「えっ、黒尾さんって黒尾先輩!?」 家族旅行から帰ってきたユカとリツコと一緒にファミレスで昼ご飯を食べていたら、わさびの話になった。 ユカに根掘り葉掘り聞かれたので、わさびをもらい受けた経緯を説明すると、突然ユカがそう大声を出す。 明太子スパを食べながら引く。 『なにテンション上がってんの』 「だって黒尾先輩ってバレー部の黒尾先輩でしょ!?」 「あー、ユカ黒尾先輩のこと好みだって言ってたもんね」 『顔?』 「顔!あと背が高いとこが好みだったの!えー、いいなぁなまえ!」 ユカが黒尾さんを好みだと言っていたのは知っていた。 だって黒尾さんがまだうちの中学に在学してたとき、よくかっこいいと騒いでたから。 そのころわたしは黒尾さんの名前しか知らなくて、顔なんて見たこともなかったけど。 『いいなぁって…なに、好きなの』 「いや別に」 「あんだけかっこいいかっこいい騒いどいて好きじゃないのかよ」 「いや、顔と背は超好みだけど、別に話したこともないし好きにはなんなくない?なんか遠巻きに見てる方が楽しいし」 「確かにイケメンよね。なんかクールな感じするし」 『…いや、クールではないよ』 黒尾さんてクールな感じする? 黒尾さんと知り合った今となっては全然ちっとも思わない。 「てか、孤爪と仲良くなって家行ったら孤爪の幼なじみの黒尾先輩と知り合って、それから偶然何回か会って仲良くなってネコ貰うって、それって運命じゃん」 「ユカ、運命って意味わかって言ってる?」 「リツコも思うでしょ!?」 「んー…まあ、運命かどうかは置いといて…立派な出会いではあるよね、フラグ立ちまくり。付き合えば?」 『なんでそーなった?』 「いーじゃん!イケメンで長身で年上!付き合っちゃいなよなまえ!」 『ユカうるさい。付き合わないし…そもそも好きじゃないしお互い』 「えっ、好きじゃないの?あんなイケメンなのに」 「なまえもカッコいいとは思うでしょ、あんだけ背高いし」 『かっこいいとは思うけど…別に身長とかどうでもいいし、恋愛的な意味では好きじゃないし』 「先輩としては好きなんだぁ?」 『まあ優しいし…たまにうざいけど』 「えー、付き合えばいいのにー。なまえと黒尾先輩お似合いじゃん。ね、リツコ」 「確かにお似合い。身長差はアレだけど」 『お似合いじゃないわ』 「ホントにその気ないのー?つまんない、なまえって恋愛とか全然興味ないんだもん」 「確かに。恋とかしたことないでしょアンタ」 『別にいーじゃん、なくたって。そのうちするよ』 なんでユカとリツコは恋愛のことばっか突っ込んでくるのか。 全然興味ないのに。 男と女が一緒にいたらすぐ恋愛に絡めようとするのはこいつらの悪いクセだ、と思いながら、黒尾さんのことを思い出した。 あ、でも、とふと思う。 『でも、バレーしてるときはかっこよかった。鳥肌立った』 「それって男として?」 『…さあ。わかんない』 「えー、もっとさあ、一緒に居たいとか思わないわけー?」 『……別に。一緒に歩きながら話すのはわりと好きだけど』 「もっとガツガツいきな!そっちの方がおもしろい!」 「ユカ落ち着け。まあ、もしなまえが誰かのこと好きになったら、うちら全力で応援するからね」 『…うん、そのときは邪魔しないでね』 「ヒッド!いまの酷くない!?」 「酷い。やっぱ邪魔しよう」 『やめて』 笑いながら言うけど、わたしが恋愛する日なんて来るんだろうか。 今までで一度もしたことがない。 誰かに特別な感情を抱くなんて、想像もできなくてなんだか怖い。 恋に落ちる、なんて言うけれど、階段から転げ落ちたことのあるわたしには恋にすらも落ちるのは怖い。 知らない感情が顔を出すと、いつも怖いのだ。 それが何かわからなくて。
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