「なまえ、俺は何すりゃいーの」 『あ、じゃあ…じゃがいもの皮剥いてください』 「なんだっけ…あ、ピーラーで?」 『ピーラーで』 「お任せあれ」 シチューとポテトサラダに使うじゃがいもを一つ一つ洗ってからまな板に置くと、黒尾さんが隣でピーラーを構えていた。 面白くてちょっと笑う。 「なんかボコボコしてて剥きづれぇなじゃがいも…」 『手切らないでくださいね』 「お前もな」 しょりしょりしょり、とキッチンに二人並んでじゃがいもの皮を剥いている状況が少し不思議になってきた。 黒尾さんはピーラーを駆使して皮を剥いてるけど、じゃがいもがバレイショだからボコボコしてて剥きづらいらしく苦戦している。 わたしは包丁でじゃがいもの皮を剥きながら、ついでに黒尾さんが剥き終わったじゃがいもの芽を取っていく。 「なにしてんのソレ。何故お前はじゃがいもをえぐる?」 『芽ですよ。じゃがいものこの…なんか茶色いの、芽なんですけど。ソラニンっていう毒があるんで取ってます』 「毒!?じゃがいもって有毒だったのか!」 『え、有毒っていうか…なんか取るように教わったんで、多分人体に有害な成分なんじゃないですか』 「マジか…知んなかったわ、なに、メラニン?」 『ソラニンです』 「ソラニンか。なんかソラニンって曲なかったっけ」 『ああ、ありますね』 「どんなんだったっけアレ」 『冬の冷ーえたー缶コーヒー…みたいな』 「ああ…虹色の長いーマーフラー、な」 ソラニンで盛り上がるとかなんかくだらないな。 と思いながら、皮を剥いたじゃがいもを適当な大きさに切る。 水に漬けてから、黒尾さんが皮を剥いてくれたじゃがいもに手を伸ばした。 「よし、コレ最後のじゃがいもな」 『お疲れさまです』 「おー、次何したらいーの」 『じゃあ、お鍋に水入れて火にかけてください』 「鍋に水……どんくらい?」 『じゃがいもが被るくらい…たっぷりで』 「たっぷりな。茹でんの、じゃがいも」 『はい。茹でて潰します』 「潰すんだ」 『ポテトサラダにするんで』 「あー、なるほどな」 じゃがいもを全部切り終わって水に漬けたので、次は人参とハムを切る。 同時進行で、じゃがいもを茹でる鍋とは別に、お湯を沸かしておいた小さい鍋に卵を投入した。 「ゆで卵?」 『はい。刻んでポテトサラダに入れます』 「へえ…そういう仕組みなのかポテサラって」 『(仕組み…?)』 「あ、なんか星型にくり抜くやつ発見した。人参とハム星型にしようぜ」 『なんか女の子みたいですね』 クッキーとかをくり抜く型を発見したらしい黒尾さんは、星型とハート形の型抜きを出してきて可愛らしい提案をしてきた。 小さい型なので人参とハムを型抜きすることは可能だけど、ちょっとめんどくさい。 『普通に切ったほうが早いですけど』 「可愛くねぇなお前、女子力ってこーいうことだぞ、多分」 『…わかりましたよ。くり抜きましょう』 ということで、人参とハムをハートと星型にすることになった。 人参を薄めにスライスして、ハート形でくり抜いていく。 黒尾さんはハムを星型にくり抜いていて、その様子はとても可愛い。 図体でかいのにハムを星型にしている。あ、これがギャップか。 人参の星型になり損ねた切れ端をみじん切りにしておく。 人参はあとで別に茹でるのだ。 「あ、お湯沸騰してんぞ」 『じゃあ、じゃがいも投入してください』 ぐつぐつと湧くお湯に塩を入れてから、黒尾さんがじゃがいもを投入する。 丁度ゆで卵も出来上がったので、冷水に漬けておいた。 もうサラダも作っておこう。 ドレッシングかけなければ水も出ないし。 冷蔵庫からレタスとさっきの残りのキャベツとトマトときゅうり、それからミックスビーンズを取り出して、レタスを黒尾さんに渡す。 『レタスちぎってください』 「ちぎんの?」 『はい。食べやすい感じでお願いします』 「りょーかい」 頷いた黒尾さんがレタスを洗いながらちぎってボウルに入れていくのを見てから、わたしも包丁でキャベツを千切りにする。 トマトはざく切り、きゅうりは黒尾さんにスライサーでスライスしてもらおう。 「おーっ、すげぇ。千切り早ぇな」 『え、普通です』 「早ぇよ。匠の技だな」 『…レタスちぎったら、きゅうりスライスしてもらっていいですか?』 「きゅうりな。任しとけ」 『スライサーで』 「スライサー…」 『そこの白いやつです。大根おろすやつみたいな…』 「ああ、これか。なんか刃物ついてる」 『それでスライスできるんで』 「ん」 サラダはこれでラップかけて置いておこう。 シチューに使う野菜も切って、オムライスの玉ねぎもみじん切りして鶏肉も切って……やる事が多いけどどうにかいけそうだ。 研磨は相変わらずリビングの椅子でゲームしてるけど。 じゃがいもがやわらかく茹で上がったので、ボウルに移して、きゅうりをスライスし終えた黒尾さんにマッシャーを渡す。 「潰すんだな」 『お願いします』 「ごめんなじゃがいも達…」 変な小芝居が好きな人だなぁと思いながら、シチューに入れる鶏肉を一口大に切る。 生肉を触るのはあんまり好きじゃないけど、そんなこと言ってたら料理できないので仕方ない。 それにさっき研いで炊飯器のスイッチを入れたご飯はもうすぐ炊き上がるはず。 黙々とじゃがいもを潰している黒尾さんを見てから、厚手の鍋に油を熱して鶏肉を投入した。 続いて一口大に切った人参やじゃがいもとかの野菜も。 シチュー作りをやっと開始できたのだ。 『味薄くないですか?』 「んー、美味い。丁度いい」 ポテトサラダの味付けをして、黒尾さんに味見してもらうとオーケーが出たので、ポテトサラダはこれにて完成。 何気にまたアーン、みたいなことをしたけど今はちょっとバタバタしてるので気にしている暇はない。 シチューは野菜煮込んでいるので、少ししたらルー入れてまた煮込まないといけないし。 『シチューの鍋にルー入れてもらっていいですか?』 「普通に入れりゃいーの?」 『砕いてから入れて溶かしてください。あ、一旦火止めてから入れてくださいね』 「火止めてルー入れて混ぜりゃいーんだな」 『はい』 黒尾さんがシチューのルーを溶かしてくれている間に、わたしはオムライス用の玉ねぎをみじん切りにする。 目にしみて涙が出てきたけどいつものことなので気にしない。 「なまえは将来いい嫁さんになりそーだな」 『……そうですか?』 「おー。家事得意だろ」 『…まぁ嫌いじゃないですけど』 「仕事から帰って玄関開けたら、エプロン着けたなまえが玄関まで出てきて…”おかえりなさいあなた”つって出迎えてくれんのが目に浮かぶわ」 『…妄想はやめてください』 「”ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?”っつってな」 『そういうの好きですね黒尾さん』 「なにその変態を見るような目は…」 『なんか変態くさかったんで…』 「男なら誰でも憧れる夢のようなシチュエーションだろ」 『わたしが旦那なら、仕事で疲れて帰ってきて玄関でそんなことされたらしばきますけどね』 「オイ怖ぇよ。俺の夢を壊すなよ」 牛乳を少し入れた溶き卵をかちゃかちゃ混ぜながら少し笑う。 いい嫁さんになりそう、とか言われてちょっとドキッとしたわたしが馬鹿だったのだ。 黒尾さんの言うことを真に受けてたら心臓がもたない。 そのうち死ぬ。 聞き流しスルーする術を身につけなければ。
・ ・ ・ 「「『いただきます』」」 わたしと黒尾さんの2人がかりで、やっと完成した晩ご飯。 三人で手を合わせていただきますをした。 結局今夜の夕食の献立は、オムライスとシチューとサラダとポテサラ、残った鶏肉でチーズを巻いて焼いて味付けをしたソテー的なもの、という感じ。 どれも黒尾さんがいっぱい食べるというので量は多めに作った。 オムライスの大きさなんか、黒尾さんと研磨とわたしのを比べたら、順番に大・中・小みたいになっている。 「なまえ、ケチャップでハート描いて。ハート」 『は?いやですけど』 「ケチケチすんなよ、オムライスが美味しくなる魔法かけてくれよ」 『メイド喫茶にでも行ってください』 「魔法かけなくてもオムライス美味いよ」 「いやそりゃ美味いのは分かってるけどさ。サービスしてくんねぇかな、なまえチャン」 『…貸してください、ケチャップ』 「お、描いてくれんの」 ニヤニヤしながら変な要求をしてきた黒尾さんのオムライスに、ケチャップで顔文字を描いてあげた。 ハートではなく。 (´・_・`)←こういう顔文字を。 我ながら上手く描けたと思う。 そのオムライスを黒尾さんに返すと、頬っぺたを摘まれた。 「オイ、なんだこの腹立つ顔文字は?」 『…わたしの気持ちです』 「お前な。そこは素直にハート描けよ」 『自分で描けばよかったじゃないですか』 「セルフでやっても何も嬉しくねぇだろうが」 『だから、メイド喫茶行ってメイドさんに頼んでください』 「見知らぬメイドに魔法掛けられても嬉しくねぇよ」 ならわたしのハートなら嬉しかったのか、とちょっと思い上がってみる。 でもすぐに、黒尾さんがわたしの分のオムライスにケチャップで、(^з^)←こんな顔を描いてきたのでイラっとした。 ちなみに研磨は自分でテキトーにかけて、早々と食べている。 「シチューも美味ぇな。やっぱ自分たちで作ったモンだから愛着が沸いてんのかな」 「シチューは市販のルーでしょ。美味しくて当たり前」 「可愛くねぇこと言うなよ研磨。このシチューはな、俺がじゃがいもの皮を剥いて、なまえが野菜と肉切って煮込んだから美味ぇんだぞ?」 「クロは大したことしてないじゃん、何偉そうに」 「結構働いたんだぞ俺も。なぁなまえ」 『そうですね…黒尾さん力持ちなんでじゃがいも潰すの早くて便利だなって思いました』 「便利ってなんだ。便利ってお前…」 「クロあれだね。じゃがいも潰し器だね」 「研磨。俺はじゃがいも潰し器なんかじゃない、黒尾鉄朗という尊き命の宿った人間だ」 『じゃがいも潰し器でも、研磨よりは役に立つよ。研磨は何も手伝わずゲームしてたし』 「そうだぞ。研磨、働かざるもの食うべからずって言葉知ってるか?」 「知らない。俺はゲームで忙しかったから」 『わたし研磨とは一緒に無人島とかに遭難したくない、絶対に』 「二人で死にそうだね、俺もなまえとは嫌だ」 「俺とならいいのか、二人とも」 『黒尾さんは…食料にされそうなんで嫌です』 「それ俺がなまえを食うってこと?」 『非常食みたいなノリで』 「ナイナイ、流石に死にそうでも人は食わねぇわ。別の意味で食うことはあっても」 『…………』 「…………」 「お前ら、年上をそんな汚いものを見る目で見るのはやめなさい」 『……別の意味ってなに、研磨…』 「知らない。キモいねクロ」 『うん…サイテー』 「知らなくねぇだろお前ら。冗談だって、そんな目で見んな」 「まぁもしクロと遭難したら、食料とか探してきてくれそうだしなまえよりはマシかな」 『わたしだって木の実くらいは集めれるよ。キノコとか…』 「じゃあ、クロが海とかで魚採ってきて、なまえが森でキノコとか木の実採って…クロが火を起こして、それでなまえが魚とか調理して、俺が食うよ」 『なんでわたしと黒尾さんだけ働いて、最終的に研磨だけ食べてんの。それじゃ唯一働いてない研磨だけ生き残るじゃん』 「またクロに魚採ってきてもらえばいいよ。そしたらなまえも生き残れるし」 「オイ、それじゃ俺が一人で死ぬだろうが。魚獲り損してんじゃねぇか」 「なまえにキノコ分けてもらえばいいじゃん」 『……』 「……」 「…まぁ、普通に暮らしてれば無人島に遭難したりしないと思うけどね」 そりゃそうだよ。 わたしたちなんでこんなくだらない話で軽くケンカしてるんだろう。 アホか。 自分に呆れながらシチューを食べる。 結果的にご飯は全部美味しくできたけど、この後の洗い物を考えるとちょっとめんどくさいなと思った。 ------------------------------------------------ 二話連続で料理しててすみません…。
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