放課後、部活に行った研磨が貸してくれたジャンプを読みながら、わたしはポリッツを食べている。 リツコとユカと教室に残ってだべっているのだ。 わたしたちは部活がない日はたいてい暇なので、どっかに遊びに行ったりこうして教室に残って暇をつぶしたりして不毛な時間を弄んでいる。 ポリポリとしょっぱいポリッツを食べながら、金魂を読んでいく。 金魂は基本ギャグ漫画だけどたまにシリアスな展開になって、そのとき主人公とか他の登場人物とかが熱くてカッコいいのだ。 わたしの好きな漫画である。 「てか、うちの弟もこないだポリッツ食いながらジャンプ読んでた」 「リツコの弟小5だよね?なまえ、小5男児と同じ行動しちゃってんじゃん」 『ジャンプに年齢も性別も関係ありません』 「いやあるでしょ。ジャンプ読んで泣いたり笑ったりしてんのアンタくらいだもん、うちの周りで」 『いーでしょ別に。ジャンプには血と汗と青春と男同士の熱い友情がみなぎってんだから泣けるよ』 「血と汗と青春と男同士の熱い友情って、なんか臭そうじゃない?野球部の部室って感じ」 『しばくぞ』 「でも金魂の主人公はカッコいいよね、金さんだっけ?顔は好き」 『金さんは顔もかっこいいけど中身もサイコーだよ』 「うち前に弟が持ってるヌルト読んだことあんだけどさ、あいつかっこいいよね。なんだっけ、チャチャマル?」 『わたしケケシ先生のが好き』 「つーか、放課後の教室に残って漫画の話って……オタクか!」 わたしってオタクなのだろうか。 まぁどうでもいいけど、ポリッツの油分で研磨のジャンプを汚さないように気をつけよう。 机にもたれるように肘をついたままジャンプのページをめくっていると、スカートのポケットの中でスマホが振動した。 ブー、ブー、と震えるスマホ。 バイブがすぐに鳴り止んだのでメールかラインが来たのだと知って、一旦ジャンプから手を離してスカートのポケットからスマホを取り出した。 「なに、ライン?」 『んー、ライン』 やっぱりラインがきていた。 スマホの画面に表示されているのは、ラインの新着メッセージ。 その差出人の名前を見て、心臓がどきりと跳ねる。 黒尾さんからのラインだ。 無駄にどきどきしながら、スマホにパスワードを入力してラインのトーク画面を開いた。 黒尾さんとは、試合の前日に応援メッセージを送った時にやりとりしたっきり、それから何も連絡は取り合っていなかった。 日曜日、夜に黒尾さんにラインしようかと思ったけど、なんて送ればいいのかわからなかったからやめておいたのだ。 そんなこんなで、黒尾さんの方からラインが来るとは思わなかったからびっくりした。 ------------------------------------------------ 今どこにいる?
教室です 授業終わってるよな 何してんの?
ジャンプ読んでます 今からなんか予定あるか?
ないですけど どうしたんですか? 今中学の近くにいんだけど 出てこれねぇ? ------------------------------------------------ ただのラインなのに、心臓が震えてるみたいに息がしづらくなった。 今近くに黒尾さんがいるらしいってことも、これから会えるかもしれないってことも、黒尾さんがわたしに送ってきたただの文も、なにもかもが特別なものみたいに思えてきて。 好きだと自覚する前とした後では、なんだかなにもかもが、違う。 『……ちょっと、わたし帰るわ』 「え、なんで。どしたの」 『…用事できた』 「用事?一緒に行こっか?」 『いや、いい』 「ていうか何よ用事って?」 「帰るってことは、家でなんかあったとか?」 『いや……黒尾さんに呼ばれたから、いってくる』 「え!黒尾先輩!?」 面倒だから言わずに行こうと思ったのに、ユカがしつこすぎて普通に言ってしまった。 バッグに筆箱とジャンプを詰めながら、目をキラキラさせ始めたユカを睨む。 ジャンプは明日研磨に返す予定なので持って帰って続き読もう。 「えーっ、なに、デート!?」 『うるさい。ちょっと急ぐから、話はまた明日ね』 「えー、もー、気になるじゃん!」 「ユカ、行かせてあげなって。明日聞けばいいでしょ。じゃーねなまえ、なんか知らないけど頑張れ。明日みっちり聞かしてもらうからね」 「仕方ないなぁ、明日ぜーんぶ吐かせるからね!?ちゃんと話してよ!」 『わかったわかった、また明日。じゃーね』 ジャンプのせいで重くなったスクバを肩にかけて、スマホを握って教室を出る。 無意識に早歩きになっていた。 黒尾さんに、早く会いたくて。 ------------------------------------------------ 今中学の近くにいんだけど 出てこれねぇ?
すぐ行きます 校門とこで待ってるわ
はい ------------------------------------------------ なんでこんな早い時間にこんなところにいるんだろう、とか、何しに中学校まで来たんだろう、とか、なんでわたしを呼び出したんだろう、とか、気になることはたくさんあったけど、わたしは急ぐことしか頭になかった。 急いで下駄箱へ行って、急いでローファーに履き替えて、急いで学校を出る。 校門のところにいるという黒尾さんの姿を探して、校庭を早歩きで横切った。 ------------------------------------------------ ・ポリッツ…プレッツェルに味付けしたお菓子
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