた世界では奴隷なんて滅多に聞かない言葉だったけど、この世界では、いろんな国に今でもその制度はあるのだ。
アンクレットの起源は、確か奴隷が着けている足枷だったはず。
それに気付いたとき、ぎくりとした。
だって、マスルールは昔、レームで剣奴をしていたはずだと知っているから。
剣闘士は奴隷だ。
マスルールはきっと、アンクレットと足枷の繋がりを知っている。
そんなマスルールが、アンクレットという装飾品を好むはずがない。
それなのに、見るたびに奴隷だった頃を思い出してしまうようなプレゼントを自らとわたしに贈ってくれたということは。
それは、どんなに強い好意の証明なのだろう。

お腹の中がひっくり返ったみたいな熱を感じた。
マスルールに、今すぐ会いたい。


「…えっ!!な、何泣いてんだよ!?」

『!』


隣でシャルさんが大きな声を出して、気付く。
わたしは泣いていた。

奴隷として扱われていた過去、それは絶対に綺麗な思い出ではないはずだ。
なのにマスルールは、わたしのために。

シャルさんとピスティとヤムライハさんが、わたしの突然の涙に焦っているのが分かる。
わたしは涙も拭かずに、顔を上げて笑って見せた。


『…なんでもないです』

「なんでもないのに泣くかよ!なんだよ、どした!?マスルールの愛が重すぎてキモくなったか!?」

「何言ってんだシャル!なまえ、お腹痛いの?」

「具合悪いなら診るわよ!」

『いえ、体調はいいです。ただ…』

「「「…ただ……?」」」


三人がハモるので、おかしくて笑った。


『マスルールが、恋しくて』


シャルさんとピスティとヤムライハさんは、わたしの馬鹿みたいな答えを聞いて、コントみたいに椅子から転げ落ちた。

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