31

マッチの火が消えると、お線香から独特の匂いがのぼった。
仏間に仏壇が置いてある。両親と母方の祖父母とわたしの五人で写った写真と共に。お線香をあげて両手を合わせた。
なむなむ。ママパパグランマグランパ。柄叉は元気です。遺してくれた家と遺産をやりくりしてどうにかやっとります。ヒーローになるべく勉強中です。道のりは長そうです。おばあちゃんの教え通りニコニコして過ごしております。お友達がたくさん!できました。楽しいです。今日も学校です。今日はわたしの好きなヒーロー基礎学の授業があります。ワクワクします!お盆には帰ってきてくだされ。柄叉は学校に行ってきます!

『お弁当、よーし!戸締り、よーし!火の始末、よーし!鍵、持った。今日も元気に。よーし。行ってきまーす!』

ガラガラ。古い一軒家の戸を開ける。
かちゃん!鍵を閉めて、いざ登校!


『グッモーニンエブリワン!身剣柄叉、参上!おお学び舎よ!学友よ!今日も1日よろしくお願いします』
「朝からテンションきめェんだよ」

徒歩で登校。ワクワクしながら教室のドアを開けたら、偶然近くに立っていた爆豪くんにそう言われた。
朝からテンション。歌の歌い出しみたい。ステキ!しかし、キモかったか。それは申し訳ない。ドアを閉めながら教室に入る。みんな元気そうだ。いいことである。
百ちゃんと響香ちゃんが「おはよー」と挨拶してくれた。みんな、朝が早いな。感心感心。

「そーいえばさ。番号聞くの忘れてたから、交換しよーよ」
『番号?何の!?国民番号!?マイナンバー!?そ、そんなの…いくら心の友であっても…いくら愛くるしい響香ちゃんであっても、そんなの教えるわけにはいかないよ!!ごめん。ごめんよ。こんなわたしを許しておくれ。わたしも辛いんだ!わかってよ!!』
「いや違う。電話番号だっつの、携帯の」

響香ちゃんが呆れた顔をする。
勘違いをしてしまった。ハハ。気にしないよ。スクールバッグを自分の机に置く。斜め前の席の響香ちゃんは、体の向きを変えてわたしを見た。カワイイ…。

『いいよ!もちろん、それはもう。イイよ。断る理由などどっこにもないさ。でも、一つだけ言いたいことがある。お願いだから聞いてほしい。我輩の心の叫びを!』
「何よ?」
『ハイ!わたくし身剣柄叉は、携帯電話なるものを持っておりません!ピポパポピ、のヤツだよね。若者が大抵それを所持していることは存じ上げておりまする。未熟者でした、すみませんでした!!』
「え、携帯持ってないの!?」
『正解!!』
「相槌おかしいよ?」

響香ちゃんはすごくビックリしたようだ。目を見開いている。近くにいた透ちゃんは、可愛らしい仕草。で、相槌おかしいと言った。
それは誰の。相槌が、変とは。おかしなこともあるものだ。
携帯電話の存在は知っている。きっと知らない人はいない。国民的大スターだ。機器だけども。
それの必要性を感じたことがなかった。家に固定電話があるので。それで事足りるのである。自慢だが、ファックスもできるタイプだ!我が家の誇りだ。

「なんで持ってないの?」
『いい質問だ!響香ちゃん。それは、アレだよ。買ってないからに他ならないよ。みんな使ってる、あの四角いのだよね。スマートフォン。略してスマホの…あの、アレだよね。スッゲーやつだよね。一台あれば何でもできちゃうアレ。小さくて四角いのに、電話もファックスも!スッゲー!それは、すごすぎる。まさしく文明の利器!褒めてつかわす!!』
「ファックスはできないけどね」
『え!?それはまことにござるか!?えー…ファックス、できないの?なんだ…ショック。ファックスができないなんて、期待はずれもいいとこだ。ファックスができないなんて……そんなのいらない!わたしは傷ついた。きっとこのショックを、死ぬまで忘れない。辛い。なんでだよ。なんでおまえは、ファックスができない!?』
「テメーるっせんだよ!!何なんだそのファックスへの異常な執着はァ!?」

響香ちゃんが持っていたスマホを罵倒したのがいけなかったのだろうか。
後ろからやってきた爆豪くんに、頭を殴られた。というか、叩かれた。バチン!と。痛かった。酷いことをする。
おかげで頭がぐらぐらした。おー痛。かっちゃんくんは暴力が好きだ。多分、サドというやつ。爆豪くんはサディストである。

「ファックスはできないけど、スマホ便利だよ。あるのとないのじゃ、次元が違うよ」
「メールとかラインとかできるよ!友達と気軽に連絡取り合えるし、楽しいよ!」
「ゲームもできるし。何かわかんないこととかあったら、すぐネットで検索かけれるしね」
「それに最近は安いプランもいっぱいあるし、機種も安いのいっぱいあるよ!いざという時とか、助かるよ」
「だね。出先で何かあった時とか、携帯ないと不便だもん」
『なるほど!柄叉は、理解した。ファックスができずとも、スマートフォンなるものは便利であると。ありがとう!響香ちゃん、透ちゃん。勉強になります。知識が増えます。もうわたしに、怖いものなどないよ!どこからでもかかってきたまえ!!』
「柄叉ちゃんが携帯買ったら、番号交換しようね!」
「親に相談してみなよ。高校生で携帯持ってないって、結構レアだよ」

レア!とな。知らず知らずのうちに、わたしはレアになっていたとは。誰かに狙われたらどうしよう。レアなものは狙われる定めにある。カード然り。お肉も然り。
困る。安眠できなくなってしまう。

『左様であるか。そうですな。フム。確かに、欲しくなってきました!欲が出る。よくないな。よくないけど、いい機会っすよ!そうさ。わたしも華のジョシコーセー。JKってやつっすから。先輩。わしも、スマホというものをゲットしたい!否。ゲットしてみせる。小さい四角い電子機器を今この手に!我が物にしてみせようぞ。そうと決まれば。帰ったら早速、検討せねば。月の支出を計算し直す必要があるのじゃ。そうじゃな。うむ。携帯料金なるものを見立てねば!うおお。ワクワクしてきた!燃えるぜ!』
「月の支出?家計簿とかつけてんの?そういうのって、親がやるもんじゃ…って、そうか。柄叉、一人暮らしだったね」
『左様なり。わたしは厳しいよ。1円の誤差も許しはしないよ、帳簿の鬼って呼ばれてる。影で。心の中で。わたしのね。わたしが勝手に呼んでる。へへ。言っちゃった』
「何言ってんのアンタ……」
「柄叉ちゃんって意外としっかりしてるよね!すごいなぁ。料理もうまいし、将来は、いいお嫁さんになるね!」

ビックリする。透ちゃんの言葉には度肝を抜かれる。
わたしはいいお嫁さんになるらしい。そんな予定はなかった。でもそうか。なるかもしれない!それはいい。お嫁さんは、夢だった。何個かある中の一つである。ドリーム!わたしは良妻になります。

「ハッ、このイカレ女がいい嫁になんざなれるわけねェ。まず貰い手がいねェだろ」
『何おう!かっちゃんくん。貴様!武士を愚弄するか!きええ、許さん!!わたしはアレだよ。結構、アレだから。アレであるからして。どうにかこうにかして…そうだよ!アレなんだからね!!』
「アレアレうるせェんだよ!テメー料理できるとかウソだろ!?お前が料理できるとか、誰得だよ!あ!?テメーはアレだ、生卵レンジでチンして爆発起こしてろ!!」
『うぷぷ!ぷくく。かっちゃんくん!な、生卵をレンジにだって!?これは。これは、一本取られました。参った。ぷーーっ!おもしろーい。アハハ、生卵をレンジ。なんでそんなこと!ひひひ、生卵をレ、レンジに!んくく。かっちゃんくんはすごい。ギャグのセンスまでピカイチ!あひゃひゃひゃ!生卵をチンなんかしたら。大変なことになってしまう。そんなこと、しないよ。爆発しちゃうよ。爆発するのは、かっちゃんだけで十分だよ!』
「……ッ殺すぞクソ女ァァ!!」

ボン!爆豪くんは何故かおこだ。激おこ。キレやすいみたいだ。右手の手のひらを個性で、ボン!と爆発させて怒鳴っている。しかも目尻が釣りあがっている。鬼。まるで、爆豪くんは鬼である。
響香ちゃんがドン引きしているのが見えた。長い耳たぶがぷらぷら揺れている。いいなあ。チャームポイントってやつだ。わたしも欲しい。
爆豪くんは前の席で横向きに座って怒鳴り続けている。元気で何より。何を言ってるのかは。ちょっとワカラナイ。
唐突に鼻がムズムズした。これは。くしゃみの前兆!顔の前に両手を構える。

『ふいっ…ふ、ぷえっくしっ!』
「あ…あァ!?」

くしゃみをした。ふースッキリ。
爆豪くんは、ビックリしたのかビクッとした。ハハ。意外と繊細!

------------------------
Back | Go
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -