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一昨日の日曜日は学校が休みだった。昨日の月曜日は早朝鍛錬はナシだった。
そんなわけで、二日ぶりの朝稽古。やる気は満ちている!6時30分に、職員室前に到着した。

『わーお!こ。このお方は。13号ではないですか!なんということだ。13号。カワイイ!そのコスチューム。宇宙服がコンセプトですね?わたしには、わかります!隠せるとお思いか?舐めないでください。まるっこくて、キュート!カワイイは、作れる!おはようございます。13号は、元気ですか?わたしは、元気です。元気があれば、何でもできる。そう!わたしが、身剣柄叉!蠍座の女にして、15歳であります!よろしくお伝えください!!』
「よ、よろしく…伝えるって、誰に……?」
「13号。こいつのことは、気にするな。少しな。頭が、アレなんだ」

職員室前で、邂逅した13号。紳士なヒーロー!かわゆすだ。
その後ろから、相澤先生が現れた。頭が、アレとは?まあ。気にしないよ!

『相澤先生。いらしたのですね!おはようございます。相澤先生は、スゴイ!13号と、親しいのですか。いいなあ。紳士的な男性は、スキですよ!災害救助で活躍する、スペースヒーロー!カッチョいい。カッケー!なのに、可愛さも兼ね備えている…まさに。まさに、リスペクトです。憧れの男性像!ステキ。握手してください!』
「相澤先輩の、生徒さんですか?強烈だ。スゴイ子ですね…」
「相手するだけ、体力が削られるぞ。無視していい。こいつの言うこと、9割は無駄だからな」

13号の手を握り、ブンブン振る。分厚い手袋越しの手は、重い!感動的である。13号も、雄英の先生だったのか。雄英はスゴイ。すごいヒーローが、たくさんいらっしゃる。

『そうだ。相澤先生!いや、相澤先輩!』
「誰が。おまえの、先輩だ?」
『イタイ!もう。痛いですよ。そうやって、叩いてはいけない。すぐに手が出るのは、相澤先生の悪い癖ですよ?そんなに頭をベシベシ叩かれたら、細胞が死んでしまいます。バカになってしまう!』
「既にバカだろ。最大限のバカは、それ以上バカにはならん」
『バカって言う方がバカ!!わたしも、担任の先生にこんなこと言いたくないですよ。でも、言わせてもらいます。相澤先生のバカ!!バカバカバカ!カバ!!あれ?カバ?』
「バカはおまえだ。いい度胸だな、身剣。今日の鍛錬は、個性の使用禁止にしようか。特別に、俺が相手してやるよ」
『そんな。それは、イヤです。バカって言ってすみませんでした!罵って、申し訳ないです。ゴメンナサイ!!ちょっとした、恐怖を感じます!もしかして、その布を使うんですか。グルグル巻きにして、動きを封じるんですね?そして、無抵抗なわたしに殴る蹴るの暴行をはたらくんでしょう!なんという。なんという、鬼畜!個性なしで、相澤先生に敵うわけ。さすがにわたしも、そこまで自信家ではないです!酷いですよ!ヒーローが、か弱い女子生徒をボコボコにしていいんですか?大人のくせに!年端もいかない女の子を、けちょんけちょんにするんですか!ハンデをください!例えば。その、布はナシで!捕縛武器の使用はナシとか!!』
「個性が使えれば、俺に勝てると?大したもんだな」

相澤先生に、しばかれた。叩かれた頭を抱え訴える。しかし、相澤先生はお馴染みの笑みを浮かべた。
ニタッ。とも、ニヤッ。とも、違う。不安を感じさせる笑み!怖いです。その顔は。恐ろしい笑みだ。

『ウソです!うっそぴょーん!そんな。ハハハ!わたしのような若輩者が。相澤先生に、勝てるわけないですよ。もう。やだなあ、先生!冗談ですってば。ジョークですよ!全くもう。冗談が通じないなんて。よくないですよ!ということです。という、ことですので!怒らないでください。気を確かに!お気を確かに持っていただきたい所存であります。では。では、わたしはお先に。お先に、鍛錬場へ行っていますので!相澤先生は、ゆっくりで構いませんよ。13号殿と、ほら。積もる話もございますでしょ。あとは、若い者同士!では。お邪魔ムシは、去ります。鍛錬場。演習場で、待ってますので!』

怖い笑み。から、逃げることにした。
すたこらさっさ、である。先に演習場へ向かおう。こんな早朝から締め上げられるのは、困る。


(相澤視点)

「仲、良いですね!鍛錬って、マンツーマンで指導してるんですか?目、かけてるんですね。スゴイ。あの、相澤先輩が。生徒とここまで親しげなのは。初めて見ました。手のかかる子ほど可愛い…とは、よく言ったもんですね。先輩」
「何、言ってんだ。おまえは」
「いいんですよ。相澤先輩!僕は、いいと思いますよ。教師だって、人間ですからね。お気に入りが居ても。おかしくはないですよ。普通です。いいと思います。相澤先輩には珍しく、人間らしくて。あの子、可愛いですもんね。身剣さんでしたっけ。かなり、変わってるみたいですけど」

身剣が逃げるように演習場へ向かうと、13号は俺の肩に手を置いた。ヘルメットの中で、ニヤニヤしているんだろう。面倒くさい。
こう、邪推されるのは。勘弁してもらいたい。そういうのではないと、言ってもわからないのだから。こういうのは。
親しい?そうじゃない。他の生徒より、共有する時間が多いだけだ。必要な処置であるだけで、特別な理由は無い。親しいではなく、慣れだ。
別に、可愛くもない。手はかなり、かかる。手のかかる子ほど、とは思わない。それは可愛いに繋がらない。手のかかる生徒ほど、面倒だ。そしてあいつは、厄介でもある。可愛いとは、程遠い。

「下らねえことを言うな。救助訓練の内容確認、しとけよ。オールマイトにも確認取っとけ」
「わかりました。先輩は、これから身剣さんとトレーニングですか。怪我はさせないようにしてあげてくださいね」

うるせえな。言われなくても、わかってる。無駄でしかないので口にはせずに、演習場の方へつま先を向けた。
廊下を走って行った身剣の姿は、もう既にない。

『相澤先輩!もうー、遅いですよ!待ってるとは言いましたけど。は!待ってるって言いましたね、わたし。なら、相澤先生に非はないです!さあ!鍛錬、しましょう。しませう。二日ぶりの、朝稽古!滾る!みなぎる。今日は、個性なしですか?個性なしで、取っ組み合いですね?いいですよ!受けて立ちましょう。体術対決!ご指導のほど、お願いいたす!相澤先生も、捕縛武器はナシで!ハンデ、ください。お手合わせ、お願いします!師匠!!』

誰が、師匠だ。先輩でもない。
演習場の前に座り込んでいた身剣は、俺の姿を見るなり跳ねるように立ち上がった。
そして鍵を開ける俺の横で、ワアワア騒いでいる。声は、平坦だ。セリフには見合わない。表情も同じく。とてつもない違和感を抱えている。

「俺に一発でも当てられたら、おまえの勝ちだ。遠慮はいらない。ただし…」

スクールバッグを床に置く身剣は、顔だけで振り返った。
俺の手が自分に伸びているのを見ると、わずかにその目を見開く。

「俺も、手加減はしない」

するり。身剣は俺の腕を逃れる。
不規則な動きだ。刀を持つ身剣の動きは、読めない。しかし個性が使えなければ、その限りではない。
首から捕縛武器を外すと、身剣は俺から距離を取った。道具なしの肉弾戦は、あまり好かないらしい。
殴ったり蹴ったりする、つもりはない。去なすだけのつもりもないが。

『手加減なしですか!それは。ビックリする。それは、厳しい。経験値が、全くもって違いますのに。レベル1ですよ。わたしは、レベル1!レベル1が、ラスボスに果敢にも戦いを挑むようなもの!瞬殺だ。恐ろしい!怖いなあ、やだなあ。でも!一発当てたら、勝ちなんですね?わたしの。それなら!一縷の望みというか。勝ち筋は、ないとは言えません。頑張ります!身剣柄叉、勇者レベル1。勇敢に、ラスボスに!魔王、相澤消太先生に。立ち向かいましょう!』

正面から、小柄な少女が向かってくる。敵ならば蹴り飛ばすか。殴り飛ばすところだ。それは余りにも、忍びない。身剣も、避けるだろう。あいつの身体能力は、優れていると言える。鍛錬の賜物だ。努力し、得たもの。それをブチ壊すことは、誰をもってしても出来得ない。
身剣は俺の懐に入り、身を翻した。得意の回し蹴り。
高く掲げられた脚。勢いよく俺に叩きつけられる足首を掴んだ。
ジャージの裾から露出するそこは、細い。骨ばっている。簡単に折れそうだ。

『これはキツい!股関節が裂けそう。相澤先生!股関節が。股関節が、悲鳴をあげています!!』

身剣は、今度は軸足で地面を強く蹴った。跳ね上がるように飛ぶ。
いい身のこなしだ。が、甘えが見て取れる。当然か。関係性がある以上。互いに、本気にはなりきれない。

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