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「今日のヒーロー基礎学だが…」

教卓の向こうで相澤先生が言う。相澤先生は今日も元気が足りない。きっとゼリーばかり食べているせいだ。かわいそうに。

今日のヒーロー基礎学は、相澤先生とオールマイトともう一人の3人体制で見てくださるそう。
それを急遽決まったかのような言い方をした。相澤先生が。特例なのかも。どうだっていいけども。
久しぶりのヒーロー基礎学に、ドキがムネムネである!
隣の席の瀬呂くんが挙手する。何するんですか?と相澤先生に尋ねた。
相澤先生は、正気の足りない目のまま。ポケットからプレートを取り出す。

「災害水難なんでもござれ…人命救助訓練だ!」

相澤先生は珍しく語尾を強める。
待ってました!!人命救助訓練。レスキュー訓練。人の命を救う。ヒーローの本質!その訓練。
気合が入る。人命救助にわたしの個性は向かない。刃物が出るだけでは、人を助けられない。けれども。ヒーローの本分。わたしも。頑張ろう。救うぞ!!命!!


訓練場は離れた場所にあるらしい。バスに乗っていくそうで、今はバスまで移動中。
コスチュームは着ても着なくてもいい。と、相澤先生は言っていた。けども、わたしのコスチュームは活動に支障が出るものではない。よって、さっき着替えた。
着流しの裾が歩くたび少しめくれる。ウキウキしていた。足取りは軽い。サンダルはペタペタ小さい音を出す。
何を学ぶんだろう。きっと身になる!

『あれ?かっちゃんくん!今日は頭のトゲトゲ、つけないの?残念。残念極まりない!あれ、かわいいのに。トゲピーみたいなのに。失望したよ!』
「テメーに関係ねェだろ!勝手に失望してんじゃねェ!!」

爆豪くんはこの間つけていた飾りをつけてなかった。目だしのアイマスクも。趣味が変わったのかな。
キレやすい爆豪くんは、わたしの肩を掴んでガクガク揺さぶった。強く。頭が前後にガクガクする。あばばば、と言いたい気分。これは、赤ちゃんにしてしまったらとても危険な攻撃である。わたしの首がすわっていてよかった。

「身剣の腰紐…エロいよな」
『エロい!?峰田くん、君は何を言っている。ハハ。エロいだって。わたしには。意味がわからない!エロいというのは、性的な意味!?わたしには、あるの?わたしにも。性的な魅力が!そ…それはいい!知らなかった。腰紐がエロいだなんて。わたしは知らず知らずのうちに、エロかったのか。エロは、必要だよね。ヒーローは人気が必要だ。エロで男性人気を掴めれば。もうわたしに怖いもんなんてないのさ!ありがとう峰田くん。気付かせてくれて。わたしは、エロかった。地球は青かった、みたいに』
「だってそれ、腰紐解いたら着物はだけるだろ?ロマンだよな…訓練中、つい解いちまうかもしんねーぜ……でもさ、サラシで胸潰してんだろ?それはいただけねェ…もったいねェ。揺れるおっぱいこそが、男のロマンだ!」

隣を歩く峰田くん。ブドウみたいな髪型の峰田くんの言うことはイマイチ理解できない。何言ってるんだ。と思いながらとりあえずニコニコしていたら、後ろから来た響香ちゃんが峰田くんを蹴り飛ばした。
ビックリだ。ゴロゴロと転がる峰田くん。どうした響香ちゃん。いやしかし、何か理由があるのだろう。響香ちゃんは無意味な暴力を誰かにふるうような子ではないので。


『イチゴショートくん!お隣いいかな。座ってよろしいかしら?隣のトトロさながらに、隣の柄叉になっても。いいでしょうか!』
「あ…?ああ……」
『ありがとう!お邪魔しまーす。ご迷惑はかけませんので。実はわたしこう見えて、乗り物酔いしやすいんだぜ!どう?いいでしょ!でも今日は気をつけるよ。轟くんにご迷惑かけないように。嘔吐しないようにする!吐き散らさないように。気をつける所存。あ、そうだ!しりとりする?』
「酔いやすいのは、良いことじゃねえだろ……」

バスに乗り込むと席がほとんど埋まっていた。最後の方に乗ったからか。
奥の方に座っている轟くんの隣にお邪魔した。バスの椅子は、良い座り心地。眠れそうだ。
訓練場に向け走り出したバスの中は盛り上がっている。とても騒がしい。
前の椅子に座っている爆豪くんが、何故か梅雨ちゃんにキレた。あんなに可愛い女子に怒鳴るとは。すごいメンタル。うらやましい。
前の方に座っている上鳴くんは、「クソを下水で煮込んだような性格」と爆豪くんを評価した。クソを下水で…ププ!正に。

『ぷくくく!確かに。上鳴くんはすごい。すごいボキャブラリー。ピッタリ。かっちゃんくんにピッタリの称号だよ。クソを下水で煮込むということは。煮込み料理だね!肉じゃがかな。筑前煮かな。煮魚かな。角煮かな!?ねえ、爆豪くん!かっちゃんは、何がいい?わたしとしては、角煮に一票!角煮は大変だよ。すぐ硬くなっちゃうんだよね。悩む。はぁ…柔らかくない角煮なんて。サイアクだよ!箸で切れてこそ、真の角煮なのに。あーあ!クソ!圧力鍋があればいいのに。圧力鍋、欲しいな。そうだ!買おう。でもなあ。高いしなあ。そんな出費は…悩ましい!なんと嘆かわしいことか!!』
「てめぇも殺すぞ!!」

圧力鍋は以前から欲しかった。でも高価なので未だに手を出せずにいる。
今年の誕生日にでも買おうかな。そうだ!いい考え。自分へのプレゼント!これで、何十分も具材を煮込まずとも美味しい煮込み料理が食べられる。
頭をぐりんと回転させて振り返った爆豪くんには怒鳴られた。いっつも怒鳴っている。煮干しを明日にでも持ってきてあげよう。


『オーマイガー!わあ、すっごい。なんてこった。こりゃスゲー!遊園地みたい!!まあ。遊園地、行ったことないけど。見たことはあるよ!テレビで。はあー。もしや、ここが噂のUSJという夢の国ですか!うひゃー、でっかい!わたし、あれに乗りたいです!スプラッシュナントカ!!そのままわたしもスプラッシュりたい!』
「柄叉、遊園地行ったことないの!?え、ていうかスプラッシュりたいって何!?」

たどり着いた訓練場。は、スゴイ。
ものすごい、施設である。莫大な敷地!テレビで見るような大きなアトラクション。のようなもの!大きなゲート!遊園地だった。雄英には、遊園地があった。もう、スゴイとかじゃない。侮っていた。悔しい。
みんなが口々に感嘆を吐く。隣で上鳴くんが「USJかよ」と言った。なのでUSJだと思った。有名なテーマパーク。行ったことはない。
三奈ちゃんはビックリしたみたいだった。わたしが遊園地未経験ということに。目をひん剥いて見つめられて、照れる。
スプラッシュりたい。とは、つまりあれだ。飛び散りたいみたいな。造語である。わたしが今つくった!柄叉語。広まったら嬉しい。

「あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です」

ほわー。と思いながら施設を眺めていたら、目の前に13号が現れた。
ビックリする。いつの間に!しかも13号がつくったという。こんな莫大な施設を。この人は神なのかもしれない。
13号は、「その名も……」とちょっと勿体振る。もどかしい!早く教えてくれ。

「U(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)!」

決まった!13号の決め台詞は、バッチリわたしたちの心を掴んだ。
緑谷くんやお茶子ちゃんが13号の登場に沸いている。二人とも彼のことが好きな様子。わかる。わたしも、好きです。

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