------------------------------------------------


お土産何がいい?

なんのお土産ですか?


明日なまえちゃんちに
持ってくお土産

いりませんよ。
気使わないでください


じゃテキトーに買ってくわ

ほんとに大丈夫なんで
手ぶらで来てください


まあまあ。
その話は置いといて
駅からなまえちゃんちまで
どー行くの


[写メ]
駅からうちまでの地図です


駅出て左に歩いて
二つ目のコンビニを
左に曲がって2つ目の家?

はい。
ちなみに二つ目のコンビニは
ナインイレブンです


りょーかい。
迷ったら電話するから
番号教えてくれ

090-××××-××××
です


せんきゅ〜
人恋しくて眠れない夜とか
電話していーかな?

わたし気に入らない人は
すぐ着拒する派です


悪かったと思ってるよ

明日気をつけて
来てくださいね


おー。
なまえちゃんち何色の家?

白です。
みょうじって表札出てるんで
わかると思います


わかった。
多分1時過ぎくらいに
行くと思うけどいいか?

いいですよ。
じゃあもう眠いんで寝ます


おー。
おやすみ

おやすみなさい



------------------------------------------------


ピンポーン。ピンポーン。


『……ん…?』


いい夢見てた気がするのに、呼び鈴の音で目が覚めた。
ぼんやりする頭と目でとりあえず時計を確認すると、もう昼の1時半だった。
あ、黒尾さんが来るって言ってたのに寝すぎたなあと思いながら、のそっと身体を起こす。
昨日は夜遅くまでリツコの家で遊んでて帰ってくるのが遅かったので寝るのも遅かった。
というのが寝坊の言い訳である。
ベッドの上に座り込んで目をこすりながら、いまのピンポン鳴らしたのが黒尾さんだとすると迷わず来れたんだな、と思った。


『あ、黒尾さん。おはようございます』

「お、ホントになまえちゃんちだった。おはよ」


ピンポンが鳴ったのが夢じゃなければ間違いなくお客さんが玄関の向こうで待っていることになるので、わたしは寝巻きの上下グレーのスエットのまま玄関へ向かいドアを開けた。
おそらく髪の毛ボサボサだろうしだらしない格好だけどあんまり待たせるわけにもいかなかったので仕方ない。
ドアを開けた先に立っていたのは、やっぱり黒尾さんだった。
右手にコンビニのビニール袋を持っている黒尾さんはわたしに挨拶を返してくれると、真顔でじっとわたしを見下ろしてくる。
見慣れない私服に身を包んだ黒尾さんは、普段のジャージや制服姿より大人っぽく見えた。


「…もしかして寝てたか?」

『はい。出るの遅くなってすみません』

「ああ、それはいんだけど…髪の毛すげぇことになってんぞ」


やっぱりわたしは寝癖で髪の毛がボサボサになってるらしい。
わたしが今更ながら恥ずかしいなと羞恥心を抱き始めると、黒尾さんは少し笑って、左手をわたしの頭に乗せた。
髪の毛の中に暖かい指が差し込まれる。
びっくりしていると、その大きな手は、絡まった髪の毛を梳かすようにゆっくり、優しい手つきでわたしの頭を撫でる。

心臓がおかしな音を立てて、何故か頬が熱くなった。


『……』

「よし…あ、悪い…ここ玄関先だったな」

『いえ……ありがとうございます』


わたしの髪の毛を整えてくれた黒尾さんの手が離れていくと、また変なさみしさを感じた。
なんなんだコレは、意味がわからない。
こんなのは初めてだ。
怖い。
でもこの動揺を黒尾さんに悟られたくなくて、表情を固めて平気なふりをした。


『上がってください』

「じゃ、お邪魔します」


ニコッとお得意の胡散臭い似非爽やか笑顔を浮かべた黒尾さんが我が家に入るのを見てから、小さくため息を吐いてドアの鍵を閉めた。
靴を脱いでいる黒尾さん。
わたしは自分が寝巻きのスエットですっぴんで歯磨きもしていないことを思い出して、少し後悔した。


「あれ、家の人は?」

『いませんよ。二人とも仕事です』

「え、いねぇの」


わたしの部屋がある二階へ行くため階段を登ろうとしたら、後ろにいる黒尾さんが驚いた顔をした。
世間はゴールデンウイークでもうちの両親は仕事に夢中なので今日も仕事である。
二人ともたいてい帰りも遅い。
娘を放置しすぎだと思う。


『親いないと何かまずいんですか?』

「いや…親のいない家に男と二人きりってマズくねぇの。なんかされたらどうすんだ」

『…なんかするんですか?』

「しねぇように気をつけるわ」

『……なんかしたら研磨のお母さんに言いつけますよ』

「絶対しません何も」


そういば男を部屋に上げるのは初めてなので、そんなこと考えもしなかった。
でも、即座にそんな考えが浮かぶなんて黒尾さんもやっぱ男なんだなぁと思う。
裸足の足でぺたぺた階段を上ると、後ろから黒尾さんも付いてきた。
ちなみにわさびはわたしの部屋にいる。
階段を登りきってわたしの部屋のドアを開けると、中にいるわさびがこっちを向いた。


『わさび、黒尾さん来たよ』

「にゃー」

「おっ、わさびー、久しぶりだなぁ」


お邪魔しますと一応言ってからわたしの部屋に入った黒尾さんは、嬉しそうな声を出しながらしゃがんで、歩み寄ってきたわさびを抱き上げた。
会いたかったんだなと思いながらその大きな背中を眺める。
黒いロンTを腕まくりして着ているその背中がやけに格好よく見えるのは何故なのだろう。


「元気だったかー?」

「にゃー」

「お?なんかちょっとでかくなったんじゃねぇか、お前」

「なー」

「そーかそーか、よかったなー」

「にゃー」


よほどわさびに会えたのが嬉しいのか、もしくは元々ネコと会話する人なのかわからないけど、黒尾さんは楽しそうにわさびとお喋りしている。
その様子は面白いけど、わたしに言えたことじゃないので黙っておいた。


『黒尾さん、わたし着替えて歯磨きして化粧してきていいですか』

「ん?ああ、今スッピンなのか」

『はい、寝起きなんで』

「あんま普段と変わんねぇんだな。別に化粧しなくていいんじゃねーの」

『…いや、スッピンはほら…なんか、アレなんで』

「恥ずかしい?」

『…まあ』

「心配しなくてもスッピンも可愛いぞ。なぁわさび」

「にゃー」

「まあ寝起きのボサボサ髪で現れたのはビビったけど」

『髪については黒尾さんには言われたくないです』

「どーいう意味だ」

『じゃあ、とりあえず身支度整えて来るんでちょっと待っててください』

「おー、わさびと遊んでるわ」


スッピンでも化粧しててもあんまり変わらない自覚はあったけど気分的にアレなので化粧をするため、化粧道具と着替えを持って一階に下りる。
自分の部屋に他人がいるっていうのは変な感じだけどまあいいや。
脱衣所で顔を洗って歯磨きをしてから、持ってきた適当な私服に着替えて軽く化粧をした。
ちなみに服はホットパンツにグレーのパーカーというラフというか楽なものである。


「お、おかえり」


部屋に戻ると、黒尾さんはラグの上に座ってわさびとおもちゃで遊んでいた。


『なんか飲みますか?』

「いや、飲みモン買ってきた」

『そーですか』

「なまえちゃんのもあんぞ」


黒尾さんは持参したコンビニのビニール袋から、ペットボトルのジュースを二つ取り出して床に置いた。
片方はチェ◯オでもう片方がアップルティーだ。
わざわざわたしにも買ってきてくれたんだ、と少し感動した。


「なまえちゃんお土産いらねーって言うからさ。コンビニでジュースとチョコ買ってきた」

『わざわざすみません』

「イーエ。アップルティー好きだろ?」

『好きです、けどなんで知ってんですか?』

「研磨が言ってた」


学校でアップルティーとかそういうのばっか飲んでるから研磨は知ってたのか、と納得しながら、黒尾さんがチョコが入ってるというビニール袋を渡してくるので受け取る。
中を見ると、言っていた通りチョコレート菓子が何個かと、わさび用だろうネコ缶がいくつか入っていた。


『ありがとうございます』

「どーいたしまして」


チョコもわたしの好きなものばかりだったので素直にお礼を言う。
なんでわたしの好きなの知ってるのかは謎だけど。
それにしてもお腹すいた。


『黒尾さん昼ごはん食べましたか?』

「食ってきた。なまえちゃんまだだよな、起きたばっかだし」

『はい。なんで、ご飯作ってきます』

「飯自分で作んの?」

『まあ、はい』

「すげぇな。すげぇ意外」


少し驚いた顔をしてそう言った黒尾さんに、ちょっと複雑な気持ちになった。
研磨もわたしがお菓子作ったりするの意外って言ってたけど、わたしってそんなに家事しなさそうにみえるのだろうか。


『べつに簡単なものしか作りませんけど…』

「何作んの?」

『えーと…たぶん冷蔵庫にうどん残ってたんで、焼うどんにします』

「へー、俺昼焼き飯だった」

『よかったですね。じゃ、作ってくるんで…』

「なぁなまえちゃん」

『はい?』


ご飯を作ってくるため部屋から出ようとしたら、すぐ呼び止められる。
振り返ると、黒尾さんはちょっとニヤニヤしていた。


「腹減ったんだけど」

『…食べてきたんじゃないんですか、焼き飯』

「食ったけど腹減った。育ち盛りだからかね」

『まだ育つ気なんですか?』

「なにその棘のある言い様は」

『いや…それ以上育ったらちょっとした巨人だなと思って』

「なまえちゃんからしたら既に巨人だろ」

『………。黒尾さんも焼うどん食べますか?』

「なに今の間。食うけど」


わたしはそんなにチビじゃないのにやたらチビ扱いされるのがちょっと腹がたつ。
でも黒尾さんから見たらチビなのかもしれないので、気にしないことにした。


『適当に作ってくるんで待っててください』

「はいよ」


2人分もうどん残ってたっけ、とさっき見た冷蔵庫の中身を思い出す。
多分あったと思うけど、なんでわたしが黒尾さんの第二の昼ごはん作らなきゃいけないんだ、とちょっと疑問だった。


------------------------------------------------
・ナインイレブン…大手チェーンのコンビニエンスストア



 / 
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -