13

『おやおや。かっちゃんくんではありませんか。どうしたの?そんなに急いで。は…!もしかして、オールマイトにサインを貰いに行くの!?させるか。抜け駆けはよくない。そうだ。わたしもお供しようではないか!お腰につけたきびだんご、おひとつわたしにくださいな!』
「るっせェ。帰るんだよ、邪魔すんな」
『かえる。カエル?ゲコゲコ!かえるぴょこぴょこみぴょこむこ…噛んだ。失敗。いいえ。そんなことより、かっちゃんくん。これからみんなで戦闘訓練の反省会をするそうだよ。参加しないの?傘下に入らないの?』
「んなくだらねェことに付き合ってられるか。退け!」

ドアの前。ヒーロー基礎学を終え制服に着替えてトイレに寄って教室に戻ってきたら、帰り支度を済ませた爆豪くんと邂逅した。
彼はどうやら、ご機嫌ナナメ。いつもよりもトーンが低い。ドンと肩を押された。

『別れは笑顔で飾るもの。わたしは泣かないよ。さようなら爆豪くん!また会う日まで…かっちゃんのこと、忘れないから!』
「明日会うだろが!うぜェんだよ話しかけんな!!」
『御意!』

わたしを通り過ぎて、爆豪くんは去っていく。
さっき緑谷くんに負けたのがそんなにショックだったのだろうか。なんだか放心している。二人には因縁があるのかも。確執。執着。

「柄叉ちゃん、さっきスゴかったね!時代劇の侍みたいだった!お侍さん!」
『お茶子ちゃんそれは!それは最高の褒め言葉。嬉しい。歓喜します!ところが、お茶子ちゃんこそ。お茶子ちゃんこそ、スゴかった。いい個性だ!空を飛べる。浮ける。憧れる。憧れるとも。わたしも空を飛んでみたい。フライアウェイ!雲になるのさ!』
「雲に!!確かに捉えどころが無いって意味では、柄叉ちゃんは雲っぽいよ!」

椅子に座るとお茶子ちゃんが来てくれた。麗らかな時間。いい。癒される。
お褒めに預かり光栄。欣喜雀躍。

「剣道とか、練習してるの?」
『きみ、それはいい質問だ。掻き立てられる!今は昔。剣道も、かじったよ。昔。小さいころ、やったことある。けども、実践向きじゃない。アレは、スポーツ。メーン!コテ!楽しかったあの頃を思い出します。防具の匂い。吐き気を催すでござる』
「ブハッ!ござる!アハハハ!!」

何故か爆笑のお茶子ちゃん。謎のツボ。笑いのツボ。
かわいいから、許すよ。
あなたは癒し。全人類の宝。トレジャーだから、ハントされるかもしれない。その時は、わたしが守る!

「つーか。身剣に回し蹴りされたとこ、すげー痛いんだけど」

隣の席の瀬呂くんが言う。顔を引きつらせている。
そういえば、さっき彼を蹴ったのだ。

『すみませんでした!ホントすいまっせん!骨折れた?折れてない?保健室行った?行ってない?リカバリーガール殿の元へ行こう!ほら。歩くのもお辛いでしょう。わたしがおぶって参ります、ささ!』
「いや、大丈夫。そこまでじゃない。しかも、身剣みたいな小さい女子におぶられるのは、プライドの問題でムリ」
『小さいですと。これは困った。くまったくまった。そこまで小さくないんですが、おいどん。女子として、フツーのサイズであります。セロくん。さっきは戦闘訓練とは言え、蹴り飛ばして申し訳なかった。お悔やみ申し上げます!仕返ししてもいいよ。ほら、来いよ!ここにパァンと、回し蹴り炸裂させてさ。ほら、脇腹ガラ空きだから。ね。それで気が済むんでしょう?あなたっていつもそう!暴力は暴力しか生まないんだからね!!』
「誰か。こいつどうにかしてくれ!」

カモン!と思いながら自分の脇腹をポンポン叩いて立ち上がると、瀬呂くんは何故か周りに助けを求めた。
どうしたんだ。A組は変な人ばかりだ。


(相澤視点)

「相澤くん!コレ!A組のさっきの戦闘訓練のV!編集してないけど!!」

オールマイトが後ろで言う。もう少し要領を得た話し方はできないのか。
椅子に座ったまま振り返ると、トゥルーフォームのナンバーワンヒーローが立っていた。

「どうも」
「しっかし、面白い子ばかりだな。君のクラス!それに粒揃いだ。皆、真摯に取り組んでいたよ」

戦闘訓練のVTRを受け取る。粒揃いね。そう思うのか。
オールマイトは緑谷が怪我をしたことや、爆豪の自尊心がどうのこうの。轟がどうの。八百万がどうのと、聞いてもいないことを喋り続ける。
シカトして仕事を進める。

「そうだ。身剣少女なんだが、相澤くん」
「…あいつがどうかしましたか」
「いや、どうもね。あの子はどうも…危ういと言うか。すごい目をするんだよ。何かに個性を向ける時。ハイになっているというか…まあ、V見てもらえればわかると思うけど…何かあるのかい、あの子」

オールマイトの神妙な顔つき。ため息が出た。
何かやらかすのではないかと思った。身剣の、戦闘への拘りは容易く見取れる。
あれに戦う場を与えて、何事もなく終えるとは思えなかった。
何をした。オールマイトの様子からして、そこまで大事でもないようだが。何かが、わずかに引っかかっただけであろう。
何かあるのか。その問い掛けは、身剣が普通ではない原因を探っている。

「戦いを知らない子供の目。では、ないよアレは。確実に相手の急所を狙っていた。動き回る対象に対して、見事に。相手が切島少年でなければ、即死だった。まあ、切島少年の個性を知っていたから、ああしたんだと思うけどね」

俺はまだ見ていないが。戦闘訓練中の身剣の身の置き方は、目に余ったのだろうか。
まさか、入試のロボにしたように、刀を振りかざし一撃で息の根を止めようとでもしたのか。人間相手に。
身剣の戦闘相手は切島だったらしい。身剣にとっては、武の悪い。相性の良くない個性だ。
オールマイトの報告は、身剣が切島を殺そうとしていた。と聞こえる。殺意はなかったのだろうとフォローはしているが。

「いくら個性で硬化していて、刀が通らないからといって。クラスメイトの首に、刃をぶつけられるものかな。驚いたよ。何の躊躇いなく、首を掻っ切るんだからね」

本当に、相手が切島でなければ確実に死ぬようなマネをしたらしい。
倫理観。思慮に欠いている。大きく足りない。欠落と言える。身剣に足りないものはそれだけに止まらないが。
いくら物理的に傷付かない相手だからといって、普通はしない。戦闘訓練であっても、普通は躊躇うだろう。
もし切島が硬化を止めたら。硬化できない箇所があったら。それらを逡巡すべきだ。


『目や口の中も、硬化できるの?』

ぞっとする。なんて目をしてやがる。
戦闘訓練のV、カメラに記録された映像の中で、身剣は刃の先を切島の眼球に突き立てた。決着の間際。オールマイトの勝利宣言が、あと一秒遅れていたら。切島の目に刀が差し込まれたのだろうか。
PC画面の中の身剣は、和装でひらりひらりと舞っていた。次の動きが読めない。切島の猛攻をいとも容易にかわす。瀬呂を蹴り飛ばす。ペアの耳郎については、ほぼ意に介さない。
戦い慣れしすぎだ。場数を踏んだ者の動き。どこで身につけた。
そんな環境はどこにもなかったはずだ。

私怨で単独行動、行きすぎた暴行を緑谷に加えた爆豪。
切島の個性が硬化と知るや否や、シャレにならない部位ばかりを打撃し続けた身剣。
不必要な暴行。クラスメイトを平気で痛めつけるという共通点。
戦闘における圧倒的なセンス。
こいつらは類似している。
が。爆豪には私怨があった。膨らみすぎた自尊心。緑谷に執着している。
身剣には何もない。昨日、グラウンドで切島と仲良くやっていた記憶がある。
厄介だな。ヒーローとして敵である切島、瀬呂を嬲る身剣の目は、ギラリとしている。
平生のぼんやりとした目とは打って変わって。純粋だ。獲物を捕らえ逃がさない猛獣のような。その個性に似た色だ。
「危うい」オールマイトの懸念は理解に難くない。
今一番、ひっくり返る恐れのある生徒。身剣だ。ヒーローは、裏を返せば。ひっくり返れば何になるかは、誰だって知っている。
あいつは敵に近い。
クラスで最も凶悪であると言える爆豪よりもはるかに。
除籍は無理だ。あいつはアレでヒーローになるつもりでいる。
放り出せば恐らく。雄英から敵を排出する訳にはいかない。
あいつを矯正するのは、骨が折れそうだ。骨折り損のナントヤラ、になりそうならば、その時は諦めるが吉。
俺の手に負えないようならば。夢半ばであっても、切り捨てるしかない。

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