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「お疲れ。人質が居たことで、敵チームの勝利率が高かったな。負けたチームの奴らは、どこが悪かったか反省文を書いて明日提出。人質は課題は無しだ。が、身剣は着替えたら俺のところへ来い。以上、解散」

結局、居残りで罰則させられるみたいだ。あの後、特に訓練を邪魔した覚えはないのだが。まあ、いい。お説教は、嫌いじゃないです。
敵が人質を取り、ヒーローは救出。そんな戦闘訓練は、ほぼ敵チームの圧勝だった。一組くらい、無事に人質を救出したヒーローチームもいたけど。ほとんど、ヒーローチームは手も足も出てなかった。当然か。何もできない人質が、敵に首を掴まれていたから。配慮すべきは、人質。それは、わたしも分かる。

「身剣おめぇ、相澤先生に呼び出されすぎじゃね?まだ入学して日も浅いってのによ。どんだけやらかしてんだよ。他の奴らの倍以上、説教されてんだろ」
『確かに!エイちゃんの、言う通りでありんすな。わっちも、よく理由はわかりんせん!しかし。相澤先生のお説教は、とてもタメになるでありんすよ!身に染みる!って感じでありんす。ゆえに、悪いことではない。わっちは、お説教。嫌いじゃございんせん!』
「どこの、花魁だよ。説教好きって、マゾかおめぇは」
『失礼な!エイちゃん!全くもって、遺憾です。わたしには、そんな性癖。ないよ。マゾだなんて。誰が、メス豚だ!許せん!くらえ!!』
「うおっ!?おま、何すんだ!!わき毛引っぱんな!誰も、メス豚とか言ってねえだろ!?」

コスチュームの切島くんは、半裸。なので、露出した脇を狙った。生えているわき毛をつまんで引っ張ると、切島くんは顔を赤くしてわたしから距離を取る。
わき毛を引っ張られるのは、痛いのだろうか。

「何なんだよ、その攻撃…女子にわき毛引っぱられて、俺どうすりゃいいんだ!今、すげえ恥ずかしい。どんな気持ちだコレ。すげえ複雑!」
『ダメージ受けた!これは、一本取ったな。わたし。エイちゃんも、わたしの毛引っぱる?残念ながら、わき毛は生えてないけど…』
「やめろ!バカおめえ!想像しちまったじゃねえか!!」
『なにい!?エイちゃん、それはいけない。何を想像したの?言っとくけど、わき毛なんて生えてないんだから!ちゃんと、ツルツルなんだから。見る?確認する?って…見せるかーい。切島くんのエッチ!!ハレンチ!もう、絶交よ!エッチー!ケダモノ!!うわーん!!』
「おい!?ちょ、身剣!待て!待てよ!!身剣ー!!」

ダッ。泣き真似をしながら走り出すと、切島くんは叫んだ。しかも、追いかけてくる。なぜだ。何故、追いかけてくる!?これは、逃げなければ。鬼ごっこだな?フフン。わたしに、勝てるとでも思ってるのか!逃げ果せてやる!!

『うわーん!ケダモノが追いかけてくるうう。こわーい。キャー!エイちゃんのエッチ!エッチー!エッチ・ハレンチ・ワンタッチー!!』
「やめろおお!おまっ、そんなこと言いながら逃げるな!誤解される!俺がヘンなことしたと思われんだろ!?待てって!なんで逃げてんだおめぇ!?」
『来ないで!いくら迫ったって、無駄よ!なんて言われようが、わたしは切島くんに体を許すつもり、ないよ!!エッチ!やっぱり、最初から…体目当てだったのね!?しくしく!ひどいわ。あんまりよ!愛してたのに!あの言葉は全部、ウソだったのね。愛してるって言ったじゃない!なによ!誰にでも簡単に股開く女だとでも思ったの!?甘言垂れて、わたしを弄ぶつもりなのね。そして捨てるんでしょ!ポイッて。用が済んだら、ゴミの如く捨てるんでしょ。ひどい…絶交なんだから!!』
「うわ…切島、サイテー」
「切島くん、柄叉ちゃんに何したの!?」
「女の子を付け回すなんて…男の風上にも置けませんわ!」
「お、俺何もしてねえよ!身剣が勝手に妙なこと言って逃げてんだって!!」

近くにいた百ちゃんや響香ちゃんたちの後ろに隠れると、切島くんが責められ出した。これは。茶番が、過ぎたか。百ちゃん、響香ちゃん、透ちゃん。三人は、わたしを守るように立ちふさがっている。笑いながら。笑うのを堪えてるのか、プルプル震えてる。百ちゃん以外。百ちゃんは、ちょっとマジになってる。ゴメン、嘘なんだ…。


『失礼いたす!1年A組18番。身剣柄叉と申す者でござる!本日は、相澤消太先生に用があって参上いたした!お頼み申おおす!相澤先生、何処に!どこにいらっしゃいますか。身剣が来ましたよ!』
「身剣。普通に、入れないか?見ろ。他の先生方が、引いてるだろ」

着替えて職員室を訪れると、すぐ隣からそう注意を受けた。
左を向くと、猫背の相澤先生がわたしを見下ろしている。これは、多分呆れている。呆れ顔。

『相澤先生!こんなに近くにいらっしゃったのですか。気付きませんでした。これは。アレですね。ほーら、あなーたにーとーって!だーいーじなーひーとーほど、すぐー、そーばにいるの!ってヤツですね!人間は愚かだ。そんな大事なことにも、気付かないなんて』
「歌うな。愚かなのは、おまえだけだ。場所を移すから、ついて来い」

ぼんやりした目の相澤先生は、くるりと踵を返して職員室から出る。
従って、わたしもついて行く。
これからわたしは、罰則を与えられるのだ。さっき、相澤先生が言っていた。
なんだろう。体罰かな。それは、困る。怖いぞ、中々に。

連れてこられたのは、第二家庭科室だった。ヒーロー科にはあまり、関係のない教室だ。普通科の教室に近い場所にある。料理や裁縫をする場所だ。
何を、するんだろう。まさかとは思うが。相澤先生はわたしを、包丁で三枚におろしたり、みじん切りにして…料理するのだろうか。
それか、布に縫い付けて…アップリケにでも、するつもりか。
家庭科室に入ると、相澤先生は振り返った。
わたしは、ドアを閉める。

「おまえには、これから…雑巾を作ってもらう。枚数は100。ミシンは、使えるか」

ビックリする。ゾーキン?雑巾を作る?百枚?ミシンで?なんだそれは。そんなの…楽勝だ!!

『お任せあれ!なーんだ。それが、罰則ですか?そんなの。お安い御用ですよ!ミシンは、使えます!小さい頃から、使ってきましたので。さながら自分の手足のように、使って見せましょうぞ!なんだ。拍子抜けしました。てっきり。相澤先生は、わたしをステーキにしたり、干物にしたりするのかと。布に縫い付けて、アップリケにするのかと思ってました!よかった。命の保証は、あったんですね。任せてください。100枚くらい、ミシンがあれば余裕ですよ。わたしを舐めないでください!もう。ご立腹ですよ。全く。そんなの、罰則でもなんでもございません。言ってくれればいつでも、やりますのに。さて、やりましょう!相澤先生。ブツは、どこですか!』

ぽつんとテーブルに置き去りにされた、一台のミシン。それの意味を知った。
相澤先生はそのミシンを指差していた手を、ポケットにしまう。口元は、捕縛武器に隠れて見えない。

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