「アイツ、死んだらしいな」
「アイツとは、アイツのことか」
「アイツのことだよ」
「……黒夜叉か」
「あぁそーだった、黒夜叉な、黒夜叉。なんか俺と対の二つ名付けられた女、一度も喋ったこともねーのに。なんかそーいうの恥ずくね?なに、なんか俺ら共通点あったっけ?」
「奴はお前と同等に強かったからだろう。それにお前と違ってストレートの黒髪だった」
「おい最後のはいらねーよ天パ馬鹿にすんな」
俺らとは違う一派の攘夷志士共が、泣いてんのを見た。
男がビービー泣くんじゃねぇと思ったけど、訳を聞けばなんとなく、納得してしまったのだ。
白夜叉と呼ばれる俺と、対の二つ名で呼ばれた女。
黒夜叉。
戦場で何度かツラを見たことがあるが、夜叉なんて名前、アイツには全然似合わねーと思った。
黒、の部分は、黒髪がキレーに靡いてたから納得したけど、アイツは夜叉なんかじゃなかった。
想像していた姿なんか、一ミリも掠らねぇくらい、小さくてキレーな顔した女だった。
そんで馬鹿みてーに強くて、戦場を駆けるその姿に見とれたこともある。
そんな黒夜叉が昨日、死んだそうだ。
天人に後ろから、グサッとやられて。
隣で難しい顔して茶を飲む桂は、アイツと喋ったこととかあるんだろうか。
「しかし、奴は死ぬタマではないと思っていたが」
「…聞いた話だとよ、あの女、少し前に付き合ってた男が死んじまったらしいんだよ。その彼氏も攘夷志士だったっつー話で、天人に殺られちまって、最期アイツが看取ったんだと」
「戦に命をかける身で惚れた腫れたか…黒夜叉と言えど、やはりただの女だったというわけか」
「いや逆にアレじゃねーの、すぐ隣に死が付きまとってると恋だ愛だも急加速すんじゃねぇの。生き物って命の危機に晒されると遺伝子残そうとしてセックスに励むって言うじゃん」
「それで後を追って死ぬなど、元も子もないな」
「よっぽど好きだったんじゃねーの。あの女、彼氏が死んでしばらくは狂ったように天人殺しまくってたらしいぜ。んで、一昨日くらいから急に心ここに在らず状態になっちまったんだってよ、戦場で。んで、ぼーっとしてるとこに天人に後ろからグサッと」
「やはり、惚れた腫れたなど戦場には要らぬ物だな」
つーか、死んだ奴のことグチグチ言っても仕方ねーし、つーかそもそも知り合いでもねーのに、なんでこんな、アレなんだろ。
なんつーか、仲良かった奴が死んじまったみてーな感覚すんの俺。
馬鹿みてーな二つ名で、繋がりでも感じちまってたんだろうか。
「…まぁ、死んでいく場所は多くねぇよな」
「ふん…その男に会えるといいがな、黒夜叉」
桂がふと空を見上げたんで、俺もつられて見上げた。
黒夜叉、と呼ばれたあの女は、愛した男のもとへと行けたのだろうか。
呆れたように笑う桂を見ながら、目を閉じた。
一度だけアイツの姿を思い浮かべて、しかしそれもすぐに、消えた。