孤爪くんに借りたジャンプに、お礼として飴玉を三つ乗っけて返却した。
孤爪くんは飴玉を見てびっくりしていたけど、小さい声で「ありがとう」と言ってくれて、わたしは少し嬉しくなった。
それから少し話をして分かったのは、孤爪くんはやっぱり人見知りなこととか、友達が少ないこととか、マンガやゲームが好きなこととか。
わたしは久しぶりに、好きな漫画について語り合える人を見つけられて、とても嬉しくて楽しかった。
ユカやリツコといるのも楽しいけど、やっぱり漫画について話すのとか、くだらなくて好きだ。

あれから孤爪くんとは、隣の席ってこともあって割とよく話すようになった。
前はしどろもどろだった孤爪くんも、今は緊張せずに話してくれるようになったので、野良猫を手なづけたみたいな気持ちを抱いたりした。


『で、今迷ってるんだよね。単行本買おうかなーって』


今日も教室で孤爪くんと話をしている。
わたしは最近迷っているのだ、非常に。
最近ハマっている少年マンガの作者さんが前に描いてたマンガ(完結済み)の単行本を集めるかどうか。
満喫で読むって手もあるけど、満喫っていろんな人の声がひそひそ聞こえて集中できないからあんまり好きじゃない。
でも単行本集めるのは出費が痛いし。


『貯めたお小遣いを使うべきかどうか…悩ましいよね……』

「それなら、俺持ってるよ」

『え、全巻?』

「うん…貸そうか?」

『えっ、いいの?』

「いいよ」


うーんうーんと悩んでいたら、孤爪くんが神の手を差し伸べてくれた。
神かあんたは。
孤爪くんに借りれたら満喫に行くことも貯金を崩すこともなく漫画が読めるじゃないか。
最高な提案だ。


『じゃあ貸りる、ありがとう孤爪くん』

「うん。あ、でも持ってくるのは重いから取りにきてね」

『もちろん!』


全30巻くらいある漫画を持って来させるわけにもいかないので頷く。
普通の男子ならここで小分けにして持ってきてくれるんだろうけど、孤爪くんはそうはいかないのだ。
まず疲れることが嫌い、汗をかくのも嫌い、頑張るのも嫌い、そんな彼が何故バレー部に所属してるのか不思議だけど、それは幼馴染の影響らしい。
一つ年上の、孤爪くんはクロと呼ぶその幼馴染さんは、ついこないだ卒業したわたしたちの先輩の一人だ。
先輩といっても喋ったことはないけど、背が高くてイケメンらしいので、黒尾先輩という名前だけ一方的に知っている。


『じゃあ、今日の帰りに借りに行っていい?孤爪くん家、駅の方だったよね』

「ん?うん」

『わたし電車通学だから、方向一緒でしょ?だから帰り道に寄るよ』

「いいけど…俺部活だよ」

『わたしも部活だから、たぶん帰りの時間おなじくらいになるんじゃないかな』

「そうなんだ…何部?」

『菓子文化研究部』

「…そんな部活あったんだ、うちの学校」

『うん。お菓子作ってるだけだけどね』

「お菓子とか作れるんだ?なんか意外」


意外とは失礼じゃないだろうか。
まあどうでもいいけど、わたしが所属する菓子文化研究部はなかなか素敵な部活なのだ。
上下関係にうるさくないし、活動は基本週一だし、運動もしなくていいし、毎週甘いお菓子をみんなで作って帰るだけっていう、まあ強いて言うなら気を抜くと太ってしまうのが欠点なだけの部活である。
そして今日はその部活の日なので、わたしはいつもより帰りが遅い。
運動部と同じくらいの帰りの時間になるだろうから、ちょうど駅までの帰り道にあるらしい孤爪くん家に寄って、漫画を貸してもらう、という約束をした。


『今日は何作るんだったかな…』

「…俺はアップルパイが好きだよ」

『それは作ってってことかな。まあお礼に何かあげようと思ってたからいいけど』

「ケーキとかも作るんだ」

『うん。週一でね、お菓子作って、次の週に作るお菓子みんなで決めるんだよ。だから来週アップルパイ作れるように提案しとくね』

「で、今日は何作るの?」

『たぶん、マドレーヌ?とかフィナンシェ?とかそういう気取った感じのやつだったと思う』


来週はアップルパイか。
コストがかかるーとか言って断られたら面倒だな。
今日作るお菓子は同じく菓子文化研究部のリツコのリクエストで、なんか彼氏にあげるからとかなんとか言ってた気がする。
作ったお菓子はその場で食べたりもするけど、基本みんな持ち帰るので、わたしはいつも夜ご飯の代わりにしてお母さんに怒られていたりする。
まあお菓子食べたさに入部したようなもんなので、文句言われても困るけど。


 / 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -