「ホントに黒尾先輩と付き合ってないの?」 月曜日、朝のホームルーム後の休み時間、なう(もう古いとか言われた)。 わたしは朝コンビニで買ってきたジャンプを自分の席で読んでいた。 ちなみにジャンプを週ごとに交代で買って貸し借りする、という研磨との決め事は継続中で、先週のジャンプを研磨が買ってくれたから今週はわたしが買ったのである。 それで、最近いろいろあってシリアスな展開が続いているヲンピースを読んでいたら、ユカとリツコがわたしの席にやって来た。 研磨はわたしの隣でゲームをしている。 そしてユカの第一声がこれである、呆れた。 『付き合ってないって。昨日ラインで散々言ったじゃん』 「でも怪しいじゃん!ねぇリツコ!」 「やめときなってユカ、なまえそろそろ本気で怒るよ?黒尾先輩はなまえが困ってたから助けてくれただけなんでしょ」 『そーだよ。ていうか、その話の前にユカはわたしに言うことがあんじゃないの』 「うっ……昨日はゴメン……」 『ん』 全くユカときたら、何故そんなにわたしに彼氏を作らせたがるのか。 理解不能だし迷惑だしうざい。 でもラインでも謝ってたし、いま直接謝らせたので許してやった。 我ながら心が広い。 「でも、うちもびっくりしたよ。リョウマくんがさ、ユカのスマホでなまえ口説いてたらいきなりドス声の男がキレ気味で出たから超ビビったって言ってた」 『ああ、黒尾さん優しいよね。てか、リツコはアツムくんと仲直りしたの?』 「…それは微妙」 「なまえ、リツコとアツムくんの喧嘩の原因知ってる?」 『知らないけど』 「なんか、アツムくんがクラスの女子とラインしてたんだって、しかも二人でデートする約束とかしてたらしいよ!」 『へー、そりゃアツムくんが悪いわ』 「でしょ!?だから仕返しに合コン参加してたわけ。そしたらアツムも謝ってきたんだけど、なんかイライラするからまだ許してないの」 アツムくんとはリツコの彼氏で、他校の人である。 小学校は一緒だったのでわたしも知ってるけど、野球部の部長とかしている坊主の人だ。 中二からリツコとアツムくんは付き合い始めた(小学校卒業してからも連絡取り合ってたらしい)。 アツムくんがわりとイケメンで坊主のわりにモテるので、リツコはいろいろと苦労しているらしい。 『ていうか、他の女とラインしてたことなんで知ったの。携帯見たの』 「うん、見た。そしたら黒だった」 「サイテーだよねアツムくん!」 『まぁね…』 でも携帯見るのはいいのか?浮気疑惑かかっていたら許されるのか? リツコとユカがわたしの机のそばでアツムについての愚痴をぐちぐち言ってるのを聞き流しながら、わたしはジャンプを読み進めていく。 ヲンピ来週休載かよ。 ヌルトもうすぐ完結かよ。 「〜〜〜なんだけど、なまえも来るでしょ?」 『え?なに、聞いてなかった』 「もー!ジャンプとうち、どっちが大事なの!?」 『ジャンプだけど』 「ひ、ヒドイ!リツコ聞いた今の、なまえに振られた!」 「そりゃなまえはどう見てもユカよりジャンプのほうが好きでしょ」 『で、なに』 「あ、そーだそーだ。来週の土日さぁ、買い物行こーよ。新しい浴衣と水着買いに行こ!」 「土曜日うちに泊まって、日曜日に新しくできた店行こうって話なんだけど。なまえも来るでしょ?」 『あー…土曜は行けるけど日曜日は無理』 「えっまたぁ!?なんで!」 『黒尾さんの試合があるから、三回戦』 「出た、彼氏!」 「あんたスポーツとか好きじゃなかったのに変わったねぇ…黒尾先輩の影響でしょ?もー付き合えば?」 『彼氏じゃないし…なんであんたらはわたしが男と絡むとすぐくっつけようとすんの、めんどくさい』 「だぁって、なまえが恋愛してるとこ見てみたいんだもん!絶対可愛いじゃん!」 「なまえって恋愛のことになると意外と小さいことで悩みそうじゃない?目ぇ逸らされただけで悩んだりしてたら超面白いんだけど」 『目逸らされただけで悩むわけないでしょ、妄想も大概にしろ』 「なまえが頬っぺ真っ赤にしてるとことか見てみたーい!」 「でもなまえって冬になると常に頬っぺ赤いじゃん。色白いから」 『ああ、あれコンプレックスなんだよね軽く。冬になるとさ、会う人会う人に”顔赤いよ?どうしたの?”とか言われるから』 「なんで赤くなんだろね?頬っぺだけ血行いいんじゃないの、なまえ冷え性だけど」 「だから色白だからじゃないの?」 『……で、土曜日どうすんの』 「あ、そーだった。…んー、じゃあ土曜日に買い物行こ!新しい店!」 「そだね、日曜日なまえ来れないし」 ということで、土曜日に買い物に行くことが決まった。 話の中に出てきたけど、わたしはなぜか、毎年冬になると頬っぺたが常にほんのり赤くなる、というコンプレックスがある。 リツコの言う通り色白だからなのか、ユカが言うように冷え性のくせに頬っぺただけ血行がいいからなのかはわからないけど。 子供みたいで恥ずかしいのでコンプレックスなのだ。 冬ばかりはおばけの青白い顔が羨ましい。 「最近よくバレーの試合見に行ってるけどさ、試合見るの楽しい?」 『楽しいよ。ルールとか覚えたら面白いし』 「前にアツムくんの野球の試合連れてったときは寝てたのにね」 『野球とか特に興味ないし』 「やっぱかっこいーの?バレーしてる高校生!みんな背高いんでしょ!?」 『まぁ中学生よりは大きい人が多いけど…みんなってことはないんじゃない』 「ふーん…黒尾先輩は?かっこいーの?バレーしてるとき」 『え?…うん、まあ……』 「あっれぇー!?なになにそのモニョモニョした感じ!?もしかしてホントにラブ!?」 『べつに…思い出してただけ』 「あっやしーい!」 『ユカ、ほんとうるさい』 ユカがニヤニヤしながら飛び跳ねているのを蹴り飛ばしたくなった。 なんなんだコイツは。 「ていうか高校生のバレー部ってなんの大会してんの?いま」 『インターハイの予選』 「インターハイって全国大会だっけ?すごいじゃん、もう三回戦なの?」 「音駒って前強豪だったんだよね?勝てそう?」 『わかんないよ。三回戦の相手は強いとこだって聞いたけど』 「えー、ヤバイじゃん。なまえ、黒尾先輩にお守りとか作ってあげたら?ほら、フェルトとかでさ、必勝!みたいな」 『は?やだよ。なんでそんなマネージャーみたいなことしなきゃいけないの』 「マネージャーみたいな、っていうか、黒尾先輩だけに渡すんだからもう、彼女みたいな、だよねぇ」 「なまえ手先器用なんだからさ!絶対喜んでくれるよ!」 『やだって。ただの後輩に手作りのお守り貰ってもキモいだけでしょ、重すぎ』 「やだやだ、ホントなまえって可愛くないんだから!」 『可愛くなくていいわ』 「あ、先生きた。じゃーねなまえ、授業寝んなよ」 「あとでねーん」 『んー』 あと数分で授業始まるってタイミングで先生が教室にやって来たので、ユカとリツコが自分の席に帰っていく。 ていうか同じクラスなのになにが「じゃーね」? 別れの挨拶いらなくね。 隣に黙って座っている研磨に目をやって、読み終わったジャンプを研磨の机の上に乗せた。 俯いていた研磨の顔がこっちに向く。 「もう読んだの」 『うん』 「じゃ借りる」 『どーぞ。ユカがうるさくしてごめんね』 「ああ…いいよ別に、いつものことだし」 『(いつものこと……)』 「中川さんってホントなまえのこと好きだよね」 『そーだね、うざいよね』 「…まあ声がでかいなとは思うよ」 『わたしも思う』 「……お守り作んないの?」 『え、黒尾さんに?』 「うん、さっきフェルトとか話してた」 『作るわけないじゃん。買うならまだしも手作りとか重すぎでしょ』 「クロわりとそういうの好きだと思うけど」 『だとしても、わたしに貰ったって嬉しくないでしょ。それにまだ予選の三回戦だし…』 「じゃあ、予選勝ち抜いたら作るんだ」 『そーいうわけでもないけど…ていうか作んないよ』 研磨がユカの影響を受けてしまっているような気がする。 しかしまあ研磨と共通の話題として黒尾さんのことを話すことは多いので、それはきっと気のせいなんだろう。 スピーカーから本鈴が鳴り響く。 わたしの嫌いな数学の授業が始まった。 ------------------------------------------------ ・ヲンピース…某人気海賊少年漫画 ・ヌルト…某人気忍者少年漫画
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