「梅雨うざ…」


窓の外を見ながら、研磨が呟く。
現在昼休み。


『雨嫌い?』

「嫌いだよ。好きな人なんているの」

『わたしはわりと好きだけど』

「え、なんで。おかしいよそれ」

『よく言われる』

「雨の何がいいのさ…外での体育無くなるから?」

『それもあるけど…雨の匂いとか音とか好き』

「雨って匂いするの?洗濯物の半乾きの匂いとか?」

『違うわ。なんかするじゃん』

「わかんないけど」


梅雨である。
雨を鬱陶しそうに眺める研磨を見ながら、なんで自分は雨を好きなのか考えたけどわからなかった。


「今日部活でしょ」

『うん。ババロア作るよ』

「ババロア?なにそれ」

『んー…なんかプリンとゼリーの中間みたいなやつ』

「美味いの?」

『うまいよ。食べる?』

「食べる」

『じゃあ研磨の部活終わるの待ってるね』

「うん。ついでに晩ご飯うちで食べて帰れば?母さんがなまえに会いたがってた」

『じゃあお邪魔しようかな』

「言っとく」

『ん』


という軽い感じで、研磨のお家へお邪魔することが決まった。
となると、今日作るババロアは研磨んちへのお土産ってことで多めに持って帰ろう。
スマホを取り出してお母さんにラインを送る。
今日晩ご飯食べて帰りますという内容である。
スマホ画面をスワイプしながら、ふと頭に黒尾さんのことが浮かんだ。
研磨の家に行くと必ずと言っていいほど黒尾さんと遭遇するからだ。
今日も会えるんだろうか、と考えて、はたと動きを止める。
え、なにそれ、なんかそれって黒尾さんに会いたいみたいじゃない?
わたし黒尾さんに会いたいのか。
ぐっと息が苦しくなったような気がして、深く息を吸い込んだ。
なんで最近こんな異常な感情ばっかり浮かぶんだ、望んでないのに。


「…帰りも雨降ってるのかな」

『止まないんじゃない?』

「梅雨うざい…」

『どんだけ雨嫌いなの』

「傘差すのめんどい…」

『ああ、それはわかる。傘ってそろそろ進化しろって感じだよね』

「うん。持たなくても頭上にずっと浮いといてくれるとか」

『いいねそれ』

「うん……ん?」

『ん?』

「なんでもない…クロからラインきただけ」

『ふーん』

「……」


研磨が手に持っているスマホを見下ろしながら、すごい嫌そうな顔をする。
黒尾さん研磨にどんなラインしたんだ。
と思いながら、机に肘をついて研磨を眺めた。


「……クロ、学校に傘持って行ってないんだって」

『…朝雨降ってなかったもんね』

「降水確率100%だったのに…」

『梅雨なのにね』

「うん…それで、帰るときに音駒まで迎え来てって言ってる」

『研磨に?』

「うん。傘買ってきてだって」

『じゃあ、部活終わってから音駒まで黒尾さん迎えに行くの?』

「……めんどくさいけどそうなるね。なまえが嫌なら行かないけど」

『いいよ、行こ』

「…まあ…なまえがいいなら」

『うん。夜も土砂降りっぽいから傘ないと風邪引くかもしれないし、黒尾さん』


頷けば、研磨は黒尾さんに返信しているのかスマホをいじる。
しかし梅雨真っ只中だというのに、傘持っていかないなんて黒尾さんアホなのかな。

ということで、研磨の部活終わってから音駒まで黒尾さんを迎えに行って、三人で帰ることが決定した。
途中で傘買わなきゃ。
そういえば音駒の近くにコンビニあるけど、多分音駒からそこまで走ったとしても濡れてしまうから研磨に迎えを頼んだんだろう。


「なまえが来てくれるなら相合傘しちゃおっかな。だって、クロが」

『絶対はみ出すじゃん』

「あれ、相合傘はいいんだ」

『いいっていうか…いやではないけど』

「ふーん」

『え?黒尾さんの傘買って行くんだよね』

「うん。俺今日財布持ってきてないけど」

『え、持ってないの』

「うん。忘れた」

『…じゃあわたしが買うしかないね』

「なまえがクロと相合傘するなら買わなくていいじゃん」

『…研磨が黒尾さんと一緒に使えばよくない?』

「やだよ。クロ傘に入れたら濡れるじゃん俺が」

『わたしの傘に黒尾さん入れても濡れるよ、わたしが』

「…そこは大丈夫でしょ…相合傘したら男の肩が濡れるって相場が決まってるから」

『黒尾さんが濡れるのもやだよ。もし肩冷やして故障とかしたら困る』

「雨でそんな大げさなことにはなんないでしょ」

『わかんないじゃん。いいよ、わたしが買ってあげるよ』

「まぁクロにお金返してもらえばいいよ」

『うん』


研磨ってわりとよく財布忘れるのはなんでなんだろう。
まあ中学校でお金使うことなんて滅多にないから問題ないんだろうけど。
そういえばコンビニの傘っていくらくらいだっけ、と考えながら、放課後作るババロアのレシピをおさらいした。


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