02
目覚めると、知らない場所にいた。 わたしはマンションの屋上から飛び降りたはずなのに死んでいなかったのだ。 傷一つない身体に、違和感を抱いた。 変だ。 死ねなかったとしても、怪我の一つもないなんて。 それに、ここはどこだ。 マンションでもなければ病院でもない。 わたしは見知らぬ公園にいた。 何か夢でも見ているのかと、立ち上がり公園から出たわたしは、あり得ないものを目にし動けなくなる。 それは、ここに、存在してはならないものだったのだ。 『”天人”……!?』 友人の家で読んだ漫画に登場する、天人という生き物が、うようよと歩いていた。 目眩を覚えてしゃがみ込む。 どうなってるの、ここはどこなの、まさか、天人なんて、そんなわけ、ない。 混乱する頭。 顔を上げもう一度確認したけれど、道を歩くのは着物を着ている人間と天人だけ。 わたしは、マンションから、飛び降りて…漫画の世界に、来てしまったー…? 『…まさか、ね……』 そんなわけ、ない。 わたしは立ち上がり、歩き始めた。 きっと夢だ。 夢じゃなければ、何なんだ。 強く自分の頬を叩いてみる。 痛い。 涙が溢れた。 立ち止まり、見上げた先にあったのは…。 ”万事屋銀ちゃん” 『…ウソ、でしょ?』 あるはずのない、看板。 ああ、これは現実なのだろうか。 わたしは、弟を殺して、自殺しようとして、漫画の世界に、来てしまったの? どうして。 どうして、こんなことに。 受け入れた現実があまりにも不可解で、わたしはどうすることもできずふらふらと歩いた。 行く場所なんてないのに。 そのうち、人にぶつかり倒れるように路地裏に座り込んだわたしは、もう、何もできなかった。 立ち上がることさえ。 「…大丈夫?」 そこに現れたのが、藤屋のおばさんだった。 わたしを心配そうに見下ろす彼女に、わたしは何と返したのか覚えていない。 だけど、彼女はわたしの腕を掴み立ち上がらせ、近くにある藤屋に連れて行き、暖かいご飯と、着物と、寝床を与えてくれた。 「行く所がないなら、うちで働くのはどう?部屋もちょうど余ってるから、住み込み、食事付き。ね、いい提案じゃないかしら」 どうして彼女は、あんなにも優しかったのだろう。 この世界では怪しげに移る服装の怪しい女に、何故手を差し伸べてくれたのだろう。 彼女のおかげで、わたしはこの世界で、生きていられる。 息をして、立っていられる。 あの時、死のうと考えていたわたしに彼女が作ってくれたご飯の味を、わたしは一生忘れることはできないだろう。
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