「なまえ、さっきウノって言わなかったから上がれないよ。カード取って」

『あ、うわ、忘れてた……あ、ドローフォーきた』

「おい、言っちゃダメだろ」

「なんでなまえは取ったカード読み上げるの」

『え…なんかクセで……』


早々と寝るかなぁと思っていた数学強化合宿1日目の夜は、ギャルについての話し合い(と言う名のディスり)を終え、黒尾さんが研磨の机を漁って出してきたウノを掲げたことによって、三人でのウノ大会に突入していた。
それでわたしはさっき残り二枚のうち一枚を出すときにウノと宣言しなかったので、余分にカードを引かされる。
しかしラッキーなことにドローフォーきた。
のを口に出したら、隣の黒尾さんにすごい嫌な顔された。
順番が研磨→わたし→黒尾さん、なので、わたしがドローフォー出したら黒尾さんが4枚引かないといけなくなるからだ。


「なまえ、ドローフォーなんか出さねぇよな?」

『出しますけど。はい。ウノ』

「うわ、マジでドローフォー出しやがった。チッ、もう上がる計画立ててたっつーのに」

「なまえ、色指定して」

『あ、じゃあ黄色』


そりゃ出すよ。
ドローフォーあるのに出さないわけがない。
わたしの手札は残り一枚で、黄色の5。
黒尾さんの残りの手札は8枚で、研磨の手札は2枚。
これは一抜けできそうだぞ。と思いながら、さっきした一回戦ではドベだったのを思い出した。


『げ、研磨なんで色変えるの』

「黄色ないからだけど」

『酷い…』


せっかくドローフォー出した時に黄色を指定したのに、研磨が緑に変えた。
酷すぎる、これじゃ上がれない……と思いきや、研磨が出したカードは緑の5だということに気付く。
あ、これはわたし最後のカード出せるじゃん。
数字が同じ5だから色違っても出せる。
おお、こりゃラッキー。


『はい。一抜けです』

「げ、なまえが一抜けとかマジかよ」

「さっきはビリだったのにね」

『二回戦は一抜けしたから、汚名返上だね』

「ウノでドベになっただけで汚名呼ばわりなのか」

「なまえってちょっと負けず嫌いだもんね」


一抜けできた喜びを感じながら、あとは研磨と黒尾さんの戦いを見るだけだ。
カードの枚数的には黒尾さんが多い。
どっちを応援するでもないけど、なんとなく研磨が勝ちそうだなとは思った。
なんたってゲームに馬鹿強いし、それはカードゲームでも同じだし、さっきの一回戦、心読んでるみたいに戦略立ててきたし。
なのに二回戦勝てたって、わたし最強なのかな。
ちなみに、黒尾さんの髪の毛はもう乾いていつものトサカヘッドに戻っている。


「ウノ」

「研磨、最後の一枚何色?」

「教えるわけないじゃん、なまえじゃあるまいし」

『わたしだって教えないよ』

「どーだか…」

「うーん…しゃーねぇ、運に頼るしかねぇな…赤の3でどうだ」

「ふん…」


研磨がウノと宣言して残りのカードが一枚になった。
そこで、ばっと黒尾さんが赤の3のカードを出すと、研磨は小馬鹿にしたように笑って、カードを出す。
赤の1を……。


「俺の勝ちだね」

「クソ、まさか俺がドベになるなんて…」


がく…っと布団に倒れこんだ黒尾さんの変な小芝居が始まったので、わたしは無視してカードを集めた。
トントンと一つにまとめる。


「よし、もう一回しようぜ」

「やだよ。もう疲れた…っていうか眠い」

「じゃあなまえ、二人でやるか」

『わたし勝ったんでもういいです』

「おいおい、お前ら俺に冷たすぎねぇ…?」


ウノのカードを箱にしまう。
もう夜の12時前だ、なんかちょっと眠い。


「ウノはまた明日すればいいよ」

『そだね』

「だな。じゃあ寝るか?」

「俺は寝るけど。眠くないなら二人で遊んでれば」


のそのそとベッドに登った研磨はすぐ布団に潜り込んだ。
まあ研磨って寝るの早いイメージあるし、気にせずウノを机の上に乗せる。
ああでも、新しいゲーム買った日の夜とかは結構夜更かしして攻略したりしてたっけ。
とか思ってたら、ベッドの上からスースーと寝息が聞こえてきた。
見ると、研磨がスヤスヤと眠っている。


『え、寝付き早』

「はは。早ぇよな」

『黒尾さんももう寝ますか?』

「いや…今日起きんの遅かったからまだ眠くねぇな」

『何時に起きたんですか?』

「10時半くらい」

『…べつに遅くないですよ。休みの日にしては早いです』

「それはお前が休みの日昼まで寝てるからだろ」

『今日は8時くらいに起きましたよ』

「マネージャーんなったら毎朝7時から朝練とかあんだぞ?」

『…早いですね』

「寝ぼすけのなまえは果たして起きれるのかな?」

『……頑張ります』


7時に学校に着いてなきゃいけないのか。
うちから音駒まで、電車と徒歩で30分弱くらいだから…5時半とかに起きなきゃ間に合わないな。
それが毎日続くのかと思うとちょっと怖くなってきたけど、まぁやると決めたんだからやるんだ。


「ま、俺らもぼちぼち寝るか。布団入ってりゃ眠くなんだろ」

『そうですね』

「電気消すぞ」

『はい』

「豆電球でいいか?」


頷くと、黒尾さんは立ち上がって部屋の電気を消した。
ぱちん、と明るかった蛍光灯がやわらかい光の豆電球に切り替わる。
さっき研磨と黒尾さんが敷いてくれたらしい布団に潜り込んで枕に右頬を乗せるように横向きに寝そべると、隣の布団に黒尾さんも潜り込んだ。
目が慣れてくると、豆電球の淡い光の中、隣の布団の様子が見えてくる。
黒尾さんは、前に研磨が言っていた通り、うつ伏せに寝て枕に顔を埋めて頭を両側から枕で押さえつけていた。


『んくっ…ふっ…ふふ…っ』

「え、なに。どうした」


黒尾さんの寝方が独特すぎて、おかしくなって思わず吹き出すと、黒尾さんは枕から顔を上げてわたしを見た。
暗がりの中目が合う。
薄い掛け布団を首まで引っ張ってきて、笑いを必死に堪えた。


『ふふ…っ』

「なに笑ってんの」

『…く、黒尾さんって、ほんとにそんな寝方するんですね』

「…ああ、俺の寝方がおかしくて笑ってたのお前」

『だって…苦しくないんですか』

「別に苦しくはねぇな…昔からこの寝方だし」

『変ですよ、それ』

「分かってるわ。これが一番寝やすいんだよ」

『普通の体制でも寝れるんですか』

「寝れるっちゃ寝れるけど、これが一番しっくりくる」

『ふふ…へんなの』

「……」


黒尾さんの方を向いて寝転んだまま笑うと、黒尾さんは何故か無言になりじっとわたしを見つめてきた。


「………寝れるかな俺…」

『…え?』

「…なんでもねぇ」

『……?』


ぼす、と枕に顔を埋めた黒尾さんは、少し間を置いてから、顔だけわたしの方に向けた。
それから少し微笑んだから、どきっとする。


「おやすみ、なまえ」

『…おやすみなさい』


黒尾さんの優しい声と微笑んだ顔がいつまでも頭から離れなくて、どきどきと胸が騒がしがった。
好きな人が隣に寝てる、という状況をいまやっと理解して、わたしは緊張して目が冴えてくる。
でも寝なくちゃ、と目をきつくつむるけど、それでも心臓はどきどきうるさくて。
わたし今日寝れるかな、なんて考えながら、黒尾さんがみじろぐ音を聞いてまたどきっとする。
なんだか、全然眠れる気がしない。







「なまえ」

『…………』

「なまえ、起きて」

『……ん…?』

「なまえ、起きないと叩くよ」

『んー………………』

「……」


ペチン


『…う…んん…?』

「なまえ、もう11時だよ」

『……うん…』

「……」


ペチン


『いて………』

「起きないと次はもっと強くぶつよ」

『…んん、起き…る、から…………』


聞きなれたような聞きなれないような声と、ペチペチとたまに頬に感じる微かな痛みに、わたしはうっすらと目を開けた。
ゆっくり意識が浮上していくこの感じ、まどろみって言うんだっけ。
とか思いながら数回瞬きをすると、だんだん誰かの手が鮮明に視界に映ってくる。
はっとして目を大きく開くと、枕元にしゃがんで手のひらを開いてわたしの顔に近づけている研磨が、不機嫌そうな顔でわたしを見下ろしているのがわかった。


「…やっと起きた?」

『…起きた』

「もう10分くらい起こしてたんだけど。どんだけ寝起き悪いの」

『…ごめん』

「いーよ。けどもう11時だよ、俺お腹すいた」


ああ、研磨がお腹をすかせている。
しかももう昼前だ。
わたしはようやく、ここは研磨の家の研磨の部屋で、昨日から研磨の家に泊まっていることを思い出した。
それと一緒に、黒尾さんが隣に寝ていたはずだということも。
まさか寝顔見られてないよね、わたしよだれとかたらしてなかった!?と思って慌てて体を起こすと、研磨がちょっとびっくりした様子で立ち上がる。
隣に目をやると、淡い青色の布団を足元に蹴飛ばして、うつぶせに寝て頭を両側から枕で挟んでいる黒尾さんが寝息を立てていた。
よかった、黒尾さんまだ寝てた。


「なまえ、寝癖すごいよ」

『ああ、いつものことだから…』


ベッドに腰掛けてわたしを見下ろす研磨に返事をしてから、手櫛で髪の毛を整える。
黒尾さんより早く起きれてよかった、起こしてくれた研磨に感謝だ。


『研磨はいつ起きたの?』

「さっき…10時半くらい」

『そっか。おはよ』

「おはよ」


さっき言い忘れていた朝の挨拶をしてから、とりあえずわたしは寝ていた布団を畳んだ。
それからスマホの充電器をコンセントから抜いてまとめる。
研磨がお腹すいたっていうし、顔洗ったら身支度より先に朝ごはん(昼ごはん?)を作ろう。
そう決めて、トートバッグから洗顔と化粧水と乳液を取り出して立ち上がる。


『洗面所借りていい?』

「うん」

『顔洗ったらごはん作るね。できたら呼ぶから、黒尾さん起こしてきて』

「今起こさなくていいの?」

『うん。黒尾さん、普段はあんまり寝れないと思うし…朝練とかで。たまには好きなだけ寝ててもらいたいでしょ』

「…うん、わかった」


研磨が頷いたのを見てから、部屋から出て階段を降りる。
よく寝たな、なんて思いながら洗面所へ向かった。

朝ごはんは何がいいだろう。
キッチンに立ってから考える。
起きてから最初のご飯だから朝ごはんなのかもしれないけど、時間的には昼だから昼ごはんでもある。
ということは、朝昼兼用ご飯ということになるから、がっつりしたものがいいだろうか。
でも寝起きにがっつり飯はきついかな。
でも今ちゃんと食べとかないと昼ごはんのタイミングだから夜までにお腹すきそうだし。
間を取って、朝ごはんにもできそうな献立を品数多めに作ればいいだろうか。


『…さんま、ぶり』


冷蔵庫の中を確認して、焼き魚用の魚があることに気づく。
賞味期限今日までだから、さんまは塩焼きにしてぶりは照り焼きで…お味噌汁作って、ほうれん草と絹ごし豆腐あるから白和えにして…昨日は洋食だったから、和食にしよう。
鶏肉とじゃがいもは煮て…って、作りすぎだろうか。
いやでも、黒尾さんがたくさん食べるはずだし、研磨も案外食べるし、品数は多いに越したことはないだろう。
余ったらラップしておいとけば夜も食べられるし。


『…よし』


とりあえず、白和えと味噌汁作りながら段取りを決めよう。
でも黒尾さんと研磨、魚好きだろうか。
嫌いだったら困るなぁと思いながら、豆腐の水抜きを始めた。


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