「シン、情報を集めてきましたが…」
アゼントリアにホテルを取り、しばらく宿泊することとなった。
理由は、我が国シンドリアとアゼントリアの交易を再開するべく、この街に住み着いているという海賊を退治するためだ。
広い部屋の中央、ベッドに横たわっているシンに向け発すれば、我が主はゆっくりとその身体を起こした。
「まず、頭領はリオと名乗る若い男だそうです。そして幹部が10名ほど、全員男。そしてその下に何十人もの部下を従えており、主に下っ端が港や民から農作物などを巻き上げていると見られます」
「……続けてくれ」
「はい。頭領や幹部が港に下りてくることは少ないらしいです。まぁ、下っ端を捨て駒として使っているんでしょう。これまでに海賊を退治しようと国内軍がアジトの廃墟へ向かったらしいのですが…ここで一つ、気になる情報が」
「何だ、ジャーファル」
「アジトの門番をしている”一人の女”に、何十人もの国軍が、一人として門をくぐることなく、追い返されたそうです」
「…一人の女……?」
シンが眉を顰めるのを見ながら、先ほどまで情報を集めていた街での事を思い出す。
聞き込んだ民は皆、口を揃えて「門番の女がヤバイ」だのと言うのだ。
まさか一人の女が、国軍を一人で追い返せるはずがないと、初めは信じることはなかったが、何人もが口を揃えて言うということは、それが事実であることに他ならない。
「はい、昼間は男が数人で門番をしているらしいですが…夜になると女が一人、門を守っているそうです」
「…確かなのか?」
「皆、口を揃えてそう言いました。……しかし、その女、行動が妙でして…」
「……………」
「常に剣一本を所持、国軍を追い返しはしたものの、1人も死者や重症者は出さず、上手く急所を外すそうです。それに農作物の強奪に参加したことは一度もなく、ただ夜の門を守っている、としか」
「…門番しかしない女か…興味深いな」
「言うと思いました。しかも結構な美人だそうですよ」
シンが面白そうに笑うのを見てから、収集した情報を書き連ねた紙を畳む。
これからこの男がどう出るのか、もう予想は付いていた。
ベッドの後ろで、背中に腕を回して突っ立っているマスルールは、何も言わず、ただ欠伸をひとつ、こぼした。
「今夜、その門番に会いに行こうじゃないか」
そう言うと思いました、と口にしながら、内心はため息を吐いた。