『研磨、昨日漫画ありがとね』

「うん」

『でも研磨じゃなくて黒尾先輩が来たから、ちょっとびっくりしたよ』

「ああ…駅まで送るのとかめんどくさかったから…クロが送ったんでしょ?」

『うん、ちょっと怖いけどいい人だね。黒尾先輩』

「……いい人ではないよね」


木曜日、今日の朝はきつかった。
昨日研磨に借りた漫画をじっくり読んでいたからだ。
面白くて一気に10巻読み終えてしまって研磨に返さなきゃいけないんだけど、学校には持ってこなかった。
多分研磨は、学校から家に漫画持って帰るの嫌がるだろうから、次の部活のときにでも持ってきて、一緒に帰って、わたしが研磨の家まで届けて、続きを貸してもらおうと思っている。

昨日駅までわたしを送ってくれた黒尾先輩はいい人だと思うんだけど、研磨はビミョーな顔をして否定した。


『え、いい人じゃん』

「外ヅラいいだけ…昨日のクロは猫かぶってただけだよ」

『そーなの?』

「うん」


ピコピコゲームしている研磨がそう言うので、黒尾先輩はいい人ではないらしいと脳にインプットし直した。
危ない、研磨が教えてくれなかったら黒尾先輩をいい人だと勘違いするところだった。
でもまあ悪い人ではないんだろう。
研磨が懐いてるし、昨日送ってくれたし。


「あ、漫画読んだ?」

『うん、読んだよ。面白くて全部読んだから今日朝寝坊しかけた』

「もう全部読んだんだ…じゃあ、続き貸すけど」

『うん、ありがとう!来週の部活の日に借りに行っていい?そのとき借りたの持ってくるから』

「いいけど…いちいち持って来たり持って帰ったり、めんどくさくないの?軽いもんでもないし…」

『まあめんどくさくなくはないけど…漫画読みたいし』


ゲームに目を落としていた研磨が、猫みたいな目をわたしに向けた。
一瞬合った視線はすぐに逸らされる。
研磨は人と目を合わすのが苦手らしくて、あんまり顔を見てこない。
なのでたまに研磨の目を見るたびに、猫みたいな目だなあと未だに思う。


「じゃあうちで読めば?」

『いーの?』

「いいよ。漫画袋に詰めるのめんどくさいし」

『でも部活の後だと遅くなるよ』

「土日に来れば?今週は土日どっちも練習昼までだし」


まさか家に呼ばれるとは思ってなかったので少し驚いた。
でも確かにそれはとても都合がいい。
土日の予定を思い出しながら、そういえば日曜日はユカたちと買い物行く約束したな、と思った。


『じゃあ土曜日行っていい?』

「いいよ」


これは嬉しい。
家に呼ばれるほど仲良くなれたのも嬉しいし、いちいち漫画を持ち歩かなくてもいいのも嬉しい。
しかも纏めて読めるのも嬉しい。
特に予定のなかった土曜日が楽しみになったところで、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


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