like a bird


1 year later...


「交易を打ち切りたい、だと?」


レームの端の港町、アゼントリア。
小さいが活気溢れるこの街を仕切る領主、マゼールは冷や汗を垂らしていた。
目の前に君臨する伝説の男、かのシンドバッドの凄みに、蚊の泣く様な声で言葉を返す。


「はい……も、申し訳ございません…少々、街で問題がございまして……」

「問題?…俺の国、シンドリアとの交易を打ち切るほどの大問題が、この平和な街で起こっていると言うのか?」

「はい!それはもう、困っているのですが……」


領主に充てがわれた豪邸、その客間では、かの有名なシンドバッド、そしてお付きの男二人が、じっと責めるような視線をマゼールに送りつけていた。
訳はシンドバッドが口にした通り、マゼールがアゼントリアとシンドリアの交易を打ち切る、と言い出したことによる。
その知らせを聞き、シンドバッド一行はわざわざレームの端の地までやって来たというわけだ。


「最近この街にタチの悪い海賊が住み着きまして…武力に物を言わせて農作物や宝石を巻き上げているのです」

「海賊が?交易が成り立たないほど横取りされているということか」

「はい、それはもう…根こそぎ持っていく勢いで、民もみな困っておるのです…我らも軍を率いて対抗しておるのですが、中々……」

「…そうか……」


領主は頭を抱え、窓の外へ目をやった。
海賊たちのアジトが、ここからほど近い場所に顕在するというのだ。
奴らはある日アゼントリアに乗り込んで来て、街に元々居たが大した脅威ではなかったゴロツキを取り込み、領主率いる軍では太刀打ちできないほどの勢力となってしまったらしい。

それを聞きながら、シンドバッドは自らの顎に手をやった。
に、と口角を上げると、ならば、そう口にした。


「ならば、その海賊たちをどうにかすれば、交易は再開してくれるんだな?」

「!!それはもちろん!元より我々に、シンドリアとの交易を打ち切りたいなどという気持ちは微塵もございません!あの海賊たちを黙らせていただけるのなら、すぐにでも!!」

「そうか、ならば俺たちが海賊退治を請け負おう」


ぱあっと表情を明るくした領主は、深々と何度も頭を下げ、館を出て行くシンドバッド一行を見送った。

領主の館の外、街を行く民たちを見つめるシンドバッドは、苦い顔をする。


「前に来た時よりも、確かに街に活気がないな」

「それに、皆疲弊しているように見えますね」


海賊退治、それは彼らにとっては簡単なことだと思われた。
しかし油断は禁物、まずは情報収集だと、シンドバッド、ジャーファル、マスルールは街の中へと消える。



同時刻、海賊アジト、質素なプレハブの中では、一人の女が起床した。


『…あ、やべ……遅刻だ』


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