朝の登校中にコンビニに寄ってジャンプを買う。 それが毎週月曜日のわたしの日課だ。 朝買ったジャンプを、学校の休み時間や昼休みに読む、それは至福の時間だった。 わたしは少年マンガが好き。 馬鹿みたいに現実離れした世界観とか、アクションとか、男気とか友情とか、ジャンプは素晴らしい。 その辺にごろごろ転がってる脳内ピンクの少女マンガなんかより何百倍面白い。 そう、わたしはジャンプが大好きだ。 「で?なまえは何を落ち込んでんの?」 「今日月曜日じゃん」 「ああ、もしかしてジャンプ買えなかったの?」 『……うん…』 ユカとリツコが、教室の机に頬っぺたをくっ付けてこれ見よがしに沈むわたしにため息をつく。 二人の女友達の推理通り、わたしは今日、毎週の習慣であるジャンプを、買うことができなかった。 朝、コンビニに寄ってお菓子を何個か見繕って雑誌コーナーに行ったわたしは打ちひしがれたのだ。 ジャンプが、売り切れていたことに。 『売り切れだよ…酷いよ…毎週あのコンビニで買ってんだから、店員も気を利かせてわたしの分のジャンプ取り置きしといてくれればいいのに…』 「無茶言うな」 「いちいち客の顔覚えてるわけないでしょうが。それにジャンプ買えなかったくらいで落ち込まないでよ、アンタは男子小学生か」 そしてこの言われようだよ。 ユカもリツコも小学生のときからの友達だってのに、わたしの趣味を理解してくれないのだ。 まあ別にいいんだけど、二人が少女マンガ読んできゃーきゃー言ってるのとかすっごく鬱陶しいけど、ほんとにどうでもいいんだけど、男子小学生はちょっと言い過ぎだろう。 全国の中学生以上のジャンプファンに謝れ。 「あ、ヤバイ。次選択授業だよね」 「あ、ホントだ。なまえ、じゃああたしら行くからね」 『さよなら…』 次が選択授業であることに今気付いたらしい二人は、急いで教室を出て行った。 二人とは選択授業は別なのだ。 そしてわたしの選択した授業は教室で行われるので、わたしはいつまでも机に頬っぺたをくっ付けてこれ見よがしに沈んでいたって問題はない。 でもなんとなく、顔の向きを変えてみた。 ぐるりと、左側向いてた顔を右側に向けると、隣の席でいつも通り俯いている孤爪くんが目に入る。 孤爪くんと選択授業一緒だったのか、と今知った。 しかし、わたしはそんなことよりも、孤爪くんの手元に意識を持っていかれたのだ。 なんと、俯いて読書でもしていそうな孤爪くんの手の中には、わたしがあんなに恋い焦がれたジャンプがあるではないか。 『ねぇ、孤爪くん』 「……えっ…?」 ちょっとテンションの上がったわたしは机から顔を離して、体ごと孤爪くんに向き直って声をかけた。 孤爪くんは、戸惑ったように顔を上げたけど、目は合わない。 『そのジャンプ、今週の?』 「え…あ、そうだけど……」 マジか。いいなあ。 わたしの買えなかったジャンプを、孤爪くんはゲットして読んでいる。 羨ましすぎる。 他人と喋ることに慣れないのか、きょろきょろと目を泳がせる孤爪くんの手元のジャンプが、とても輝いて見えた。 『読み終わったら、よかったらなんだけど、貸してくれない?』 「え……」 『だめ?250円払うからさ』 「いや…いいよ別に、タダで」 『え、ほんと?』 「うん」 『わー、ありがとう。わたし朝買いに行ったんだけど、売り切れてて買えなかったんだ』 「…そうなんだ。…じゃあ、あとで貸すから…」 『うん、ありがとう』 孤爪くんは困ったように頷いてくれた。 ジャンプを貸してくれるという。 ものすごくありがたい、これで250円が浮いたうえに、捨てる時面倒なのよとお母さんに文句を言われなくて済む。 今まで何とも思っていなかったただのクラスメイトの孤爪くんが、わたしの中ですごくいい人、にランクアップされた瞬間だった。
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