通行人Zの次

『…おばさん……?』


頭を撫でられる感覚に目を覚ますと、おばさんの顔が目に入った。
掠れる声で呟けば、彼女は目を見開いてわたしを見つめる。


「なまえちゃん!目が覚めたのね…!よかった…っ」

『…わたし、どうして…』

「覚えてないの?…あなたね、倒れたのよ」

『…倒れた…、?』

「そう、なまえちゃん買い物に出て行ったでしょ?帰りが遅いなと思ってたら、銀さんがあなたを抱き抱えて連れてきてくれたの」

『ぎん…さん……』


安心したように笑顔で話す彼女。
体を起こすと、腰の辺りが痛んだ。
公園の前で会った、銀色の彼を思い出す。


「あ、銀さんっていうのは、ほら、銀髪の…」

『…あの人が、わたしを?』

「ええ、公園の前で会って、いきなりなまえちゃんが倒れたって言うんですもの。びっくりしちゃったわよ」

『…あ、わたし、買い物してない…ごめんなさい』

「あぁ、いいのよそんなこと!代わりに新八くんたちがしてくれたし」


新八くん、について説明をしてくれるおばさん。
ねえ、わたし、知ってるんだよ。
きっと、おばさんよりも、わたしのほうが。
掛けられていた布団を握りしめる。
そうだ、わたしは。
わたしは、自分がここにいる意味を、わたし自身もこの世界の、物語の一部なんだと、知ったんだ。


『おばさん、心配かけて、ごめんなさい』

「気にしないで。お医者さまは、体に問題はないっておっしゃってたから、きっとあなた疲れてるのよ。今日と明日は、ゆっくり休んでちょうだい」

『…ありがとう、おばさん』


なら、ならば。
笑うおばさんの顔を見つめる。
わたしも、物語の一部ならば。
登場人物の中の、1人ならば。
きっと、”彼ら”と関わらないなんて、不可能だ。
だって、一員なんだから。
それにもう、物語は動き始めている。
わたしを乗せて。
だったら、わたしはわたしの役目を、果たしてやる。
何故ここに来たのかなんて、もう考えない。
物語が進むままに、わたしの思うままに、生きてやる。
死ななかった、死ねなかった理由は、きっと、見つかるはずだ。

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