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「いきなりチョコ買って来いとか言うから。何事かと思ったぜ。消太、ご乱心か?と思ったな。アレは、衝撃的だった。思わず、Why!!って言っちゃったしなー。Chocolate!?って。コイツのだったか。女子は、スキだよな。チョコ。ほら。テキトーに、買ってきた。とりあえず、コンビニにあったヤツ。全種類」

どうにか。髪の毛が乾いた。ので、ドライヤーを止めてベッドに置いた。
プレゼント・マイクは、コンセントを抜いてくれたようだった。そんな音がした。
それから。何か、ガサガサと。ビニールの動く音がしたと思ったら。

『全種類!?わお!そ、それは。ビップ!すごいです。ありえない!ワンダホー。ビックリだ。プレゼント・マイク!そなたは、スゴイ!コンビニに、チョコがどれだけあるか。知ってますよ!いっぱいあるんです。マジですか!誠にございますか!すごい。すごーい。大人って、スゴイ!コンビニのチョコ、全種類なんて。夢みたいだ。なんだそれ。夢!?キャー。お金持ち!すごいなあ。全種類制覇なんて。それは、ビップのやることですよ。VIP!プレゼント・マイクを、舐めてました!いい人だったんですね。嬉しいなあ。あ。大丈夫!お金はちゃんと、返しますよ。全額!キッチリ!おいくらですか。おいくら万円ですか!?興奮する!チョコ!チョコ祭りだ!』
「金は、消太が返してくれたぞ。つーか、生徒から金貰えるかよ。見舞いっつーことで、取っとけ!ま、消太からだけどな」

プレゼント・マイクの奇行にはビックリ。コンビニのチョコを全種類とは。金銭感覚と、その他諸々の感覚が。狂っているのかも。
しかし、嬉しい。チョコはスキ。ありがとう。
しかし、視線をどこに向けていればいいのか。わからない。何も見えないので。どこを向いていればいいのか。サッパリ。
とりあえず、前に置いている。多分、焦点は。合ってない。
顔を、相澤先生の方に向けた。相澤先生の声がした方に。右側。

『消太さん!プレゼント・マイクの言うショータは、相澤消太先生のことで間違いない?ないですよね!消太先生!わたしは、嬉しいです!目の前が、キラキラします。揶揄です。へへ!チョコ、ありがとうございます!でも。お金は、返しますよ。借金は、ダメです。わたしは、借金はしないんですよ。じっちゃんが、言ってました!借金したら、ソープに沈められるぞって。ソープっていうのは、怖いところなんですよ。女の人の権威を奪い取るところなんだそうです!ひい。怖い!こわあい場所です。そこに、沈められる訳にはいきません。イヤです!お嫁に行けなくなってしまう!恐ろしい。相澤先生は、知ってますか?ソープ。行ったことありますか?』
「ねえよ。そういうのは、マイクに聞け」
「オイオイ。いーの?本来なら生徒に聞かせちゃいけねえ話しかできねえよ?聞きたいっつーなら。まあ、教えてやるけど」

相澤先生とプレゼント・マイクは、仲が良さそうだ。そういえば。前から、仲睦まじい。
プレゼント・マイクは相澤先生を名前で呼んでいるし。消太と。オトモダチなのかもしれない。いいなあ。わたしも仲良くなりたい。え?誰と?
自問自答。答えは出ない。

『とにかく!兎にも角にも、相澤先生。返済しますよ。おいくらですか。法外な請求、しますか?怖いです。お金はあんまり。使いたくないです!学生なので。無駄な出費は、極力抑えたい次第です!もしかして。取り立てちゃいますか?払わんかい!みたいな。お客さーん、返済が滞ってますねん。いつになったら返してくれるんでしょかー?アレやったら、内臓売ってもええねんで。早よ借金返さんかいゴラァァ!みたいな。こわい!相澤先生がそんなことしたら、怖いですよ。ちびります。恐怖のあまり!縮みあがりますよ!』
「何がだ。金は、いらん。買ってやるっつったろ。マイクの言うとこの、見舞いだ。貰っとけ」
『そんな。無償ですか?チョコが。なんてこった。無償のチョコ。まるで、無償の愛みたいだ。相澤先生は、優しい先生だ!これは、発表しないと。全国紙に。一面に、報道してもらいましょう!見出しはコレです。イレイザーヘッドは、優しい先生でした!で、決まりです!相澤先生の名を、全国に轟かせましょう!!』
「黙って食え」

相澤先生は、チョコをくださるそう。なんていい人なんだ。知れば知るほど。優しい人だ。
しかし。黙って食え、と言われましても。どこにチョコがあるのか、わからない。
多分、大量のチョコレート菓子は、ビニール袋に入っている。音からして。それをプレゼント・マイクが、どこかに置いた。
場所はわからない。

『食べたいです。相澤先生、チョコをありがとうございます!一生、忘れません。このご恩は。死んでも忘れない。墓場まで持っていきます。ありがとう!ありがとう!いーい薬です。チョコ、ダイスキです。食べたいです。今すぐ!イートしたい!チョッコレート!チョッコレート!チョコレートは、モリナガ!』
「メイジだろ。その歌は」
『チョコ、どこですか!食べたいです。ワガママ言います。食べさせてください!わたしには。チョコを探して、封を開けて、口に運ぶことが。難しいです。困難です。チョコ難民なので。なので!食べさせてほしいです。アーンしてください。プレゼント・マイク!』
「ゲ。やっぱ、俺?そうだろうとは、思ってた。消太、腕使えねえしな。マジかよ。俺、食わしてやんなきゃいけねーの?こんなガキに。せめてあと5歳年食った美女ならなぁ。あーあ。んで?何がいいんだよ、チョコは」
『ダース!ダースがいいです。普通の。赤いやつ。ありますか?ミルクチョコ!の、ダース。あるとしたら。あるならば、それがいい。ダースを、所望します!』
「あー、ある。あるある。ダースな、ちょい待て」

あった!わーい。コンビニには大抵、売ってるから。あるとは、思った。
病院でチョコを食べられるとは。至福だ。糖分が欲しいところだった。頭をシャキッとさせてくれ!
ベッドに座るわたしのそばで、何やらガサゴソと音がする。プレゼント・マイクが、ビニール袋からダースを取り出した音だ。多分。
音は続く。ダースを開けている。のだと思う。ギ、と何かが軋む音もする。パイプ椅子か何か。それに、プレゼント・マイクが座っているのか。多分。

「ほらよ。口開けろ」
『あーん!』

口を開けた。ら、口の中に硬いものが入ってきた。ポイッと放り込まれた。
舌の上で溶ける。チョコだ。ダース。小さい四角。なめらかな舌触り!
噛んでみる。口の中は、チョコの匂いがいっぱい。美味しい。甘い。

『おいしいです。うまうま。うまーい。絶品。口の中でとろけます。まいうー。噛まなくても食べられますよ!とろける。味の宝石箱!とは、このことです。幸せです。身体中の細胞が歓喜です!悲鳴をあげてます。チョコは、おいしい。最後の晩餐は、チョコがいいです。わたしは。人生最後の食事は。間違いなく、ガトーショコラを選びます!』
「まあ、チョコはな。溶けるからな。食レポ、ヘタクソだな。センスねえよ、おまえ」

ディスられた!まあ、いいです。自信あったけど。美味しさは、伝わらなかったか。いいさ。わたしが美味しければ。それで、満足。

『もう一個!ください。ワンモア!モアモア。止まらなくなります。止められない止まらない!でも。食べ過ぎは、よくないんですよ。知ってます!チョコを食べ過ぎると。鼻血が出ますから。なーんて。ぷくく。ウソです。血糖値が上がります!チョコレート菓子は。糖分が、スゴイですので。食べ過ぎには、注意が必要。ダイスキなのに。たくさん食べられなくて、切ないですね。会いたいのに、会えない!そんなラブソングがたくさんあります。それに、通ずるものがある!わたしはそう、思います。チョコに片思いしています。セツナイ!身剣柄叉でした』
「喋るのやめろよ。食うんだろ?口開けろ。おまえの口は、止まることを知らねーのか」
『あーん!』
「いちいち言わんでいいわ。こいつの相手すんの、スゲー疲れる」

怒られた。プレゼント・マイクは、疲れているようだ。辟易している。かわいそうに。癒してあげたいけど、手段がない。
口を開けると、すぐにチョコが唇に触れた。口の中に押し込まれる。ダース二粒目。は、噛まずに溶かすことにした。
舌の上で転がす。甘さが染み渡る。いい気分です。

「何だよ、消太。そんな見つめて。妬くなよ!仕方ねーだろ?手が自由なのが俺しかいねえんだから。おまえの手が使えたら、身剣も消太に食わしてもらいたかっただろうよ」
「誰が妬くか」

相澤先生の不機嫌そうな声。プレゼント・マイクが喧嘩を売ったのか?仲がよろしい。良いことだ。喧嘩するほど、というヤツかもしれない。

『何を?相澤先生。何か、焼いてるんですか!お餅ですか?いいな。わたしも、食べたいです!お餅は、スキですよ。外の硬いところは、あんまり好きじゃないです。けど。中の、柔らかーいところが。好物です!お餅、焼くんですか?七輪ですか!風情がある。いいですね。みんなで、お餅焼き大会をしましょう。わたしは、醤油と海苔で食べたいです。磯辺餅!磯辺餅、ダイスキ。でも、きなこも捨てがたい!迷います。うーん。じゃあ。二つ食べます!二種類。いい考え。わたし、天才かもしれない。磯辺餅ときなこ!』
「バカ、おまえマジで言ってんのか?妬くっつーのは、その焼くじゃねえよ。アホか?餅っちゃ、餅だけどよ。ヤキモチも、餅だしな。漢字が違うんだよ。イレイザーが妬いたっつーのは、嫉妬の方の…」
「おい、マイク。黙れ」

シットの方?sit。とは。ハハ。意味がわからない。プレゼント・マイクの言ってることは、ほとんど意味がわからなかった。
わたしの頭が悪いせいか。お餅は焼かないのか。残念だ。
相澤先生は、急に凄んだ。怒っているのかも。怖い怖い。
黙ってチョコを舐めた。もうなくなった。儚い。もう一粒食べたい。でもなあ。急に血糖値が上がるとなあ。困るしなあ。
ああ、でも。もうヒーローには、なれないんだった。決まったわけではないけど。だとしたら。もう、いいんじゃ?体を気遣う必要なんて。あるのか。

「しっかし。災難だったな。ホント。土砂ゾーンは、轟っつー男子リスナーが先に居たらしいじゃねえか。ワープさせられた瞬間に、一面氷漬けにしたってよ。一網打尽だぜ。そっから漏れた敵に、当たっちまったんだな。おまえ。事情聴取、まだ受けてねえだろ?多分、近い内。警察来るぜ」
『ポリスが!了解でやんす。しっかり、説明しますよ。覚えてる限り。記憶には。自信、あります。任せてください。腕が鳴ります!いや。でも。それにしても、轟くんは。やっぱりスゴイ!強いなあ。尊敬してしまう。いいなあ。きっと大人気のヒーローになりますね。イケメンですし!女性人気、待った無し。ですよ。イチゴショートくんは、無双!』
「おまえも。スゴかったってよ。消太救けに、敵に立ち向かったとこ。何人か見てたらしいぜ。緑谷と、蛙吹と、峰田。だったかな、確か。スゲー、ってよ。心配してたみたいだぜ。透明のリスナーも、かなり」
『透明?透ちゃんか!透ちゃんには、迷惑かけました。謝らないと。透ちゃんも、スゴかったですよ!わたしのこと、助けてくれました。そういえば。泣かせてしまいました。透ちゃん、泣いてたな。ずっと。かわいそうでした。謝らないと!あーあ。こういう時に、携帯があれば便利なんですね!今、初めて実感しました。携帯電話っていうのは。必要悪と思ってましたが、そうじゃないのかも。必要だった。甘かった。わたしは詰めが甘い!全く。これだからわたしは。嫌んなっちゃうよ。アハハ』
「携帯、持ってねえのかよ。珍しいタイプのJKだな」
『ニュータイプ!そうです。わたしは、それです。ネオ・JK!ジョシコーセーとは、いい響きです。ブランドだというではありませんか!ブランドを、手にしました。大人になった感じがします!中学生だったころのわたしとは、一味違いますよ!舐めないでください。大人は、子供を舐めている。そのうち!足元をすくわれますよ。気をつけてください。下剋上です!大人たちの地位と名声を、今この手に!!』
「にんじんも食えねえガキが。何、言ってんだ」

大人というのは。冷たい生き物だ。
相澤先生はいつも、わたしを突き放してくる!これは、遺憾である。認めてくれたっていいじゃないか!
いや。ワカママが、過ぎた。若輩者すぎる。
反省します。

「オイ、ガキンチョ。そんで、まだ食うのか?チョコ」

プレゼント・マイクが尋ねる。個性的な声である。
チョコレート三粒目。を、食べるか否か。
食べたい。けども。

『ノーサンキューです!もう、結構。甘いものをたくさん摂取するのは、ヨクナイ。ので。血糖値が上がってしまう。それは、問題ですよ!体は資本ですので。ええ。ですので。ガマン、します。ホントは。チョー食べたいですが!ダース、大好きです。あんなに美味しいのに、体にはよろしくないなんて。意地悪ですよ!製菓会社は、意地が悪い。葛藤してしまいます。ジレンマ!食べたいなあ。でもなあ。砂糖の摂りすぎは、不徳です!なので。しまってください。もう、いいです。諦めました!わたしは、打ち勝ちましたよ。己の欲望に。へへ、どうだ。見たか!ひれ伏すが良いぞ、糖分並びに油分!わたしは。おまえたちには決して、屈しないのだ!』
「つまり、イラネーってことな。しまっとくぜ。ここ、棚。置いとくから、食いたくなったら。まあ、誰かに言えよ」

ハイ!プレゼント・マイクに返事をする。良いお返事。我ながら、元気みなぎる小学生のよう。
体を、気遣う。その必要は、ないかもしれない。もう。鍛えるのも、ムダかも。
でも。しかし、相澤先生が言った。可能性はある。それに、賭けるしかない。
信じがたい。半分以上。諦めている。ポジティブも役立たず。今は。それでも、諦めるよりは、縋り付く方が。
ほんのちょっとの、可能性に。

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