「ストロベリーパフェ、二つ。クリーム大盛りで」


わたしは甘かったのだろうか。
一年半もの間、気をつけていたつもりだったのは思い込みで、ただの偶然に過ぎなかったのか。
どうして、急に、こんな。
偶然だとは思えない。
偶然、だなんて。
そんなはずはないと、最初から、わかっていたはずだったのに。


「オイ姉ちゃん聞いてる?」

『あっ、す、すみません!ええと、』

「ストロベリーパフェ。二つね。クリーム大盛り」

『はい、す、ストロベリーパフェ、の、クリームが、大盛り…お二つ、すぐにお持ちします』

「姉ちゃん大丈夫か?なんか顔色悪ぃけど」


銀色の髪の毛、紅い瞳。
そんな、普通じゃない容姿の男の人がわたしの顔を覗き込む。
どうかしてる。
こんなはずじゃない。
どくどくと激しく跳ねる心臓が、皮膚を突き破って転げ落ちてしまいそうだった。


『い、いえ、大丈夫です、失礼します』


どうして、こんな。
わたしは慌てて厨房へ逃げた。
おばさんにオーダーを伝えることも忘れて、しゃがみ込む。
どうしてあの人が、こんなところへ。
どうして今頃。
昨日の今日なんて、絶対に偶然なんかじゃない。
昨日ぶつかった黒髪の男を思い出す。
落ち着け、落ち着け。
胸を押さえて深呼吸を繰り返す。
きっと、ただの、偶然。
意味なんてない。


「なまえちゃん!?どうしたの?具合、悪い?」

『いえ、大丈夫です。それより、ストロベリーパフェ、二つお願いします』

「本当に大丈夫?辛かったら休んでていいのよ」

『大丈夫です。ちょっと目眩がしただけなので』

「そう…?」

『心配しないでください。…あ、クリーム大盛りで』

「…わかったわ」


心配そうにしながらも、ストロベリーパフェを作り始めたおばさんから目を離し、客席を見た。
間違いない。
あの銀色の、うねった髪の毛。
やる気の感じられない紅い瞳。
わたしが最も会いたくなかった、会ってはいけないと信じていた、男だ。


『お待たせしました』

「おお、やっと来たか!ありがとさん」

『…ごゆっくり』


ストロベリーパフェの器を二つ、テーブルに置く。
きっと偶然だ。
今まで”彼ら”に会わなかったのも、昨日になって急に立て続けに遭遇するのも、すべて偶然だ。
伝票を置いて急ぎ足で厨房に戻る。
関わらないと決めた。
一年と半年前、この世界へ来たとき。
”彼ら”には、関わらないと。
だってわたしは、知っているから。
ここにいてはいけない人間だから。
彼らの歯車を、きっと狂わせてしまうから。


「ご馳走さん」

『ありがとうございました』


また来てくださいとは、言わない。
去っていく彼の後ろ姿を見送りながら、ぐっと手を握り締めた。
わたし自身の歯車が、狂い始めているとも知らずに。

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