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『ギャアアアアアアア!!たあすけてえええええええ!!敵よおおおおおお!!ヴィランよおおお!!殺されるうううう!まだ!まだ死にたくないんですううう!!家で!旦那が待ってるのおお!今日はすき焼きなのおおおお!!しかも!生まれたばかりの赤子が!赤子が、わたしを待ってるのおおおおお!やめてええええ。赤子から母親を奪わないでえええええ!ヒーロー!!誰かあああああ!!いやあああああああ!!たあすけてえええええええ!!イタッ』
「やり直し。どんだけ演技、ヘタクソだ。いらん設定を付け加えるな」

ベチン!相澤先生に頭を叩かれた。
只今、ヒーロー基礎学。昨日は日曜日で、学校は休みだった。なので、1日挟んでの、戦闘訓練の授業。わたしは、人質役。敵役の爆豪くんと梅雨ちゃんに、腕を拘束されている。それだけの、役。ツマラナイ。
そして、演技がヘタクソだったらしい。怒られてしまった…反省。
自分としては、真に迫っていたと思うのだが。

「おまえはただ、捕まってればいいんだ。見苦しい演技を、しようと思うな。黙って、震えてろ」
『わっかりました。仰せのままに!相澤先生。でも!一言、言わせてください。わたしは真摯に、人質役をやったつもりでしたのに!わたしが人質になったら、同じことを叫びますよ。つまり!何が言いたいかと言うと。わたしは、ふざけてないです。相澤先生、オイラがふざけたとお思いでしょう?否!わたくし、至って、真面目でごわす!!』
「どこが、一言だ?それに身剣。おまえには、旦那も子供もいねえだろ。追い詰められてあんな嘘八百叫び散らすようなら、いよいよおまえはイカれてるぞ」
『意味があります!アイ、ハブ、ミーン!ズバリ!敵の同情を引く、作戦です!同情を煽り、解放してもらうのさ。わたし、賢明ではござらぬか!?いい、考え!どう?かっちゃん、梅雨ちゃん!わたしのこと、解放したくなったでしょ?』

後ろにいる敵チームを振り返る。ここは、ビルの室内。相澤先生とわたしと敵チーム以外のクラスメイトは、別室で観戦しているらしい。
かっちゃんくんの目尻が釣り上がる。ウヒョ!怖い。

「ンなわけねェだろアンポンタンがァ!!ぶち殺したくなったわ!!」
「正直、締め上げたくなったわ。ケロ」
『ケロ!?か…かんわいい!ケロって…カワイイの極み!梅雨ちゃんになら、何されてもいいよ。甘んじて、受けるよ。拉致監禁して、好きなようにしてください!あなたの従順なシモベになりましょう!』
「身剣。また、居残りしたいか?俺の説教が、そんなに好きか」

ぐわし。相澤先生が、わたしの頭を掴んだ。ビックリだ。とても、力強い。
顔を先生の方に無理やり向かされて、覗き込まれた。ギロリ。眼光の強まったドライアイに、睨まれる。近い。血走った目が、ものすごく近い。まつ毛が、よく見える。
わたしは、カエルだ。蛇に睨まれたカエル。梅雨ちゃんを差し置いて。身の程知らずでした。

『相澤先生の、お説教。嫌いじゃないですよ!ありがたいですもの。とても、胸に響くお話であります!そうであるからして。居残りも、吝かではないです!ですが。その前に、手を離してください。そんな、無理やりしなくても。言ってくだされば、いくらでも見つめますので。手を離してくださいませ。殿!それと相澤先生!顔が近いですよ。近いと思いませんか!?よくないですよ。これは。ドキドキします!ちょっと、わたしがその気になれば。唇を奪えますよ。チューしますよ!これは、脅しです。脅迫ですよ!さあ。離れてくだされ!適切な距離に。さもなくば、接吻です。わたしのファーストキッス、欲しいですか!?』
「いらねえよ。金積まれても、いらん。んなことしてみろ。締め上げて、除籍だ」

それは、困る!
相澤先生は、弾くようにわたしの頭から手を離した。押すように。その衝撃で、地面に座っているわたしの体は後ろに倒れる。手は、縛られている。
ぐらり。倒れた。が、地面に背中が着く前に、背後に立つ誰かの脚に支えられた。見上げると、股間が見えた。男の子の。これは、爆豪くんだった。股間のさらに上に、わたしを見下ろす爆豪くんの顔が見える。不機嫌そうな。
わたしの背中を膝で支えてくれた爆豪くんは、優しいみたいだ。転ぶのを阻止してくださった。わたしは、いい友達を持った。

「爆豪と蛙吹は、身剣に耳を貸すな。こいつが何言っても、無視しろ。身剣は、戦闘訓練の邪魔をするな。そのつもりがなくても、俺が邪魔をしたと判断すれば。放課後、居残りで罰則を与える。じゃ、俺が出てったら再開だ。2分後に、ヒーローチームを突入させる」

罰則。恐ろしい響きだ。
相澤先生は、部屋から出て行く。爆豪くんは、わたしの背中を押し返すように膝を曲げた。
背もたれがなくなったので、普通に座る。両手を後ろで縛られているので不便だ。

『んん。顔がかゆい。腕を縛られるのが、こんなにも不自由だとは…理解が及ばなかった。これからは、縛られている人にもっと優しくしよう!かわいそうだもんね。ああ、かゆい。髪の毛があたって、かゆい!ムカつく!こんな拘束、個性使えば一発で抜け出せるのに。相澤先生め!おのれ、相澤消太先生め!人質役は個性の使用禁止なんて。酷いルールだ!鬼畜極まりない。かゆい!』
「テメェ、うるっせんだよ!ちょっと、黙ってらんねェのか!?」
「柄叉ちゃん…どこが痒いの?掻きましょうか?」
『梅雨ちゃん!なんて優しいんだ、きみは。女神ですか?女神、降臨したか。ついに!待ってました。あのね。左のほっぺたの、真ん中あたりが痒いんだけど。髪が当たってさ。は!だ、だめだ。ダメだよ梅雨ちゃん!わたしと話したら、相澤先生に怒られるよ!無視しなきゃ。かっちゃんくんのように。わお。掻いてくれるの?ありがたい!そこだよ。的を射るとは、このこと!イイネ!ありがとう梅雨ちゃん。治ったよ、痒いの。よかった。ありがとう女神よ!』

梅雨ちゃんが、しゃがみ込んでわたしの頬を掻いてくれた。爆豪くんには怒鳴られたが。ありがたや。
お礼を言うと、梅雨ちゃんは立ち上がって離れていく。もうすぐにヒーローチームがやって来るからだ。ヒーローチームは、轟くんと瀬呂くん。人質であるわたしを救けに来てくれる。
それにしたって、暇だ。人質役は、もどかしい。何もしてはいけないらしい。個性禁止。ただ、動くのはアリらしいけども。個性を使えないんじゃ、何もできない。立ち上がって回し蹴りをしてもいいけど。手が使えないので、バランスは取れない。
さっき、爆豪くんに腕をギッチギチに縛られた。麻の布で。わりと、痛い。爆豪くんは容赦なかった。ギッチギチである。
しかも、心なしか楽しそうだった。わたしの腕を背中で拘束する爆豪くんは。何故か、イキイキしていた。
そういうシュミなの?と尋ねたら、思い切り頭突きされた。なので。実は、未だにおデコが痛いのであった。多分、赤くなっている。

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