『…っう…』

「…ん?」

「…なまえ、どうかしたの?」

『…うう…っぐす…っ』

「「!?」」


涙が止まらなくなった。
声をかけてくれた研磨に返事が出来ないくらいにわたしは号泣している。
後ろのベッドの上で、研磨と黒尾先輩が驚くのがわかった。
そりゃ驚くだろう、漫画を読んでたわたしがいきなり泣き出したのだから。


「な…泣いてる…?」

「なまえちゃん、どした?」

『うっ、ぐすっ、うっ、うう』

「どっか痛いのか?」


わたしのすぐ後ろに座っている黒尾先輩が、俯いて泣くわたしの肩に手を置いて頭上から顔を見ようと覗き込んでくる。
まあわたしは俯いてるので先輩に顔を見られることはないのだけど。


『い、いたくない…っ、ぐす、ひっく、うっうっ』

「ならどーした、何で泣いてんのか言ってみ?鉄朗お兄さんが聞いてやるから、な」

「…子供扱いしすぎだよ…鉄朗お兄さんとか引く…」

「優しさだろ、引くなよ」

『…っあ、あじゅ…!』

「…あじゅ?」

『あ…アジュムエルダ先生がっ…』


肩に乗っている黒尾先輩の手があったかくて、更に涙が止まらなくなる。
アジュムエルダ先生が死んだ。
しかも最終話で。
後ろにいる研磨と黒尾先輩は、しばらく何も言わなかった。


「……アジュムエルダ先生…て」

「漫画の登場人物…最終話で死ぬよね」

『まさか…し、死ぬなんて…!何回も死にかけて生き残ってたのに、まさか、最終話で死ぬなんて…っ』

「…なに、なまえちゃんはアジュムエルダ先生が死んだから泣いてんの」

「……まあ…そうなんだろうね」

『アジュムエルダ先生は最後まで生き残るんだって、期待させておいて最終話で殺すなんて…酷すぎるよ…』

「……アジュムエルダって、確かスキンヘッドのゴリマッチョだよな」

「うん…作中ではゴリラって呼ばれてる」

「…常にタンクトップがピチピチの、無駄に彫りの深いオッサンだよな」

「うん…」

「なまえちゃん…まさか、アジュムエルダが泣くほど…好きなのか?」

『一番、好きでした。なのに…ううっ、アジュムエルダ先生…っ』

「…どういう趣味だ……」

「アジュムエルダ先生、女性ファンの人気投票では最下位だったのにね」


そう、二人の言う通りアジュムエルダ先生は白人風の顔したスキンヘッドのゴリマッチョである。
連載当初からずっとわたしはアジュムエルダ先生が一番好きなのだが、何故か他の女性にはそのキャラ自体が受け入れられず、わたしは趣味を疑われるという謎の事態になっているのだ。
が、誰がなんと言おうとわたしはアジュムエルダ先生が大好きなのだ…だから、最終回でアジュムエルダ先生を殺した作者を許さない。


『…一生許さない……』

「なんか怖ぇこと口走ってんだけど」

「アジュムエルダ先生を殺した作者が憎いんじゃないの」

「……なに、なまえちゃんはスキンヘッドのマッチョが好きなの?そーいうのがタイプなの?」

『はい、その通りです』

「…そーいうのと付き合いたいの?」

『もちろん、なので将来は日本語ペラペラの日本駐在の米兵と結婚しようと思ってます。スキンヘッドでマッチョの』


涙と心が落ち着いたので振り返って笑顔でそう返事をすると、引いたような哀れんだような微妙な面持ちの研磨と黒尾先輩がわたしを見下ろしていた。


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