16
あ相澤先生に叱られてしまった。
どうやら。敵や鉄の肌を持つ人間であっても、急所を狙うのはあまりいい事ではなかったらしい。
殺すな。と言われた。
青天の霹靂。そうか。省みた。そして鍛錬。相澤先生との鍛錬は、とても楽しかった。有意義な時間でした。
「あら。柄叉さん、髪に跡がついてますわ。寝癖かしら?」
制服に着替えて教室に入ると、百ちゃんに言われた。
百ちゃんは不思議そうな顔でわたしの髪を見ている。
跡。寝癖。なるほど。
『おそらく、髪を縛っていたので。その跡だと思われる。実を言うと。さっきまで、ポニーテールにしておりました次第でござる』
「そうなの…なら、私が直して差し上げますわ!ほら、座って。ブラシとドライヤーを創りますから、少しお待ちになって」
おお。百ちゃんは、強引だった。
肩を下に押し込むように、椅子に座らされる。
別に直してくれなくていいけど。まあ、やってくれるというなら。吝かではないよ。
ありがたいです。
百ちゃんは、わたしの後ろに立っている。生き物以外の万物を創り出す個性で、ドライヤーとブラシを創るそう。
百ちゃんの個性は、すごい。もうすんばらしい。強い。しかも、賢い。百ちゃんは、いつも賢明。
「では!失礼しますわ」
『よろしく美容師さん!フトドキモノな髪の毛だけど。なんかテキトーにイイカンジにしておくれ。リーゼントとか。頼むぜ大将!』
「任せてください!」
百ちゃんの手が髪に触れる。ちょっと、ビックリしました。
後ろから機械音。多分、ドライヤー。創るの、早いな。
熱風が後頭部に浴びせられる。暖かい。温かい。どっちでしょう。
髪の毛にブラシを入れられる。少し、心音が乱れました。目を瞑る。相澤先生のお説教を思い返して、よし。と思う。
ヒーローになれないと言われた。
それは、困る。
なので、飲み込む。先生のありがたいお説教を飲み下して、活かす。人を殺さないようにしましょう。峰打ちを心がけましょう。ハイ!先生!
「柄叉さんの髪の毛、いい香りですわ。シャンプーは、何を使ってらっしゃるの?」
『いやいや!くさいよ。わたしの髪なんて。くさいでしょ。濡れた犬みたいな匂いするでしょ。なにそれ。くさそう。不愉快だ』
「いえ、すごくいい香りですわよ。何言ってるの、柄叉さん」
『質問に答えよう!それがし、シャンプー及びリンスはね。メリットだよ。水色のヤツ!小学生の時から、ずっとメリット。メリット一筋。メリットはいいよ。安いし。安いし、安価だし。ピュアソープの香りだよ!それ、なんかいい匂いしそうだよね。純粋な石鹸。なんだそりゃ!わたしには、わかりかねる。純粋な石鹸とは、なんだ。言葉遊びも、大概にしてほしいよ!』
「ピュアソープ!確かに、石鹸のような…ほのかに甘い香りですわ。柄叉さんにピッタリ」
ピッタリ?それは、いい意味か!
ありがとう百ちゃん。百ちゃんこそ、毎日いい匂い。癒されてます。
ドライヤーの熱で温まった髪の毛が、頬に触れる。
眠気を催す。暖かいと、眠くなる。
なんだか髪の毛が、サラサラになっている。いつもよりトゥルットゥル。
これが。これが、かの有名な…キューティクルというやつか!
すごい。初めまして。多分、今日でお別れ。
ヘアケアは、興味ナイ。リンス?トリートメント?は、してるけど。乾かして、寝るだけです。
おやすみなさい。
「おはよう」
朝のHRの開始時刻きっかり。相澤先生が、教室に現れた。
さっきぶりの相澤先生。そういえば、炊き込みご飯のおにぎりを食べてくれた。それには驚いた。先生、ご飯食べるんだね。
まじめに席に着くクラスメイトたちが、口々に「おはようございます」。わたしは今日もまた、出遅れた。
『おはようございます!』
「ズレるな。挨拶くらいは、足並み揃えろ」
ワンテンポ遅れたわたしの挨拶に、相澤先生が言う。
ギロリ。ドライアイと目が合う。
目つきが悪い。怖いです、先生。
教卓で相澤先生が喋り始める。昨日の戦闘訓練について。緑谷くんと爆豪くんが叱られた。
彼らは仲間だ!間違ったのは、わたしだけじゃない。
相澤先生は同じこと言うのが嫌い。朝も聞いたそのセリフ。
「さて、HRの本題だ。急で悪いが、今日は君らに…」
話が変わった。クラスのみんなが、身構えるのがわかる。
なになに。今日はわたしたち。なに。もしかして、相澤先生の好きなアレ?臨時なテスト!
血が騒ぐ。臨時テストは、嫌いじゃないです。意表を突かれるのは。新しくて、いいです。
「学級委員長を決めてもらう」
えーっ。なんだ。なるほど、真っ当。どうやら相澤先生のことを少し誤解していた。相澤先生は、ビックリ人間ではないみたいだ。
ハイ!ハイハイハイハイ!と。みんなが一斉に挙手しながら「やりたい」と言う。
人気のオシゴトだ。学級委員長。そして例に漏れず。わたしも、やりたいです!
『滾る!わたしもやりたい。学級委員長。ガッキューイインチョー!カッチョいい!大統領だ。言わば大統領。わたしが大統領になります!!』
「いや身剣はダメだろ!!」
隣の瀬呂くんに言われた。
ダメとは。わたしにはその権利、なかったのか。確かに、考えれば面倒だ。
こういうのは多分、わたしに向いてない。向いてるのは、ほら。
今向こうで「投票で決めようではないか!」と仕切っている、飯田くんとか。彼は学級委員長にお誂え向き!そう。アレには、眼鏡が必要。
『よおし。そうと決まれば!委員長には眼鏡が必要。となれば。身剣柄叉、飯田眼鏡くんに一票!』
「どんな投票理由だ!俺に入れろテメェ!!」
宣言したら、爆豪くんがぐりんと振り返って怒鳴ってきた。
カルシウム。カルシウムを与えなくては。
『待って。タイム!かっちゃんくん。よく考えてみなよ。学級委員長だよ。ガッキューイインチョー!それは、眼鏡が必要不可欠。裸眼のキミには、ムリだよ!』
「眼鏡なんざ関係ねェだろふざけんな!!」
『そうだ!かっちゃんくんに、教えて差し上げる。教えたいことがあったんだった。あのさ。カルシウムが豊富な食材をね。かっちゃんは、煮干しとか。煮干しとか、積極的に摂取した方がいいよ!うん、それがいい。爆豪くんはさ。イライラするのはよくないよ。ストレスが溜まると、死んでしまうからね。まだ死にたくないでしょ?あなたは死なないわ!わたしが守るもの!!』
「誰がテメーみたいなザコに守られるか!死ね!!」
『ヤダ!!』
「はぁ!?口答えすんな!!」
『死にたくないです!死んでたまるか!!勝って、故郷に帰るんだ。そう、フルサトに。カントリーロード!このみーちー。ずーうーとー、ゆけばー!あーのーまちーにーつづいーてーるー!気がすーるー!カントリーロード!!』
「テメーどうやって適性試験受かったんだ!?雄英の適性試験はザルかよ!!?」
ザル!かっちゃんくんは面白いことを言う。
学級委員長は投票の結果、緑谷くんに決まった。3票も勝ち取ったのだ。スゴイ!
副委員長は百ちゃん。悔しそうで、カワイイ。
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