12

2戦目で、轟くんがスゴイ人だと判明した。
最強の個性だ。個性二つ持ち。痺れる!

そして3戦目。ようやくわたしたちの出番。
対戦相手は、切島くん瀬呂くんの敵チームに決まった。
2人の個性はイマイチ把握しきれていない。まぁ。それは向こうも同じ。
尽力、そして勝利!

『突入!出てこい敵。そなたらは完全に包囲されている!出てきなさーい。田舎のお袋さんが泣いてるぞ!敵にするために産んだんじゃないって、泣いてるぞ!!この親不孝者め!!』
「柄叉、多分敵チームに聞こえてないから」

5分待ってビルに潜入。
5階建てのビルの見取り図はざっと覚えた。どこにいるんだ、敵チーム。
御用にしてくれよう!!

響香ちゃんが、イヤホンジャックみたいな耳たぶを伸ばして、壁にプスリと刺した。
便利。彼女の個性は強い。心音を爆音でお届け!内部破壊。小さい音も手に取るように。地獄耳!

「…5階にいるね。二人とも一緒。核のあるフロアに、瀬呂が個性のテープを張り巡らせてるみたい。作戦会議、聞こえる」

優秀。響香ちゃん、スゴイ。音を拾うプロ。潜入して数十秒で、敵の居場所を突き止めた。いいペア!くじ運、最高です。

「ウチらは、どうする。正面突破?は、ムリかな。5階まで行って、ウチがスピーカーから爆音流してもいいケド…それだと柄叉も、動けなくなるか」
『それで行こう!わたしは大丈夫だよ。心配ご無用。ノープロブレム。セロくんのテープも、問題ないと思われる。多分。動きの鈍った敵を、わたしが仕留めるよ!』
「仕留めるって…物騒な。ていうか、さすがに2対1はムリでしょ」
『響香ちゃんは様子見て、加勢してくださると嬉しい。自信はある。まずは様子見。わたしが2人引き付ける。無理なら、一旦離脱。モチロン怪我は最小限に!ストップかけられると、残念極まりないから。よし行こう!ウイアーヒーロー!レッツ捕獲!!』
「静かに!」

響香ちゃんに叱られた。クラスメイトに叱られるとは。反省。省みよう。

「そういえば。柄叉の個性、どんなの?見たことないけど。それ踏まえて、作戦練った方がいいかも」
『よくぞ聞いてくれました。お見せしましょう!わたしの個性、コレ。ほら。刀。日本刀です。手のひらから、刀が生えます!大抵のものは貫きましょう。大抵のものは斬りましょう。スパーン!バリバリの、接近戦向け。近距離戦闘を得手とします!得意技は、マグロの解体。魚を捌くことにおいては、わたしの右に出る者は寿司職人と漁師だけ!ちなみに両手から生えるよ。両刀使い、身剣柄叉です。チャンバラはおまかせあれ!』

手のひらから刀を出して見せびらかす。
響香ちゃんは、わたしの手のひらと刀の境目を指でちょんちょん突ついた。刀の生え際。
ちなみに。刀が生えてくるときに手のひらの皮膚を貫通するけど、痛くないよ!

「把握した。なら作戦、変更する必要ないかな。ホントにいける?相手、男子2人だよ」
『それはやってみてのお楽しみ!スリル満点。無理そうなら、退きます。人生は冒険。何事も挑戦。行き当たりばったりの人生です!』
「それで捕まったら、ウチ取り残されんじゃん。即確保されたりしたら、今度パフェ奢ってもらうから」
『そ…それは。それはまさか。放課後に友達とファミレスへ行くという、アレ!放課後デート。寄り道!是非!是非お供させてください。奢りますとも。確保されずとも、好きなだけ奢るよ!』
「いや奢んなくていいし…普通に遊び行こうよ」
『見返りもなしに?わたしと放課後を共にしてくださるなんて。もしや、あなたは神?こんなところで会えるなんて。これが友達!素晴らしい。生きててよかった。生まれてきてくれてありがとう!わたし!!』
「大袈裟すぎでしょ…アンタ今までどんだけさみしい生活送ってたの……」

響香ちゃんが呆れた顔をする。
痛いところをつかれた。でも今となっては!今、ここは天国。天国にも勝る。
毎日が楽しいです。高校生になってよかった。


『敵発見!こんなところにいたのか悪党共。御用改めである!神妙にお縄につけい。何?つかないって?なにを!!よくもおかっさんを。おかっさんの仇!成敗してくれるわ!!』
「変な設定付けんな!」
「おまえのおかっさんを手にかけた覚えはない!」

5階に到着。フロアには、瀬呂くんの個性だというセロファンのようなテープが張り巡らされていた。
蜘蛛の巣とか。映画でよく見る赤外線センサーみたいに張り巡らせてある。
フロアの奥、張り巡らされたテープの向こうに核兵器のレプリカと切島くんと瀬呂くん発見。
反論してくる2人は、こっちに来る様子はない。
ふむ。防衛戦。

『こんなことして何になる。田舎のお袋さん、泣いてたぞ。敵にするために産んだんじゃないって…今ならまだ間に合う!人質を解放して自首しなさい!』
「人質なんかいねェだろ!!」
「自首て!戦闘訓練で敵を説得する奴があるか!」
『セロくんのテープ、粘着力すごいね。ベトベトだよ。不快!あ。でも、ほら見て。垂直に斬ったら、刀にくっ付かずに切れるよ!豆知識!これは布教せねば。テープは、垂直に切ればくっつかない!』
「俺のテープ攻略された!!」

とりあえず、目の前のテープを切ってみた。
手のひらから出した刀を垂直に落とすと、スパッと切れる。気持ちいい!
テープ攻略。張り巡らされたこれをどうにかしないと核どころか敵に近づけなかったので、進展。

「手のひらから刃物が生えてくる個性…ってことか!身剣は」
「つーかもう一人は!?」
『響香ちゃんはわたしが守る!と言いたいところ。本来なら。ところがどっこい、今は共闘中なので。響香ちゃんは、作戦によりここにはおらぬ!!どこかしらにいる。多分、いる!』
「把握してねえのかよ!!」

響香ちゃんならわたしの後ろにいる。壁に隠れているのだよ!
タイミングを見計らって、君たちに爆音をお届けしてくれるのさ。ついでにわたしも被害を被るわけだが、吝かではない。必要な犠牲!世は犠牲で成り立っている。

「ゲッ、余裕でテープ斬りまくって来るじゃん!」
「刀さばきヤベェ!!」

とりあえず、接近しないと意味がない。
わたしの個性、近距離戦闘専門。
張り巡らせてあるテープ。刀を垂直に落とし続け、道の開けたフロアへ駆け出す。
スパスパスパスパ。テープが切れて床に落ちる。気持ちいいです、瀬呂くん!

バクン!!バクンバクンバックン!!
突如、地を割るような爆音がフロアに響いた。
驚く。あ、響香ちゃんの個性だ。彼女がスピーカーに繋げた耳たぶから、自身の心音を爆音で流している。
思ったより、大きい。まさに爆音。鼓膜が心配。

「!!るっせ…!!」
「鼓膜裂けちまう…耳郎か!!」

距離の詰まった切島くんと瀬呂くんは、耳を抑えて前のめりになった。
突然の爆音に狼狽。チャンス!

「うおっ!!」
『!』

テープを片っ端から切り終わり、次のターゲットは切島くん。近くにいたので。
途中目が合ったから、避けられると思いながらも、手のひらから生えた刀を握って突っ込んだ。
ガキィン!!振り被ったわたしの刀を、切島くんが右腕で受け止める。
普通なら貫通して腕が落ちたはず。だが、彼の腕はガッチガチに硬化され、わたしの刀を弾いた。
スゴイ。硬化の個性だ!強い!

『硬いなぁ。スゴイ。スゲーやエイちゃん!普通なら、落ちたよ。切り落とされたはずですのに。ポトッて!硬化だ。イイネ!相性がいい。わたしと相性バッチリ!どれだけ斬っても斬れない。貫通しないというのは。ステキなお相手!今度鍛錬に付き合って欲しい。お頼み申す!いい返事を期待してます!!』
「おまえの刀こそ、今ので折れねえなんて硬いな!!いいぜ、練習相手。いつでもなってやるよ!」
『これは。これはいい人!知ってました。知ってたけど。エイちゃんは素晴らしい。ベストフレンド!!もーう!だーいじょうぶーしーんぱーいなーいとー!なーきーそーうーな、わたしーのそーば、でっ!!』
「うがっ!!」

切島くんと腕と刀で押し合いしていたら、背後に瀬呂くんが迫ってきた。ので、身を翻し、回し蹴り。
わたしの右脚は見事。瀬呂くんの脇腹に命中!
瀬呂くんは数メートル向こうへ飛んで行った。床に落ちたテープに絡まっている。
響香ちゃんの爆音の中、会話は難しい。声を張り上げていたので疲れた。
切島くんがわたしに左腕を伸ばしてくる。その手には確保テープ。
右手の刀で、彼の左腕を強く弾く。隙が出来た!
床に手をついて、刀で切島くんの足を払う。切島くんはバランスを崩す。
その隙に。素早く彼の背後へ移動!瀬呂くんは自身のテープに苦戦中。

「速ッ…!!」

何か呟いた切島くんの首に刀をぶつける。ガキィン。横へスライド。ガギギギ。普通ならポトリ、首が落ちたはず。さながら江戸時代の介錯。処刑。首を跳ねよ!
しかしそこは硬化で切島くん。見事に、刃は肌に通らない。
硬質と硬質がぶつかって、ガキィンと高い音がするだけ。うーん。埒があかない。
切島くんの腕が伸びてくる。捕まるわけがない。緑谷くんじゃないけど。戦闘中の立ち回りには自信があるよ。

ガキィン。ガキィン。ガキィン!!
ギギギ。ガギギ。ガギギギ!!
ダメだ。切島くん、硬い。強度スゴイ。刀が通らないとは。鉄かな。
どこを斬ってもムダ。頭、首、脇、背中、お腹、脚、腕。全部斬った。しかし全部ガキィン!跳ね返される。
鍛錬相手には相性バッチリ。戦闘相手には。相性、サイアクでしたか。

『切島くん!セロくんはいいのですか。自分のテープに絡まって一人悶えている彼は。あなた様の相棒!放っといていいの?ああ。そうだ!セロくんなら。エイちゃんは斬れないけど。セロくんなら、斬れるよ!先にあのお方を捕らえよう。タラララッタラーン!確保テープ〜!』
「ドラ○もんが秘密道具出すときのメロディ奏でるな!!」

詳しいツッコミ、ありがとう!
切島くんが捕まえようと伸ばしてくる腕から難なく逃れる。地面でジタバタしている瀬呂くんのところへ向かう。
しかしその前に。壁に隠れていた響香ちゃんが、フロアに出てきてソロソロと核兵器に歩み寄っているのが見えた。
ナイス!計画通り。わたしが敵を引きつけてる間に、響香ちゃんが核兵器にタッチ!恙なく進んでおります。

「おい瀬呂!起きろおまえみじん切りにされるぞ!?」
「いやテープが絡んで!切島頼む!!」
「身剣!瀬呂は生身なんだぞ、おまえのその刀で斬ったりしたら!大怪我しちまうだろ!!」
『それは。それは、おまえの相手は俺だ!ってやつ?カッコイイ!男らしい!ステキ。少年マンガみたいだ。いい心意気。尊敬する。ところでエイちゃん。切島くんは、目や口の中も、硬化できるの?粘膜ですが』
「は…!?」

振り返って切島くんに手を伸ばす。
顎を掴んで刀を口に押し付けた。フム。唇は硬化されている。
突き飛ばそうとしてくる切島くんの左腕を避ける。
次。目。目ん玉。
右の刀を伸ばす。見開かれた切島くんの左目へ。

[ヒーローチーム!ウィーーーン!!]

ピタリ。耳の小型無線から聞こえたオールマイトの叫び声に動きを止める。
刀の切っ先は切島くんの眼球の手前。あと数ミリの距離。
目は硬化出来ないのかな。刀を手の中にしまう。

「え…え!は!?耳郎!?いつの間に!!」
「柄叉がアンタと瀬呂引きつけてる間に」

核兵器にもたれ掛かっている響香ちゃんが、スピーカーから耳たぶを抜く。
やっと爆音から解放されました。安堵。わたしたちの勝利!
切島くんと瀬呂くんは響香ちゃんの存在に気づかなかった様子。作戦成功。御礼。

『響香ちゃん!やったぜ。わたしたちの勝ち!アイムウィナー。ウイアーウィナー。勝利を手にしました!ちょっと耳に爆音攻撃の名残が。ありますが、問題ない。いい気分!勝ち組。エイちゃん、セロくん。いい戦いだった!敵ながらあっぱれ!戦いは終わった。祝杯をあげよう。カンパーイ!』
「身剣おめぇ、すげェ強かったな!また今度、約束通りトレーニング付き合うぜ!」
「おーい!終わったなら救けてくれよ!!」

切島くんとハイタッチ。喜びを分かち合う。いい友達を持った。切島くんはアツイ。
瀬呂くんは未だに自分のセロテープに囚われてジタバタしている。
響香ちゃんと切島くんと一緒に、彼の体をがんじがらめにしているテープを剥がす。
人助け。いい響き!
ヒーローとして勝てた。これは身に余る光栄!


「さて講評だ!3戦目のベストは、勝ったヒーローチームの2人だな!身剣少女と耳郎少女!何故だかわかる人!!」

モニタールームへ戻り講評のお時間。
オールマイトの問いかけに、百ちゃんがビシリと挙手した。

「切島さんは、柄叉さんとの戦闘で手一杯で周りに目を配ることができなかった。瀬呂さんは、柄叉さんの背後に回り油断した結果返り討ちにされ、ご自分の個性により身動き出来なくなった。実質2対1で、情けないですわ。柄叉さんと響香さんは、予め立てた作戦を恙なくこなし勝利。ヒーローチームは、最後まで余裕が見られましたわ!」

百ちゃん、スゴイ。すごい言う。先生みたいだ!
褒められてしまった。感動。心が震えます。
ヒーロー基礎学。戦闘訓練、楽しかった。非常に身になる。個人的な鍛錬とはやっぱり違う!対人というところなんか最高。
道を歩いてる感じがする。ヒーローへの道を!素晴らしい成果。成果に期待大。
しかしこの時まだわたしは知らない。明日、相澤先生に叱られるということを。

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