『リツコ、明日って部活、何作るんだっけ』

「ババロアでしょ?最近暑くなってきたから冷菓ばっかだよね」

『来週はガトーショコラにしよーよ』

「やだよ、チョコ刻んでる間に溶けてうざいんだもん」


チッ。
明日の水曜日、我ら菓子文化研究部はババロアなるものをつくるらしい。
今日は火曜日で、ユカと後輩の一人が買い出し当番である。
なのでリツコと一緒に教室でだべっていた。
チョコは嫌だとか言いながらポッチー食べてるお前はチョコに謝れ、とか思いながらスマホを見る。
黒尾さんから一発屋芸人がギャグをしている動くスタンプが送られてきたからだ。
高校でも今から部活くらいの時間帯なのに、なにしてるんだろうこの人。


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[スタンプ]

[スタンプ]


オッス
オラ黒尾

かーめーはーめ


はっ!!

ヒマなんですね


いや、ちょい相談あってさ

なんですか?


女の子が貰って嬉しい
プレゼントってどんなの?


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『………』

「なに、どしたの?」

『あ、ううん。なんでも』


ポッチーを摘もうとしていた手が停止したので、リツコが不思議そうに尋ねてきた。
いや、別にどうもしてないけど。
なんでわたし、動揺してるんだろう。
黒尾さんから送られてきたチャットの内容に、胸のあたりがざわざわした。
意味わかんないけど、テンションが下がる。

黒尾さん、誰か女の人にプレゼントするんだろうか。
そうでなきゃこんなこと聞いてこないよね、と、何故か嫌な感じがする胸の辺りをぎゅっと握って、なんて返信しようか迷う。
プレゼントとか知らないし、と言いたいところだけど、先輩相手にそんなの言えない。
もやもやする、胸が気持ち悪い。
なんて返せばいいかわからなくて、もう無視しとこうかな、と思っていたら、手の中でスマホがポコッとまた鳴った。
続けて黒尾さんからチャットが送られてきたことを知る。


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女の子が貰って嬉しい
プレゼントってどんなの?

ちなみに、俺が誰かに
あげるわけじゃないからな?

そうなんですか?


残念ながら。
友達の彼女が
もうすぐ誕生日らしくてさ
プレゼントめっちゃ迷っててな

なんだ。
黒尾さんが女の子に
プレゼントあげるのかと
思いました


自分のことだったら
自分で考えるわ(笑)

で友達に相談されたけど
女子にプレゼントとか
したことねぇから
なまえに相談なう

なうってもう
古いらしいですよ


え、マジで

(´・v・`)


なにその顔
腹立つな(´・v・`)

真似しないでください

プレゼントとかわたしも
よくわかりませんけど


なまえは何貰ったら
嬉しい?

まんがの単行本とか
ですかね?


こりゃ相談する人
間違えたわ(´・v・`)

(¬_¬)

いま友達といるんで
聞いてみます


おー
頼む


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一度黒尾さんとのトーク画面を閉じて、意味もなくため息をついた。
なんでわたし、女の子にプレゼントをあげるのが黒尾さんじゃないってわかって、こんなにホッとしてるんだろう。
あんなにもやもやして嫌な感じだったのに、今はむしろ嬉しいくらいの気持ちだ。
こんなの意味がわかんない。
こんなの嫌だ、でも考えるのも嫌だ。
わがままか、と自分で自分にツッコミをいれてから、正面で机に両肘をついてスマホゲームしているリツコに目をやる。


『ねぇ、男から貰って嬉しいものって何?』

「え?なにいきなり」

『なんか黒尾さんの友達が、彼女にあげる誕生日プレゼント悩んでるんだって』

「へー、そんな個人的な相談する仲なんだぁ?」

『もういいからそーいうの』

「はいはい……んー、プレゼントねぇ…そんなの人それぞれだし付き合ってどれくらいかにもよるでしょ」

『人に相談するほど悩んでるってことは、付き合ってそんな経ってないんじゃないの』

「かもね。だったら、ベタにアクセサリーじゃない?ネックレスとか…指輪はちょっと重いかもね」

『ん。他は?』

「耳に穴空いてたらピアスとか…ブレスレットもいいよね。値段は高すぎたら相手も気使うし、まぁ安すぎず…みたいな」

『ふーん…』

「ま、好きな人が自分のために真剣に悩んでくれたらどんなものでも嬉しいんじゃない?って言っといて」

『ん。他は?』

「他ぁ?んー…一緒に買いに行くのも一つの手じゃない?」

『へー…』


リツコってすごいな、恋愛マスターなのかな。
わたしはネックレスとかいらねーと思うけどね。
ブレスレットと指輪とピアスはまあ、あれば着けるけど、ネックレスってあんまり好きじゃない。
なんか留め具が前に回ってきてうざいし髪に絡まるしお風呂で外すの忘れるし。
まぁそんなことはどうでもいいので、黒尾さんに返信するためトーク画面を開く。


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おー
頼む

ベタにアクセサリーが
いんじゃないかって
言ってました


ああ、ベタだな。
嬉しいモンなのか

嬉しいんじゃないですか?
ネックレスとか
ブレスレットとか
穴開いてたらピアスも
いいって言ってましたよ

指輪は重いかも
らしいです


まだ付き合って
二カ月とからしいし
確かに指輪は重いかもな。

あと値段は
高すぎず安すぎず
がいいらしいです。
それと
好きな人が自分のために
真剣に悩んでくれたら
どんなものでも嬉しい
らしいですよ


おー、言っとく!
ありがとな( ´ ▽ ` )
参考になると思うわ。
その友達にもお礼言っといて

言っときます


つーかなまえの友達
なんかすげぇな。
恋愛マスターかな

わたしも
思いました。
彼氏いるからですかね


彼氏いんだ、最近の
中学生はいろいろ早いネ

ですね


お前も中学生だろ(´・_・`)
やっぱなまえも
ネックレスとか貰ったら
嬉しいの

わたしネックレス
あんま好きじゃないんで
微妙です


オイ
好きな人に貰ったもんは
何でも嬉しいんじゃ
ねぇのかよ

さあ。
わたし好きな人に
物もらったことないんで


さみしい子だなお前は。
どれ、俺が慰めてやろう

いりません
余計なお世話です


相変わらずの塩対応ですね
なまえさん

ていうか黒尾さん
いま部活の時間じゃ
ないんですか?


今日ミーティングだけ
だったんだよ。
まぁ今から自主練するけど

そうなんですか。
ストイックですね


他にやることねぇしな

水分補給しながら
がんばってください


おーありがと( ´ ▽ ` )
じゃー自主練いってきまーす

p(^v^)q



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リアルタイムで黒尾さんのことを知れることが嬉しいのはなんでなんだろう。
目の前にいるリツコをちらりと見てから、気付かれる前に俯いた。
黒尾さんのことや自分の変な感情を、意味もわからないのに誰にも言えないのは。
リツコやユカに、この気持ちを相談してしまったとき、返ってくる答えが分かっているからだ。
本当は気づいているくせにわからないふりをするのは、自覚を持つのがものすごく、怖いから。
まだ大丈夫、まだ気付かなくてもいい。
だってまだ、この感情は『』ではないはずだから。

この空欄に入る言葉を見つけられるのは、きっとまだ、まだ先の話。


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・ポッチー…有名お菓子メーカーのチョコレート菓子。



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