black out

「おい!お前死にてぇのか!!」


がくがく、肩を強く揺さぶられて我に返った。
目を血走らせてわたしを睨みつける仲間の姿がじわりと視界に映っていく。
ああ、またぼーっとしてた。


『ごめん、ぼーっとしてた…』

「ごめんじゃねぇよ馬鹿か!!お前、いま自分が何してるのかわかってんのか!?」


唾散らしながら怒鳴る仲間、名前はわかんないけど、今日まで一緒にやって来た仲間。
わかってる、わかってるよ。
わたしがいま、何してたかなんて。
何って、わたしの大嫌いな


『戦だよ』

ザシュッ


右手に握っていた刀を真っ直ぐ、前に突き出した。
目を剥く仲間の顔が見えて、ああ、生き物殺すのって、やっぱ慣れないな。なんて考える。
わたしの肩を掴んで現実に引き戻してくれた仲間の後ろに迫っていた天人を、正面から一撃、グサッと殺った。
仲間の背中に覆いかぶさるようにして死に倒れる天人に、仲間の男が顔を青ざめさせる。
何、その顔。
それって、天人が気持ち悪くて青ざめてるの。
それとも、わたしが気持ち悪くて青ざめてるの。
わたしが、怖くて。

わたしはお前を助けたつもりだったのに、お前が後ろから天人に殺られそうだったから殺したのに、わたしは別に、殺したかったわけじゃないのに、わたしは、わたしはーーー。


「助かったよ…おい、ぼーっとしてないで集中しろよ。戦だぞ、気抜いたらすぐ死ぬぞ」

『…うん』

「ほら、向こうに白夜叉たちもいる。お前だって白夜叉と並ぶくらい強いんだから、とにかく、集中しろよ」

『…うん』


わたしに背を向けて、天人に向かっていく仲間の背中。
わかってるよ、いまは戦で、わたしたちはみんな、何かを護るために戦ってる。
何かを、護るために。


『…わたしは……何を…?』


向こうに、白夜叉が見える。鬼兵隊も見える。
わたしだけが、見えない。

わたしは一体、何を護るために、たくさんの命を踏んづけてまで、天人を殺しているの。
命を奪っているの。

向こうで仲間が、わたしを呼んでいる。
わたしを呼ぶ声がする。
わかってる、そんなに呼ばなくても、わたしが戦わなきゃいけないことくらい。

だけどさ、ねぇ、わたしって、何のために戦ってんだっけ。


『あの人はもう、いないのに』


護るものを失ってもなお、戦ってるのは、ただの。
ただの、わたしの我儘だった。


「なまえ!!」


わたしを呼ぶ声がする。
仲間の声がする。
ひどく、遠くで。

ごめん、分かってたけど、戦わなきゃいけなかったけど、わたしもう、だめだと思うんだ。


『ぐっ…がは…っ』


背中が燃えている。
熱い、燃えてる、熱い。
キーン、遠くで耳鳴りがする。
ああ、違う、わたし、刺されたんだ。
すごい熱いけど、そんなに痛くは無いもんなんだな。
口の中に血が溜まっていく。
吐き出すと、わたしの身体は地面に倒れた。

キーン、キーン、耳鳴りが、近づいてくる。

何も見えなくなった。
ああよかった、わたし死ぬんだ。
どんなに命を奪っても、みんな平等に最後は、死ねるんだ。


「俺がいなくなれば…お前はもう、ーーー」


うん。だから、わたし、死んだら貴方に会えるでしょう?
よかった、あなたと同じ場所で、死ねて。

最後、あんなに近付いていた耳鳴りがプツリ、音を消した。

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テーマ「人外ファンタジー」
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