ちょっと付き合って、と黒尾先輩に連れてこられたのは、なんと黒尾先輩の自宅だった。
研磨の家からほど近い場所にある黒尾先輩の家に何故か連れてこられたわたしは、今、研磨と一緒に黒尾先輩の部屋に居る。
最初はびっくりして拒否したのだ、帰りますと。
でも黒尾先輩が、「まあまあ、イイもんあげるから。研磨も一緒に居るしなんもしねーからさ」とか言って、半ば無理やりわたしを自分の家に連れ込み自分の部屋に押し込んだのだ。
黒尾先輩の部屋は、黒とかグレーのものが多くて、わりと散らかっている。
居心地悪いなあと思いながら、床にぺたりと座っているわたしの横で、自分の部屋のようにベッドに座っている研磨に目をやった。
研磨は、さっきわたしがあげたアップルパイを早速開けて、一切れ摘んで食べようとしていた。
切り分けといて良かったと思いながら、もしゃもしゃアップルパイを食べている研磨を見つめた。


「うまい」

『合格?』

「100点」


やった。研磨からアップルパイに100点もらいました。と喜んでいたら、どすどすと部屋の外から聞き覚えのある足音が聞こえてきた。
黒尾先輩の足音である。
どすどす階段を上ってくる黒尾先輩のその足音を聞きながら、早く帰りたいと思った。


『ねぇ、なんでわたし黒尾先輩の部屋に連れてこられたの』

「……なまえがネコ好きって言ったから」


何その理由、意味がわからない。
もしゃもしゃアップルパイを食べる研磨を見ながら、黒尾先輩の足音を聞いていると、バン、と部屋の扉が開かれた。
ドアを開けて現れたのはもちろんこの部屋の主である黒尾先輩だ。
わたしを連れ込んだくせにしばらく1階で何かしていた黒尾先輩がやっと戻ってきたので顔を向ければ、黒尾先輩は、両手で黒いもふもふしたものを持っていた。


「じゃーん」

『!』


黒尾先輩が両手で優しく持っているのは、小さな子ネコだったのだ。
じゃーん、とか言ってその真っ黒な毛の長い子ネコを近づけてくる。
その黒い子ネコは、目がくりくりしてて、黒尾先輩の片方の手のひらに収まりそうなほど小さくて、毛がふわふわしていて、なんていうか、わたしの言葉では表現できないくらい可愛い。
ひくひくと鼻を動かしている子ネコの両脇を掴むように持っている黒尾先輩は、ニヤニヤしながら、その子ネコを床に座っているわたしの膝の上に乗せた。
うわ、ふわふわだ!ふわふわしてる!
テンションが急上昇である。


『えっ、…えっ?』

「かわいーだろ?」

『かわいいですけど……』


わたしの膝の上に降ろされた子ネコは、前足でわたしのスカートを少し弄びながら、大人しくしている。
うわあ可愛い、今まで見たネコの中で一番可愛い。
でも、何故黒尾先輩がわたしに子ネコを見せたがったのかわからない。
わたしの正面にしゃがみ込んで、わたしの膝で丸まっている子ネコの頭を指先で撫でている黒尾先輩を見ると、目が合った。


「なまえちゃん」

『はい』

「こいつ飼わない?」

『……え?わたしが?』


驚きのあまり敬語を忘れた。
ニヤニヤ笑っている黒尾先輩から目を離して、なー、と小さな声で鳴いた子ネコを見下ろす。
きゅるるんとしたくりくりの目と視線がかち合ってしまった。
そんなはずはないのに、まるで”わたしを飼って”と言っているような視線を感じる。
白状すると、わたしはネコ普通に好きだし、子ネコなんてもっと好きだし、この子ものすごく可愛いし、いますぐ連れて帰ってしまいたい。
と思ってたら、また子ネコが、なー、と小さくて可愛い声で鳴いた。


『か…かわいいぃ………』


これ以上直視できないので両手で顔を覆って俯いた。
可愛すぎる。
黒尾先輩はわたしにこの子を飼って欲しくて連れてきたのか、と理解した。


「そいつ俺んちの庭に迷い込んでてさ。がりがりだったし汚れてたからノラだったんだろうけど、まだ小せぇからとりあえず保護したんだよ」

『…先輩んちは飼えないんですか?』

「母さんが猫アレルギーでな。今隔離してんだけど、やっぱ痒いんだと」

『……研磨んちは?』

「…父さん猫アレルギーだから」


猫アレルギー多いな。
と思いながら指の間から子ネコを見ると、子ネコは相変わらずわたしを見つめていた。
かわいすぎて鼻血出そう。


「他も当たったんだけど貰い手いなくて困ってんの。なまえちゃんち無理?」

『……親に聞いてみます』

「おっ、頼むわ。病院連れてって怪我治したし、病気も全部陰性だったから」

『はい』


こんなかわいいネコ欲しくないわけがないし、昔家でネコ飼ってたし、多分大丈夫だと思う。
ので、とりあえず頷いておいた。
子ネコのふわふわの毛を撫でると、子ネコは短い尻尾をゆらゆらさせながら、なー、と鳴いた。


『写メ撮っていいですか?親に見せるので』

「いーよ」


飼ってもいいか許可取るときに見せよう、と、スマホを取り出してカメラを起動させる。
わたしの膝で丸まっている子ネコを一枚撮影した。
うーん、あんまり顔見えないな…と思ってたら、黒尾先輩が子ネコをまた両手で持ち上げて、正面をわたしに向ける。
撮りやすくしてくれたんだ、と気付いて、ありがたく黒尾先輩の大きな手ごと、抱き上げられている子ネコを何枚か写真に撮った。


 / 
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -