「なまえちゃんいらっしゃい!外雨すごかったでしょう、濡れなかった?」 『おじゃまします。はい、大丈夫です』 「あら、ちょっと濡れてるじゃない!」 「なまえ、クロと相合傘して来たから」 「あらっそうなの?鉄朗くんとなまえちゃんが…まあまあ…ふふふ!」 研磨の余計な一言のせいでにやにや笑い始めた研磨のお母さんを見て、わたしは思った。 絶対勘違いしてんだろうなぁ、って。 現に、研磨んちの玄関先に突っ立ったまま、さっきお母さんが貸してくれたタオルで濡れた腕や服を拭っているわたしと黒尾さんを、研磨のお母さんはにやにやした顔で交互に見つめてくる。 わたしは借りた青いタオルで腕を拭きながら、隣で濡れたジャージを脱いでいる黒尾さんを見上げた。 ちなみに、黒尾さんは自分の家に帰らずに、わたしの傘に入ったまま当然のように研磨の家に入ったのだ。 「こうして見ると確かにお似合いだものねぇ、美男美女で!」 「おばちゃん、そんな褒めても風呂掃除くらいしかやらねぇよ俺」 「そうねぇ、なまえちゃんを研磨のお嫁さんに貰えたら最高だって思ってたけど、鉄朗くんのお嫁さんでもいいわね」 「いや結婚はまだ気が早ぇだろおばちゃん」 「あら、そうね。まだ15歳と14歳だものね」 『…黒尾さんてまだ15歳なんですか?』 「ああ、誕生日まだだからな。11月に16歳になんのよ」 『え、誕生日11月なんですか』 「ん?うん。なまえは?何月?」 『…11月です』 「お、マジで。一緒じゃん、何日?」 『18日です』 「え、18?11月18日?」 『?はい』 「マジ?すげぇ、俺17日だぞ」 『…え、17日?11月?』 「おお。すげぇな、コレ運命じゃね?」 「確かに誕生日1日違いなのはすごいけど、何が運命なの。同じ日ならまだしも…」 確かに研磨の言う通りだけど、でもすごくない? なかなかの衝撃だ。 研磨んちの玄関で、ふたりしてタオルを握ったまま見つめ合うこと数秒。 わたしの誕生日と、黒尾さんの誕生日が1日違いだったなんて。 黒尾さんが17日、わたしが18日。 こんなにも自分の誕生日を特別に感じたことはないくらい、わたしは感激していた。 なぜか、すごく嬉しいのだ。 べつに取り立ててすごいことじゃないのかもしれないけど、わたしにとっては。 黒尾さんとの共通点、みたいな感じがして、すごく嬉しかった。 何故なのかは、わからないけど。 「なまえちゃんは鉄朗くんの一年と1日後に産まれたのね…すごいわね、運命ね!」 「だから何が…」 「運命じゃないの、ホントあんたって子は夢がないんだから!」 研磨がお母さんに無闇に怒られている……。 そこではっとして、慌てて黒尾さんから目を逸らした。 何見つめあってんだろう、研磨の言う通り、たかが誕生日が1日違いだっただけなのに、わたしは何をこんなに喜んでいるんだか。 「いやぁ、すげぇな。なまえの誕生日だけは絶対忘れねぇ自信あるわ」 「そりゃ自分の誕生日の次の日だからね」 「さーて、なまえは誕生日何が欲しいのかな〜?」 『え?べつにとくに…』 「薔薇の花束とかがいい?15歳になんだから、15本?」 「15本だけで花束って成立するの?」 「しねぇの?なら、150本だな…でも薔薇って高いらしいからな、金貯めねぇと厳しいわ」 『いや、花束とかいりませんけど…』 「なまえはすぐ花とか枯らしそうだしね」 「あー、確かにな。食いもんの方が喜びそう」 『なんで二人のなかのわたしはそんなガサツなイメージなんですか』 「ふふ、あなたたちホント、仲良しねぇ」 黒尾さんの変なジョークに研磨と一緒に参加してたら、わたしたちを眺めていたお母さんが嬉しそうに笑った。 その笑顔はすごく暖かいもので、自然とわたしも笑顔になる。 『研磨は?誕生日いつ?』 「10月16日」 『10月16日ね。覚えた』 「絶対すぐ忘れるでしょ」 『忘れないよ。ちゃんとカレンダーに書いとくし』 「俺もなまえの誕生日覚えた」 『黒尾さんの次の日だもんね』 「うん、クロの次の日」 『研磨は、黒尾さんの誕生日の一か月と1日前』 「なぁ、なんでお前らの日付の基準は俺の誕生日なの」 わたしのスマホのカレンダーに、ふたりの誕生日がメモされた日だった。
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